表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/69

第四話 シークレット

 シークレットとは何か?

 それを紐解くには、まず学園SNSソーシャルネットワーキングサービスに存在する機能、コミュニティについて説明せねばなるまい。まず目立つのが、各部活動の公式コミュニティである。そこでは、部活動のお知らせと予定表や、雑談、議論などが行われている。

 その周囲に存在するのが、公式同好会コミュニティ。あえて部費をもらわずに成立しているそれらの数は、まさに無数。多くの「○○が好きな人集まれ」の掛け声の下に集結した彼らは、時に公式部活動を凌ぐ規模にまで膨れ上がる。

 そして、表舞台から完全に隠蔽シークレットされた、非公開コミュニティ。

 薙刀高校のありとあらゆる暗部が集結しているそこは、全てのやりとりが完全に暗号化され、いかなるハッカーにも盗聴不能!

 学園SNSのアンダーグラウンドとして発展した組織、シークレットは、その規模すら窺い知れないまま、薙高に巨大な影響力を行使している。


 ザ・トリガー「シークレット」


 薙刀高校会長の娘、藤沢カオリを誘拐しようとしたグループは、用意周到に準備を進めていた。公文書を偽造し、入学式の時刻表を偽り、藤沢カオリだけが始発バスに乗り込むよう仕向けた。計画は順調に進み、あとは藤沢カオリを誘拐するだけになったところに、そいつは現れた。

 ザ・トリガー。ありとあらゆるトラブルに首を突っ込まざるを得ない特異体質。そいつの登場で、三人が太股の骨を骨折、再起不能にさせられた。

 

「気に入らねえな」

 

 渡り廊下で、兵藤カツヒコは呟いた。

 校則で禁止されていない電子タバコを吸っている。


「能力がありながらそれを行使しようとしない。トラブルメイカーのくせにそれを利用しようとさえしない。人生をただ漫然と普通に生きられればいいと思っている。なんつーか、俺の一番嫌いなタイプだ」

「いかがするおつもりですか」秘書のような声が、彼のイヤホンから聴こえる。

「殺せ。手段は問わん」カツヒコは命じた。

「では、そのように」秘書のような声が、了解した。


 シークレットは、ある種のマフィアに近い。平安部がそうであるように、実働部隊を持ち、それが目的を遂行する。チーム「クローゼット」は、カツヒコが立ちあげたチームである。

 シークレットのうち、どのくらいの位置に自分たちがいるのかは分からないし、別に知りたくも無い。

 だがとりあえず、シークレットの顔に泥を塗った人物を始末すれば、その分だけ、クローゼットの名声が上がる。名声を聞きつけて入部希望者が増えれば、それだけ権力も増すことになる。

 カツヒコはクローゼットを自分の道具として立ち上げた。しかし、今はどうだろう。自分がシークレットに、クローゼットに振り回される側に回ってしまってはいないか。そんなくだらない思考を停止して、彼は別の思考を開始する。

 もしザ・トリガーが既に部活動コミュニティの庇護下にあるとすれば。学園のトップ連中とつるんでいるとしたら。

 

「……さしずめ、戦争開始ってところか?」カツヒコは頬を歪めて笑う。

 

 少し離れたところから、一人の足音がする。カツヒコは真顔に戻る。銃のグリップを握り、いつでも引きぬけるようにして、振り向く。

 

「やあ、Mr.クローゼット。少し頼みごとがある」

 

 なぜこいつは俺のチーム名を知っている? 一体誰だ? 天才ハッカー、藤王アキラではない。別の人物。思い当たる奴がいない。

 銀髪の、目元が左右非対称の、少年。

 

「僕は、ボスの使いの者だ。今、シークレットはタイムリピーターと呼ばれる存在を狩り立てている。できれば共闘してほしい。強制じゃあない。できれば、でいい」

 

 タイムリピーター? 聞いたことがない。

 

「そのタイムトラベラーの親戚か何かを狩り立てて、俺に何の得がある?」

「それを君が知る必要はない。ただ、評価が上がるというだけだ。首尾良く成功すれば、シークレットの幹部にもなれるだろう」

 

 少年はとんでもないことをさらりと言い放つ。

 シークレットという存在は、それほど知られているわけではない。知名度が低いアンダーグラウンドの領域だ。その幹部? 幹部だと? こいつはボスのお気に入りだとでもいうのか?

 

「誤解しないで欲しいが、僕はただのメッセンジャーだ」

 

 心を読まれたような気がして、カツヒコは電子タバコを噛む。

 

「なら、ザ・トリガーの件はどうする?」

「並行して進めてくれてかまわないよ」

 

 少年はそちらの情報も持っているらしい。

 

「とりあえず今現在、僕から提供できる情報は、スウマキツミという偽名を使う男が、薙高生に接触してきているという事実だけだ。本名も不明。目的も不明。タイムトラベルの原理も不明。しかし、ボスはそいつがタイムリピーターではないかと疑っている。なぜならそいつは『宝くじの一等を連続して当てている』」

「なるほどね。よほどの強運の持ち主か、タイムトラベラーか、どっちかだと言いたいわけだ」

「そういうことになるね」

「それで、なぜタイム『リピーター』と呼ぶ?」

「彼らは旅行しているわけでは、ないからね」


 幹部になれるかもしれない。それはおいしい話に思えた。カツヒコは承諾した。それがどれほど危険な賭けになるかも知らずに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ