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第五十八話 悪魔召喚

「呆れた……本当にヴァンパイアに一人で勝っちゃうなんて……」小早川ムツキが呟く。

 魔女と呼ばれる所以、彼女のP2は遠隔透視リモートビューイングだ。昨日の戦闘も自宅で息をのみながら観戦していたのだろう。

 

「まあ、あのまま戦ってたら、間違いなく僕が負けてたけどね」


 戦って勝つのは下策。戦わずして勝つのが上策。とは、孫子の言葉だ。そして付け足すなら、仲間に引き入れるのが最上策といえる。


 生徒会役員 黒木シュン

 モノボード対策班班長 兼 タイムリピーター対策班班長 

 

 生徒会役員人事が発表されたのは、生徒会長の登校日である、三日後であった。

 これで僕は、生徒会、情報部、平安部、軍事部の四つの活動を掛け持ちすることになった。以前より忙しくなることは間違いない。そのことについてムツキに話すと、一つ忘れているわよ、と指摘される。

 

「あなた、オカルト部にも入っているでしょ?」

 

 言われて気付く。薙高の地下深く、クマ沢……じゃなかった金沢カルト先輩が率いる、オカルト部が存在している。新聞部と裏の繋がりを持つというオカルト部だが、実体は悪魔の召喚、幽閉、契約などを手掛ける、完全にブラックな団体である。僕はできれば関わりたくなかった。

 

「あ、言ってなかったけど、あなたどこかの悪魔と契約しないとダメよ」

「冗談だろ?」僕が問い返すと、小早川ムツキが講釈を垂れ始める。


「あなたはルシファー、ベルゼブブ、アスタロトに仕える六人の上級魔神の一人、悪魔アガリアレプトを倒したのよ? だからあなたの立ち位置は、今、非常に危ういことになっているの。特に部下のグーシオン、ブエル、ボティスは、あなたを抹殺したくでうずうずしてるでしょうね。まあそうやすやすと物質界に顕現することはできないけど、オカルト部の敷地内なら話は別」

「あ、そもそもソロモン72柱に代表されるように、悪魔の数はとても多いの。それぞれが派閥を形成しているから、悪魔情勢は複雑怪奇。単純にこれがベストとお勧めすることは誰にもできない。でも今の状況を打開するだけなら、ルシファー、ベルゼブブ、アスタロトのいずれかと契約すればいいと思う」

「グリモワールによれば、ルシファーはサタンの別名で、名実ともに地獄の皇帝。ベルゼブブは蠅の姿をした君主。アスタロトの別名はディアボロス、竜の姿をしているわ。いずれも悪魔たちの王よ」

 

「他の契約者もいるのか? 契約者たちの派閥の分布はどうなっている?」

「知っている限り、全員死んだか、意識不明。願い事がすぐに叶ってしまうものばかりで、魂を悪魔に支配されてしまったのが原因と考えられるわ。クマ沢……じゃなくて金沢先輩は、数少ない成功例よ。噂では、彼は不老不死を願ったと聞いているわ」

「それでクマのぬいぐるみに魂を移された、と。笑いごとじゃないな」

「一般に、悪魔は運命を支配することができると言われている。あなたのトラブルだらけの未来も、悪魔と契約すれば変えられるかもしれない」


 その言葉を聞いて、僕は自分の願いを想像する。何も起こらないフラットな人生。のんびりとした老後。願っても叶わないであろう平穏な生活。

 

「悪魔アガリアレプトは、消え去る前に僕のことをアンチ・モノボードとして用意された存在だと言った。いかに悪魔といえども、その運命は変えられないだろうな」

「じゃあ、何を願うの?」

「秘密」


 その日、僕は地下にあるオカルト部に顔を出すことを決めた。

 

「やあ黒木シュン君。いつか来ると思って待っていたよ」


 暗闇をバックに、椅子に座ったクマのぬいぐるみが喋っている。どこから声が出ているのか怪しいが、彼こそがクマ沢……じゃない金沢カルト先輩だ。

 

「話はムツキから聞きました。僕はどこかの悪魔と契約しなけりゃいけないんでしょう?」

「その通りだ。君のもつれまくった運命を変えるには、どこかの派閥に属する必要がある。ところで……願い事は決めたかね? できれば悪魔にも叶えることができないほど難しい願いが良い。慎重に考えることだ」

「願い事は考えてあります」

「ほう。どんな願いかな? いいかね? すぐに叶えられるような願いではダメだぞ。かといって悪魔の本分に逆らうこともできん。世界平和なんかを願った奴もいたが、末路は悲惨だった。彼がどうなったか聞きたいかね?」

「いいえ。興味がありません。早速はじめてください」

「ふむ……君には相当の覚悟があるようだ。いいだろう。始めようじゃないか。それで、誰と契約するかはもう決めたのかね?」


「アスタロトと契約します。ルシファーやベルゼブブと契約してキリスト教の敵になる気はありません。アスタロトはその点、知名度が低い……」


「誰の知名度が低いだと?」低い声が地面から響く。儀式はもう始まっていたらしい。


 金沢先輩は一切言葉を発しない。それで、ここからは、僕とアスタロトの問答の時間だと知れた。

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