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第四十話 脱走

 いわゆる「スピリット・オブ・ガンマン」は、狙撃と早撃ちに優れた、人型のP2である。銃さえあれば、手錠を砕くことは簡単なことだった。そう。銃さえ、愛用していた二挺のコルト・ガバメントさえあれば。

 銃が無いこのP2は、ただのはったりにしかならない。


 金髪で長髪の猫殺しのエイラは、ホテルの一室に閉じ込められていた。服装はパジャマに着替えさせられ、手錠で壁にしっかりと繋がれている。

 藤王アキラによる「尋問」は既に一通り済んでおり、今では定期的に、藤王アキラの代理人たるロボット、三角が、エイラに食事――カロリーメイトと水――を運んでくるだけだった。

 P2「スピリット・オブ・ガンマン」の素手での攻撃は既に試してみた。だが、結果はノーダメージ。三角は驚いたことに、P2を認識し、その攻撃を避けてみせる程度の性能を持っていた。

 

「ティガの助けを待つしかないか……」

 

 鴉殺しのティガとは長いつきあいになる。別に打ち合わせて行動しているわけではないが、毎回どこかしらでばったり出会うのだ。タイムリピーターであるエイラにとって、自己紹介なしに話の通じるティガは貴重な存在だった。

 しかし、エイラはこのホテルの部屋に見覚えが無い。何度も何度も、飽きるほどタイムリピートしているが、そもそも捕獲された回数自体が少ないうえに、この部屋は初めてであるように見えた。

 

「もしかして……ランダムに監禁先のホテルを決めたのか? 蝶の羽ばたき効果(バタフライエフェクト)が絡んでくると、ティガがここを見つけ出す確率は天文学的に低くなるぞ……」

 

 エイラは焦っていた。このまま猫を殺せなければ、タイムリピートは発動しない。情報を吐くだけ吐かせたあと、イレイサーに――会ったことはないが、その噂は聞いていた――記憶を消されたりすれば、それこそ取り返しのつかないことになる。タイムリピーターにとって、自分の記憶は貴重品の入った金庫のようなものだ。いや、それよりも重いか。記憶は、一人の人生の全てに等しい。

 

「……八方ふさがり、か?」

 

 それでも、助けはやってきた。ティガとは、そのでかいガタイに似合わず、情の深い男だったからである。

 

 

 丸(藤王アキラ)とイレイサーは、MIBメン・イン・ブラックを名乗るサイボーグたちを検分していた。星野ハルカ絡みとなれば、イレイサーが出張ってくるのも止むを得ない。

 駒鳥ススムにワイヤーでぐるぐる巻きにされた二人は、身動きが一切取れなかった。

 

「なんだあ? こんだけの武装しか持たずに特攻してきたのかぁ?」イレイサーが馬鹿にする。

「舐められたもんだな薙高おれたちも」丸が、藤王が呟く。

 

 イレイサーが二人の頭に手を当てて、脳髄覗き(ブレインリーディング)をしてゆく。僕には、その様子を遠巻きに眺めていることしかできなかった。

 

合衆国ステイツから派遣されてきたサイボーグ二匹か……ボディーの対弾性能はあるようだが、頭部狙い(ヘッドショット)にはもろいようだな。まあおつむが生身なら当然といえば当然か」藤王アキラが分析する。

 

「ハーイ、ボーイ。交渉する余地はアーリマせんかー?」

「全く無いな」藤王が答える。

「くそっ……あんな危険な宇宙人を野放しにしておいて、後で悔やんでも知らんぞ……」

 

 星野ハルカが、びくりと震えたのが見えた。

 

「そんな先のことは知ったことじゃないな」イレイサーが即答する。

 

 星野ハルカは安堵の表情を浮かべる。イレイサーに拒絶されれば、もはや行くところの無い身分。それゆえに。

 

「どちらにせよお前らの記憶は全部消させてもらう。これから野良サイボーグとして生きるんだな」イレイサーの冷酷な台詞が、判決の全てだった。

 

 

 ズン。ズズン。重い音が数度響いて、ドアが切り裂かれる。P2「スピリット・オブ・ソードマン」。それは全てを切り裂く剣士の如き像を結ぶ、超常現象。

 ジーンズにTシャツというシンプルな姿をした、筋骨隆々とした大男。鴉殺しのティガの到着である。

 

「調子はどうだ? エイラ」

「最悪よ……食事はおいしくないし、サービスもなってないし。で、どうしてここが分かったの?」

「スウマキツミに訊いた。数ヶ所巡ったが、なんとか当たりを引けたな。おかげで奴にはでかい借りができた」

 

 言いながら、ティガは手錠をP2「スピリット・オブ・ソードマン」で切断する。汎用性という点で見ても、精密性という点で見ても、「スピリット・オブ・ガンマン」には真似できないことの一つだ。

 ティガは、袋に入れて持ってきた服を差し出し、エイラに着替えるように指示する。

 

「銃はあるの?」

「M9二挺ならこっちの紙袋の中に用意してある」

「そう。コルト・ガバメントはしばらくお預けね」そんな不平を述べつつも、エイラは知らず知らずのうちに笑い、満足そうに頷いていた。


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