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第五話 告白

 私こと、藤沢カオリは恋をしていた。

 登校初日に自分を救ってくれた白馬の王子様に、である。助けられた後に、無言で払いのけられたとか、そういったことは些細なことだ。あのまま誘拐されるのを防いでくれたというだけで、惚れてしまった。

 おじい様から借りた新入生名簿システムで、似顔絵検索――似顔絵からそれに良く似た顔写真を検索する――した結果、彼が誰か、どのクラスに居るか、ということはもう既に割り出してある。

 あとは、この思いを、彼に伝えるだけ――。

 かくして、藤沢カオリのストーキングが始まる。


 ザ・トリガー「告白」


 一人の尾行。僕、黒木シュンは、尾行に気づいていた。下手糞な尾行だ、というのが感想だった。中途半端に壁に隠れ、身を乗り出して様子を伺っている。あれなら、普通に歩いていた方がよっぽど怪しまれない。

 訓練用のゴム弾頭入りの銃――ゴム弾頭は一番安く買え、相手に十分な痛みを与える――をいつでも引き抜けるようにして、僕は様子を見る。制服を見て、女性だと分かる。

 シークレットからの刺客だろうか。しかしそれにしては露骨すぎる。図書館のほうに移動し、人気ひとけが無くなってから、後ろを振り向く。


「あんた誰だ? 尾行はバレているぞ」押し殺した声で、訊く。


柱から女性が姿を現す。この女には見覚えがある。


「あ、あの、えーと」

「藤沢カオリ。一年生。薙刀高校会長の孫、だったか」

「知ってらっしゃるんですか?」

「検索システムで調べた。それで、何の用だ?」

「あの……私と付き合って下さい!」


 はあ? というのが第一の感想だった。何をどうしたら僕に惚れることができるんだ。僕は邪魔な障害物を除去しただけで――ああ、その副作用か。僕は、ようやく思い至る。僕は会長の孫を誘拐から助けたのだ。恩人である。だから惚れたのか。単純すぎる。


「いいよ。付き合おう。ただし、僕は平安部のほうが忙しいから、あまり一緒にはいられないと思うよ」

「奇遇ですね! 実は私も平安部なんです。お茶とお菓子も用意してあります」

 どう考えても僕の部活動を調べて入部したとしか思えない。まいった。やっかいな女と付き合う羽目になった。


 平安部で忙しいというのは、そういう意味じゃないんだが、と言おうとして、訂正する意味が無いことに気付く。彼女はどこまで行っても一般人なのだ。超能力者の苦悩など、彼女が分かってくれるはずがない。


「今日のお昼、お暇でしたら、一緒にコーヒーでも飲みませんか?」


 確かに、食堂の隣にはコーヒーショップがある。彼女はそこで初デートと洒落込むつもりらしい。やれやれ。

 僕は了承した。シークレットに狙われていることなどを話しても、彼女は信じてくれないだろう。それよりは、彼女とのコネを利用して、僕のほうからシークレットを各個撃破する戦略を練るのも悪くない。

 それに、今の僕は平安部の庇護下にある。簡単には手出しできないはずだ。


 午前の授業が終わり、僕は新しくなったロッカーに教科書を放り込む。

 僕は彼女との予定を思い出し、すっぽかすかどうか悩みつつ、足は自然と食堂に向かう。

 食堂の入口に、彼女の姿があった。僕のことをずっと待っていたのだろうか。やはり、こいつは馬鹿としか思えない。しかし馬鹿な女は行動が読みやすいので、まあ無駄に賢いよりはマシかもしれないと、思い直す。


「私もいま着いたところなんです!」嘘つけ。

「じゃあコーヒーショップに行こうか。僕は少食だから、昼食はサンドイッチでもいいよ」

「クッキー焼いてきたんですが」訂正。手間の掛かった馬鹿だ。

「それは平安部で食べることにするよ」と、適当に相槌を打つ。


 コーヒーショップは食堂の料理よりも少し割高なせいか、いつもすいている。僕と彼女はそれぞれサンドイッチとコーヒーを注文する。少し奥の席に着き、呼ばれるのを待つ。呼ばれると、彼女が取りにいった。

 

 心配すべきなのは狙撃でおじゃる、とよこしまは言っていた。

 僕のサイコキネシスには射程距離がある。その力の及ばない遠距離からの狙撃に対抗する手段は、今の僕にはまだ備わっていない。つまり、この場で狙撃されたとしても自己責任だ。ポケットの銃をいつでも引きぬけるように注意しつつ、僕は昼食を取った。


 コーヒーを半分ほど飲んだ時、ふいに、本能が危険を告げる。グラスが砕ける。


「伏せろ!」


 僕は自分が狙撃されていることを知ると同時に床に転がる。木製のテーブルに銃弾が二発着弾し、転倒する。間違い無い。シークレットの狙撃だ。


 僕は銃を取りだす。そして念じる。銃弾にサイコキネシスの力を乗せる。

 

「僕を舐めるなッ!」


 誘導弾。できるかどうか分からないが、やるしかない。僕は引き金を引いた。狙撃の弾道をなぞり、吸い込まれるイメージ。銃弾は曲がりくねり、食堂の柱の影に吸い込まれる。

 

「ぐあっ」小さな呻き声と共に、物陰から狙撃銃を持った男が転がり出る。


 僕は追撃のための引き金を引く。二発撃ち、そのどちらも外れる。やはり二発同時に誘導は無理だ。一発だけ、引き金を引く。その軌道を精密にコントロールする。肩に命中する。ゴム弾とはいえ、骨に直撃を食らえば、しばらくは再起不能になるだろう。

 

「止めだ!!」僕が五発目を撃とうとしたその時。

「私を……私を守ってくれたのね!」カオリが思いっきり抱き付いてくる。

「ちょっ……何をする!止めろ!」


 ようやくカオリを振りほどいた時には、既に男には逃げられた後だった。


(だめだこの女……早くなんとかしないと……)

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