崩壊の音・1
私の眠りを妨げるものは何?
静かに眠らせて。
静寂を返して。
*
眠りから目覚める。
日の光が差す部屋らしきところには私1人が横たわっているだけで、他には何もない。
見慣れた土色の壁と床。
私はもそもそと起きあがり首を回した。
何か、音が聞こえた気がしたのに。
やっぱりこの部屋には何もない。
外からも…あんなに大きな音がすることはないし。
それに、その音は耳元で聞こえた気がした。
* * *
私は外に出た。
空は美しい水色を魅せ、太陽をより一層輝かせている。
――地上とは対照的に。
地は汚れた。
私の周囲を取り囲むのは山と積もったゴミ。
ゴミ。
ゴミ。
廃棄された車、自転車、バイク、扇風機、エアコン、テレビ、生ゴミ、プラスチック…。
1つ1つ上げていけばキリがない。
ここはいらなくなったモノを捨てる場所。
役立たずの末路だ。
私はこのゴミ捨て場の中にある廃屋で暮らしている。
使われなくなた建物で。
私も捨てられた。
孤児院で育てられてきたのだが、ある日誰かが話しているのを聞いてしまったのだ。
そこの子ども達は9歳になるまでに引き取り手がなければ、身売りとして売られる、と。
私はその時8歳。
愕然とした私は、夜にこっそり逃げ出した。
行き場もないのに、ただ走った。
そして行き着いたのがここ、ゴミの街。
そういう経緯があって現在に至る。
もう何年もここに1人で暮らしている。
捨てられたゴミの中には、毛布や衣服など、寒さしのぎになるモノも含まれている。
食料はゴミから探したり、私たちのような人を相手に、モノと交換してくれる人からもらったり、…食べなかったり。
生活に最低必要なモノはこんなところでも揃っていたのだった。
私は、昨日モノと交換した乾パンを数個、口の中に放り込むと、ゴミ山を歩いてまわった。
そういえば、昨日は新たにゴミが運ばれてきたっけ。
私はそちらの方に歩みを進める。
昨日はいつもと比べると、粗大ゴミより、小さなゴミの方が多かったようだ。
多くのモノを足がかりに、ゴミ山を登る。
何か、キラと光るモノが見えたような気がした。
光るモノはここにはたくさんあるけど、何だか光が鮮やかだった。
私はそこに身をかがめると、埋もれたゴミの中からそれを抜き出す。
名札だった。
青色をしたプラスチックに白で文字が書かれている。
そこには『篠崎真奈』という名前が書かれていた。
「名前…か」
私は1人自嘲する。
それをゴミの山にまた放ると、首を振った。
名前なんて、とうの昔に捨てた。
孤児院での名前はあったが、好きではない。
あまり良い記憶ではないから。
確か、『美亜』っていう名前だった。