第七話 情報部
次の日の放課後、僕は情報部に向かった。
僕の予定は予期されていたようで、全員がパソコンのマルチディスプレイから身体を起こして僕の方を見詰めた。まず発言したのは黒髪長髪の女だった。
「私はオカルト部も兼部しているムツキ。あなたが、ザ・トリガーね。見る限り、能力が未発達だね。色々と」
「黒木シュンです」僕は本名を言った。
「名前なんてものはどうでもいいのさ。君のその能力のほうが重要。今後どう成長していくのか……とても楽しみだわ」ムツキは断言する。
それに別の少女が割り込む。
「あらお姉さま。そんな言い方って無いと思いますよ。彼は黒木君と呼んで欲しがってるのかもしれないじゃないですか……。私は『耳鳴り』のカエデ。以後、よろしくね」
右手で握手を求められる。とりあえず握手し返しておく。
「私はヤヨイ。カップラーメンという能力を持っている。カップラーメンが食べたくなったらいつでも言ってくれー」
「またまたー。このチームで最強のくせに謙遜しちゃって……」カエデがおちょくる。
「これからチーム『ムツキ』の試験を行う」ムツキは言った。
「ヤヨイ、相手をしてやれ」
「ええー。いきなりカップラーメン使うんですかー。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」
ここに至って僕は、これが僕の戦闘力を測る試験だと気付いた。
ヤヨイの能力が何であれ、それが起動されたら僕は負ける。僕はサイコキネシスで、彼女の手を縛りあげた。えー、なにこれー。彼女の声が聞こえるが、気にしない。
「これじゃカップラーメン使えないじゃん。私の負けだよー」ヤヨイがギブアップする。
「サイコキネシス、か。汎用性が高い能力ね」ムツキが冷静に分析する。
「噂じゃ、銃弾の軌道を曲げて百発百中なんだって?」赤毛のカエデが興味津々といった表情で聞いてくる。
「あなたたちは一体、何なんですか?」
「チームだよ。情報部のオペレーターは仮の姿。実際はチーム『ムツキ』として活動をしている。ザ・トリガー。あんたは入部資格を満たした。これからはチーム『ムツキ』の一員とし働いてもらうことになる」
「僕のメリットは?」
「安全になることさ。P2の集団ほど怖いものはないからな。一人殺っても、復讐は続く。どちらかが討ち滅ぼされるまで、戦争は続く。公式コミュ二ティのチームにせよ、『シークレット』のチームにせよ、チームってのはそういうもんなんだ。チーム対チームは、戦争になるんだよ」
戦争。話がどんどんきな臭くなってきた。射撃訓練は続けた方が良さそうだ。
「つまり僕は安全になると?」
「必ずしもそうじゃない。イカれた奴ってのはどこにでも湧く。後先を考えずにあんたを殺しにくる連中もいるだろう。だが、私たちが一緒に行動する限り、ザ・トリガーは安全を保証されるだろう」
そこまで聞いて、疑問が浮かぶ。
「でも、失礼ですが、皆さんのクラスは?」
クラス表の書き換えくらいなら、サンドイッチを齧りながらでもできるよ。そう言って、ムツキは新型パソコン――部費で買ったのだろう――に向き直る。OSシルバースネイルを搭載したパソコンは、一瞬で無数のウィンドウを表示し、先生のパソコンのファイルを瞬時に書き換えた。
「ほら、これで終わり。これで私たちはあんたのクラスのただの女子校生だ」
「あの、一ついいですか」
「なんだ?」
「ついでに、藤沢カオリを、別のクラスに配置してもらえませんか」
「……人の恋路を邪魔する趣味は無いなあ」ムツキはにたにたと笑っていた。