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第五十六話 孤軍

 モノボードの汚染拡大。生徒会との敵対。僕は、疲れている。疲れて、焦っている。

 ひとり自分のクラスに戻り、席に着こうとするところで、僕は不意に声を掛けられた。

 

「よう少年」先生は、記憶抹消者イレイサーは既に僕の背後に回り込んでいる。振り向こうとする僕の頭を、イレイサーはがっちりと掴む。

「なに、心配はいらん。ちょっと覗かせてもらうだけだ」


 その言葉と同時に、僕は意識を失い――そして時間が飛んだ。

 時間の経過が分かったのは、誰も居なかったはずの教室に、生徒たちが帰ってきていたからだ。教室の時計を見ると、十数分の時間が経過している。まさか記憶を消されたのかと思い一瞬慌てるが、イレイサーが「覗くだけ」と言っていたのを思い出し、僕はとりあえずの落ち着きを取り戻す。

 

「顔色悪いけど、大丈夫?」薙刀学園会長の孫、藤沢カオリが僕を心配して声を掛けてくる。だが、僕はP2(Paranormal Phenomena、超常現象)持ちでない彼女を、P2絡みのことに巻き込むつもりはなかった。

「大丈夫。ちょっと眩暈がしただけ。そうだ、保健室行ってくるよ」そう言って、僕は立ち上がり、現状に思考を巡らせる。


 モノボードの汚染拡大。生徒会との敵対。それと――イレイサーの介入。僕の脳を読んで、イレイサーは一体何をするつもりなのか。その計画には、薙高四天王の誰かが絡んでいるのか。平安部の邪ツカサ、情報部の魔王・藤王アキラ、軍事部の魔女・水城、そして新聞部の最上ヒデアキ。そのうち三人が僕に協力的であるという事実は、僕をいくぶん励ましてくれる。

 

「薙高新聞は見た?」廊下で自然に合流した小早川ムツキが――黒い髪をした彼女もいちおう「魔女」の称号を持っている――少し後ろを歩きながら僕に問いかけてくる。

「いや、見てない」

「あなたのことが取り上げられてるわよ。『生徒会に牙を向く反逆児、ザ・トリガー。生徒総会中に生徒会長めがけ発砲』。あなたの行動が、さっそくビッグニュースになったわけ」

「でも会長は無傷。なぜなら人間じゃなかったから」

「それは結果論よ。たとえ会長がヴァンパイアだからって、心臓を狙えば下手をすれば死ぬもの」

「死なないね。彼は、黒鉄マモルは、『自動的に』弾丸を弾いたんだ。弾けない分は単に受け流した。そもそも最初から、彼は自分が最強だと自負しているような口ぶりだったじゃないか。突然の反論に激昂しているように見せかけておいて、実際は僕に撃たれることくらいは計算に入っていたはずだ」僕は言葉を続ける。


「それに……彼が本気を出すのは『夜』なんだろう?」ヴァンパイアの支配が強くなるのは、夜と相場が決まっている。

「そうよ。はっきりいうけど、生徒会長は夜の間は無敵。薙高四天王でも手が出せないくらいヤバイ存在になるわ」そこまで言って、小早川ムツキは足を止める。

「漫画やホラー映画みたいに?」

「明確な弱点が無いという点では、それ以上よ。彼はUVカットクリームで紫外線を防いでいるから日光は致命的な打撃にはならない。それに銀の弾丸は――あれは御伽噺でしょう? たぶん無駄だと思う。そんなに簡単にやれるならもう既に誰かがやっているもの」


 分かっている。でも重要なのはそこではない。僕と生徒会長は、勝ち負けはともかく、それでも戦わなくてはいけないのだ。なぜなら僕はザ・トリガーだから。そのイベントの「引き金」は、もう既に引かれてしまったのだから。


「じゃあ、今回は降りてもいいよ」僕は核心部を言い切り、保健室に向かう。

「べ、別に私はぜんぜん勝ち目が無いと言っているわけじゃ……」

「はぐらかさなくてもいいよ。話を聞いた限りじゃ、そもそも僕に勝ち目なんてないんだろう? だったら、今回は僕一人にやらせてくれ。そういつもいつも助けてもらってばかりじゃ、僕の株が下がっちゃうし」

 

 僕は笑いながら手を振り、保健室へと歩いていく。ムツキは足を踏み出さない。自然と、距離が離れていく。

 

「笑いごとじゃないわよ! 一人で夜の生徒会長を相手にするなんて無謀だわ!」

「こっちが数を揃えれば、相手も数を繰り出してくるだろう? それじゃ相手の思うつぼじゃないか。大丈夫。今回は僕一人でやる」

 

「……策はあるの?」

「それをこれから考えるのさ」

 

 僕はザ・トリガー。あらゆるイベントが振りかかってくる特異体質を持つ人間。生まれてこのかた、僕は様々な戦いを経験してきた。そこには勝利もあれば、敗北もあった。残念ながら「常に勝ち続ける」などということは不可能だ。僕は神ではないし、悪魔でもない。そんな自分勝手な日常きけんに、知り合いがそう何度も巻き込まれるというのは、どうしても避けたかった。

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