~現実~
「次は『雲城高等学校前』です。お降りの方はボタンを押してください」
バスのアナウンスが聞こえた。
はっきりしない意識の中、草薙世奈はゆっくりとまぶたを開いた。
走るバスの窓越しに見えたのは白く光る校舎。
「次は『雲城高等学校前』です。お降りの方はボタンを押してください」
二度目のアナウンスで彼はボタンを押し、バスから降りるため荷物をまとめる。
プシュ~
気の抜けてしまいそうな音とともに少しの振動がおとずれ、バスが止まった。
草薙世奈は荷物を肩にかつぎ、ゆったりとしたペースでバスから降りる。
彼の姿は、彼が目的地とする学校の制服姿で、その校舎と同じくらい真っ白であるのだが、近くを通る人たちは慣れてしまっているのか、どこからかやってきた観光客が目を丸くするくらいである。
そんな視線を気にする風でもなく、彼は目の前に見える白い校舎に向かって歩き始める。
同時刻、たいまつの灯のみが光源である部屋で、藍色のローブを着た(胸のふくらみから一目で女性とわかる)人物と、黒いローブを着た少し背の低めの人物がなにやら作業をしていた。
彼女らはなにやら床に円や六角形などの図形を熱心に描きこんでいるようで、あまりにも集中しすぎているのか周りに小動物が集まっていることにさえ気づいていない。
彼女らの作業はなかなか終わりを見せず、周りの小動物の数が少しずつ増えていく。
「出来たわ! これで完成よ!」
そのまま時間がぎると思われた空間に藍色のローブの中から声が響く。
その声に別の作業に移っていた黒色のローブが反応し、裾を引きずるようにして歩いてくる。
「どう? 完璧でしょ」
藍色のローブが胸を張る。まるで小さい子が絵を描いて「わたしがかいたんだよ」と言うように誇らしげに胸を張る。それに対して、床に描かれた図形を注意深く観察していた黒色のローブは、
「ここの部分はこうしてこうして…………、こう描くのではなかったのですか? 」
抽象的な表現と身振り手振りを合わせて藍色のローブの自信を打ち砕いた。
さらに黒色のローブは追加で数箇所ダメ押しをしていくが藍色のローブのミスがよほど初歩的なミスだったのか、黒色のローブの声はだんだんと怒りを含んだものへと変わっていく。
そしてその声におされた藍色のローブは、とうとう床に手をつき、しくしくと泣き始めた。
「うぅ……、そこまで言わなくても、いいじゃないのよ……。確かに描いてる途中に変だとは思ってたのよ? でも、それだけでしょ? なのに、こんなに言わなくても、いいじゃない…………」
今にも本泣きに入りそうな彼女に黒色のローブは告げる。
「いえ、これでもかなり抑えたつもりなのですが。実際はこの2,3倍はありますよ」
「まだあるの!?」
2,3倍という言葉によって悲しみが一周して元に戻った藍色のローブか叫んだ。
「はい、具体的に言いましょうか?」
黒色のローブの言葉により、とうとう床に図形を描く作業が嫌になったらしく、
「もういやぁ!」
と叫んだ。
そして、せっかく元に戻った感情をもう一度悲しみのそこに落とされた彼女は、涙をにじませながら、部屋から、そして黒色のローブから逃げ出そうとした。
がしかし、あと一歩で部屋から出る、そんなところで黒色のローブにフードをつかまれ、泣き顔を小動物にさらしながら引きずられていった。
結局彼女は黒色のローブに色々指導されながら床の図形を書き直していた。
彼女はせめてもの抵抗をしようと
「この陣の考案者って私なのに……」
と言うも、その言葉も空しく消え去り、黒色のローブには届かなかった。
一方、そのころ草薙世奈はバス停から少し離れたところにある、校舎と比べると若干汚れた校門を脇に、靴箱に向かおうとしていた。
そこで彼は小さな違和感に気づく。
気づくことはあるが、正体が探りにくい違和感。
しかしまもなくして、彼はその違和感の正体にも気づく。
小さな違和感の正体。
それは静寂だった。
彼の記憶に不具合がなければ、いや、不具合があろうとも関係ない。彼の携帯電話が今日は平日であることを告げている。今日は学校の都合で休み、ということもない。今月は学校では何の行事もない。なのに生徒はおらず、白い校舎は妙な静けさに包まれていた。
「誰もいない……」
彼はそうつぶやくしかなかった。
まだプロローグです
これを入れて二つ、計三つのプロローグになりそうです
本編が出せず、ごめんなさい
週一だと言いましたが、早めに出せるよう頑張ります
応援よろしくお願いいたします