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第六話 軍事部

 僕は昼食後、なんとか藤沢カオリを振り切った。

 平安部部長のよこしまにケータイで連絡し、予期した通り狙撃を受けたこと、とりあえず撃退したことを報告する。

「お主はよくやったでおじゃる」邪はケータイ越しに、ほほほと笑う。

「しかし、『シークレット』から完全に防御することは、麿の力だけでは敵わぬ。別の部活動を紹介するから、お主の判断で入部することでおじゃる」

 

 僕の聞いた話では、何もしない部活動、平安部は、学内で最大派閥を形成している。その実働部隊、みやびの連中は、全員が邪に忠実なチームで、手練れ揃いときている。しかも、何人いるかは知らないが、P2持ちも含まれているらしい。

 邪の言葉は、僕の護衛に割くコマは無いとも取れる。そしておそらく、そういう意味だろうと解釈する。きっとそれで合っているのだろう。最後に頼れるのは、自分の能力と拳銃、それがダメなら、腕と脚だけだ。

 それでも邪は、僕にいくつかの部活動を提示し、選択肢を与えてくれた。

 

 軍事部。弾、銃、砲、その他兵器の販売や貸出。諜報/防諜活動なども行う。傭兵業を営む、水城みずきが所属。

 情報処理部。あるいは単に、情報部。学園SNSの管理などを行う、薙高の情報処理の牙城。ハッカーの藤王ふじおうアキラが所属。

 新聞部。薙高の広報担当。その裏では、特務取材と称したP2の研究や捕獲に熱心。最上もがみヒデアキが部長。

 

 僕はその三つの部活動のうち、まず軍事部の利点を考えた。誘導弾〔ホーミング〕の撃ち方は、早急に練習しなければならないことの一つだ。射撃練習を合法的に行える軍事部は魅力的に映った。

 情報部。情報は無いよりあるに越したことはない。所属するだけで開示される情報もあるとのことで、これも悪くない。

 新聞部はどうか? P2であることを明かせば、おそらく丁重に迎え入れられることだろう。だが、いくら安全が保証されるとはいえ、僕はモルモットのように扱われたくはない。

 

 迷った末、僕は平安部の他に、軍事部と情報部に所属することにした。P2であることは伏せておく。

 

「それと、オカルト部には必ず所属しておくことでおじゃる」

 

 オカルト部? それが僕と何の関係が? そう問いかけて、言葉を飲み込む。

 確かに、僕はオカルトの知識を得ておくべきかもしれない。なにしろ、このザ・トリガーの能力が何故存在するのかさえ、自分には全く分かっていないのだ。

 僕は言われた通り、オカルト部にも所属することにした。

 学園SNSをケータイから呼び出し、各部にチェックを追加する。なんともあっさりした入部方法だ。この入退部のしやすさが、この薙高の独自の校風を生み出しているのだ。

 

 放課後、僕は平安部ではなく軍事部に行った。事前に知らせていなかったにも関わらず、手厚い歓迎を受けた。具体的に言うと、皆にシャンパンを浴びせかけられた。

 

「あんたが例の魔弾の射手なんだろう?」と、軍服を着た先輩――学年章で分かる――が言った。

「ええ、まあ。まだ練習不足ですが……」

「そう謙遜するなって。俺達は新聞部と違って、P2に偏見なんか持ってないからよ」


 僕が食堂で狙撃手を撃退したことは、さっそく未確認情報として出回っていたらしい。さすが学園SNSが存在する学校だけあって、情報が早い。情報部にも入っておいて正解だったと思う。

 

「身を守るために、銃の訓練がしたいんです」

 

 僕がそう言うと、先輩は練習申請用の用紙とペンを渡してくれた。

 

「助けてください! なんて言ってきたら張り倒すつもりだったんだが、案外マトモなことを言いやがる。これを見せて利用者カードを発行してもらえば、射撃練習場はフリーパスだ。しっかり練習して、シモ・ヘイヘみたいになるんだぜ」

「努力します」シモ・ヘイヘは良く知らないが、きっとすごい軍人なのだろう。


 射撃練習場で、僕は耳をイヤープロテクターで覆い、定位置に立つ。遠くの的を見定めて、神経を集中させる。

 僕は引き金を引く。弾は吸い寄せられるように――事実、サイコキネシスで吸い寄せているのだが――的の中央に着弾する。ここまでは予想通り。

 当面の目標は、二発以上を同時に誘導できるようにすることだ。それができたなら、次は三発。そこまでいけば、対多数でも有利に戦えるようになるだろう。

 

 だが、ふいに、それでもまだ足りないという気がした。

 そうだ。僕は相手がP2であるケースを想定していない。この薙高に、一体何人のP2がいるのだろう。

 無心で射撃を繰り返しながら、少しずつ上達する自分の姿を上方から眺めながら、僕は一つの恐怖に心が支配されてゆくのを感じる。

 

 この薙高に、シークレットに、一体何人のP2がいるのだろうか。そのうち、何人が僕を狙い、何回僕は修羅場に遭遇するのだろうか。

 

 僕は、ザ・トリガー。その銃に安全装置は無く、ただひたすらに、トリガーは軽い。


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