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第六十一話 七不思議

 いつも通りの平安部、ハーレムお食事会。ムツキ、ヤヨイ、カエデ、カオリに囲まれて、お菓子をついばみ、お茶を飲む日々。


「薙高に、悪魔と式神がいることは分かった」と僕は言った。

「じゃあ天使と妖怪はどこにいるんだろう?」

 

 僕の単純な疑問に、ムツキの顔は凍りついた。

 

「もしオカルト部に悪魔がいるなら、天使もいるはずだろう? そいつらを降臨させればいろいろと御利益がありそうじゃないか。妖怪だってそうだ。P2のかたまりみたいな妖怪を使役できれば、式神なんていう人工P2なんか無くてもやっていけそうなものなのに」

「……天使は……いるわ。でも彼らは人間の都合に合わせようという気が無いの。もし何かの間違いで降臨したら、そのへん一帯が文字通り焼野原になって壊滅することになるでしょうね」

 

 ムツキが嫌々そうに解説する。

 

「ふーん。じゃあ妖怪は? 昔の人の創作だから居ないなんて論法は無しだぜ? 古い伝承に残っている以上、あるいは現代の人間の深層心理にある以上、どこかに居るはずだろう? そういう野良P2が」

「そ、その話は、平安部の邪ツカサ先輩から直に聞いた方がいいと思う」ムツキが目を逸らす。すると。


「麿がどうかしたでおじゃるか?」平安部部長、邪がひょっこりと現れる。


 聞いていた。こいつは絶対会話を立ち聞きしていた。登場のタイミングがあからさますぎる。だが僕はその全ての疑問を脇においやって、思いきって訊ねてみることにした。

 

「薙高の妖怪事情というのは、どうなっているんです?」

「基本的に、妖怪は平安部が封じておるでおじゃる」答えはあっさり返ってきた。

「封印? 壺に入れて護符でも貼ってあるわけですか?」

「ちょっと違うでおじゃるが、まあそんな感じでおじゃる。百鬼夜行、百物語に代表されるように、日本の妖怪の数は軽く百を超えるでおじゃる。そのいずれも強力なP2として、独立した意志を持って存在しておるのでおじゃる」邪は言葉を続ける。

「たとえば『鬼』。鬼は悪魔に近しい存在で、悪行や酒を好むでおじゃる。うまく契約すれば『鬼神の如き力』が手に入るでおじゃるが、しかし鬼の破壊衝動に引きずられ、真の『鬼』に堕してしまう者も、また多いのでおじゃるよ」

「そうならないように、平安部が事前に手を打っている、と」僕は納得する。

「そういうことでおじゃる。しかし――」

「しかし?」

「『七不思議』は別でおじゃる」


 邪は扇子を広げる。背景で流れていた吹奏楽部のBGMが一斉に切り替わり、ジャパニーズ・オリエンタルな雅楽の演奏が始まる。

 神出鬼没な吹奏楽部という部活動の仕組みがどうなっているのかは分からない。僕に分かるのは、場の雰囲気が変わったということだけだ。

 

「学園内に周到に配置された薙刀高校『七不思議』――それは自然と顕現しようとする別の妖怪を退け、P2全体の安定化を図るためにやむなく設置してある、妖怪の現れるホットスポットでおじゃる。もしお主が妖怪に会いたいと思うなら、狙うべきは『七不思議』でおじゃる」

「別に彼は妖怪に会いたいとは一言も……」ムツキがフォローする。が、邪は聞いていない。

「確か、七不思議を全部知ったら死ぬんでしたっけ」

「まあ、だいたいの者は全部知る前に死ぬでおじゃるな。たとえば新聞部は、今春『犬桜』の取材をしていたようでおじゃるが、リアルにP2が現れると知ってからは、自重して取材に来なくなったでおじゃる」

 

 それはそうだろう。自然現象に巻き込まれて死んだのでは労災はおりない。自衛隊が戦闘地域に派兵されないのと同じで、新聞部も特務取材班(P2持ち)以外がP2の取材をすることは稀である。

 

「じゃあ、七不思議全部を制覇した者はいないんですか?」

「いないでおじゃる。だいたい一個目で割にあわないと気付き、二個目で人生の選択を後悔し、三個目ごろには死んでいるでおじゃる。まあ、もし手っ取り早く妖怪に会いたいなら、一つくらい紹介してやらぬでもないでおじゃるが……」

「邪先輩!!」ムツキがツッコミを入れる。僕がやっかいごとに首を突っ込むのは、チーム・ムツキとして見過ごせないらしい。


「もし七不思議のうちの一個を撃破したら、ご褒美に何かもらえますか?」

「薙高新聞のトップを飾れるでおじゃる」

 

 残念ながら、薙高新聞のトップを飾ったことは何度もある。

 

「それ以外には?」

「ふぅむ。あんまり特典は……ああ、あったでおじゃる。あの七不思議なら、10年前に何が起こったのか、詳しく知っているかもしれないでおじゃる」

 

 10年前……モノボード事件の真相の手掛かりか。悪くない。

 

「旧校舎の二階の廊下のつきあたり。時は深夜12時。そこに、色々と物知りな妖怪が一匹いるでおじゃるよ」

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