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第五十一話 邪ツカサ

 僕はサイコキネシス増幅用のビンを開け、中から砂鉄をこぼす。砂鉄は人の形(ヒューマンフォーム)を描き出す。

 大男――鴉殺しのティガは、その姿を一瞥し、呟く。

 

「サイコキネシス……単純だが恐るべき力だ……だが、砂で剣は防げねぇ」

「勝ち目のない戦いだってことくらい、先刻承知のことだ」僕は強がる。

 

 なぜだろう。むしろ僕はこの流れを知っているかのように感じるのだ。まるで誰かの都合で計画されたのじゃないかと思えるほどに。

 すると唐突に。声が、響いた。

 

「麿もその戦いに参加させてたもれ」

 

 邪だ。烏帽子をかぶり、和服を着た、平安部の邪ツカサがいる。僕とティガの間に立って、忽然と。

 いや、超スピードだとか催眠術だとかでは断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗、というべきか。あるいは、と、思考を巡らせて僕は戦慄する。あるいは、こいつはさっきからずっといたのか。気配を消して。

 

「麿も、タイムリピートという現象に興味があるのでおじゃる。それに、スクナヒコも言っておったでおじゃるよ。『ザ・トリガー頑張れー』と」


 邪は扇子を口元に当てている。表情は分からない。それでも狐の面のように細い目元がさらに細くなり、たぶん、いやきっと、邪はにやりと笑ったように見えた。

 

「スクナヒコ? 『ザ・トリガー頑張れー』? 冗談を言っている場合じゃ……」僕が声を掛けると、邪は扇子をパタリと閉じて。

 

「安心するでおじゃる。麿は、強いでおじゃるよ」そう、言い切った。


 言った途端、ティガが真横に吹き飛んだ。吹き飛んで、校舎の壁に激突する。まるで見えない車か何かに激突されたかのように。

 

「てめぇ……何しやがった……」むくりと起き上がりながら、ティガが言う。

「まずは、小手調べでおじゃる」


 邪は動かない。僕とも、ティガとも、視線を合わせようともしない。ただ、あらぬ方を見て、突っ立っているだけである。いや、その視線の先は、今も続く狙撃の元だ。邪は、藤王アキラを、見ている。それはつまり、藤王アキラも、邪を見ているということだ。

 薙高四天王。そんな言葉が僕の頭をよぎる。

 ティガはさらに吹き飛ばされる。吹き飛んでいる最中に、さらに逆から何かに激突されたかのように跳ね上げられる。スピリット・オブ・ソードマンで身を護り、受け身を取っているから死なないだけで、普通の人間なら何度も死んでいるだろう。

 

「ティガ!」エイラが心配して叫ぶ。


 だが、不定期な狙撃は今も続いている。音速を超えて飛来するライフル弾を撃ち落とし続けるには、モード「イージス」の解除は許されないのだろう。

 邪とティガの二人の戦い。いや、邪の一方的蹂躙を、僕とピクチャレスは、ただ見ていることしかできない。

 

「そっちへいったでおじゃる」

 

 その言葉と共に、ティガが飛んでくる。スピリット・オブ・ソードマンの一撃は、僕の喉首を狙ってくる。が、ピクチャレスが撃った弾丸が剣戟の軌道をそらし、僕のサイコキネシスが、人の形(ヒューマンフォーム)が、大男のティガを一瞬で殴り飛ばす。

 

 邪の横に、ティガが落ちた。立ち上がろうとするティガの頭を、和服姿の邪は、蹴鞠けまりを蹴るような調子で、思いっきり蹴る。

 

「ふむ。まあまあ強くなったでおじゃるな。ザ・トリガー」邪は僕を値踏みする。あのティガを軽くあしらいながら。


「……てめえもP2持ちか?」距離を取りながら、ティガが吐き捨てる。

「否。麿は一般人でおじゃる」だが、邪はあくまで一般人だという。


 僕は薙高地下にあるP2訓練施設のことを思い出す。あのとき、邪は確かに吊り下げられた鉄板を打ち鳴らしたのではなかったか。しかしそのとき――少し困ったような表情をしてはいなかったか。

 

「邪はP2持ちじゃない」僕の隣で、ピクチャレスは小さく呟く。

「あれは不可視の『式神』たちなんだ」と。

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