第三十八話 映画館
「おい、フリーザ」僕は声を掛ける。
「ん? なんだザ・トリガーか」どうでもよさそうな声。
「このへんで藤沢カオリと星野ハルカ――例の宇宙人を見なかったか?」
映画を見終わってご満悦といった表情のフリーザに、僕は思い切って質問してみる。
「見てないね。って、まさか、またトラブルに巻き込まれてるのか?」
「その通り。さっきチーム『クラシック』に襲撃された。何か情報はあるか?」
「さあ。分からないな。俺が所属しているのは『ブレーメン』だから……って、何で俺がお前に自己紹介しなきゃならないんだ!」
「藤沢カオリと星野ハルカが消えた。ケータイも通じない。お菓子をやるから捜索に協力しろ」
「そんな餌で釣られるか! と言いたいところだが、会長の孫に貸しを作っておくのも悪くないな。手分けして探そう」
「ありがとう。助かる」
僕らはロビーにいる客に目を光らせる。
明らかに場になじまない格好をした男が一人いた。タキシードを着て、黒い蝶ネクタイをした男だ。格好は紳士と言ってもいい。だが、頭がフクロウだった。壮絶すぎて思わず納得してしまうほどの違和感がある。
フリーザが僕に声を掛ける。
「あのフクロウ男、怪しくないか?」
「僕もそう思っていたところだ」
「やあ君たち」フクロウ男のほうから声を掛けてきた。
「私はチーム『クラシック』のリーダーだ。先ほどは部下が迷惑をかけて済まない」
「先ほど? 現在進行形の問題には関与していないと?」僕は問いただす。
「ふむ。何か問題があるのかね?」彼は上品に返す。
「大問題だ。藤沢カオリと星野ハルカが消えた」
「なるほど。そして君たちは私を疑うべくして疑っており、私は疑われるべくして疑われているというわけかね」
「その通りだ」
「まあ、とりあえず銃は仕舞いたまえ。話し合いで解決しようじゃないか」
そう言うと、彼は僕とフリーザの銃を取り上げてしまった。まるで手品でもするかのように、僕の銃は彼の手に収まっており、彼はゆっくりとそれを空中の見えないテーブル――そうとしか形容できない――の上に置いた。
「考えてみようではないか。妙齢の子女が、男を一人残して消えた。答えは一つしか無いように思えるがね」
「どういう意味だ!」僕はいらつく。
「だから、よく考えてみたまえよ。困った時が、頭の良くなるチャンスだと、NHK教育テレビのペカリンさんも言っていたではないか」
「答えを知っているなら教えてくれてもいいんじゃないか?」
「これはエチケットの問題だよ、君。これだけ言ってもまだ分からないのかね。察しが悪いのは良くないことだよ、君」
「君君うるさい! お前はイレイサーか!」
「イレイサーは関係ない」
「まさか星野ハルカが裏切って……」
「それも違う。どうも君には『P2持ちに襲われた』という固定観念があるようだね」
「他にどんな可能性があるというんだ!」
「まあ、それもすぐに分かることだよ」
不意に、僕の肩を叩く者がある。
僕は素早く、そいつのほうに振り向いた。星野ハルカだった。
「その……藤沢カオリとトイレに行ってきた」少し照れくさそうな星野ハルカ。
「ごめーん」藤沢カオリが笑って謝る。
張り詰めていた緊張の糸が途切れて無くなって。僕は脱力し、その場に崩れ落ちた。
「ほら、言った通りだろう?」フクロウ男はくつくつと笑った。
「では、問題が解決したところで、銃を返そうではないか」フクロウ男がそう言うと、銃は僕の手の中にあった。
見上げると、フリーザが呆れた表情でこちらを見下ろしていた。