第三十六話 ゴールデンウィーク
人生はあまりにも短い、とは誰の言葉だったか。
薙刀大学病院前戦争が終わってから、僕の毎日はあわただしく過ぎ去り、いつもどおりの登校日がやってくる。
ピクチャレスは、せっかく会えたボーダーレスにいきなり逃げられたことがショックなようで、昼食を一緒に食べるのを断ってきた。あるいは、何かしらピクチャレス的な予定があるのかもしれない。
結果、僕は毎日、藤沢カオリ、小早川ムツキ、木村カエデ、天川ヤヨイとのハーレムお食事会状態に陥っている。それだけならまだしも、毎日、藤沢カオリが手作り弁当まで持ってくる。
断りたいが、こと恋愛に関しては無知である僕には、とても断れない。食堂での周りの視線がとても痛い。僕は、人から羨ましがられるのには、慣れていなかった。
「はい、あーん」藤沢カオリの攻撃。
「そんなことしなくても、自分で食べられるから!」僕は防御する。
「まあまあ」「様式美ですし」「くえくえー」
四面楚歌。味方は誰も居ない。
「ところで、みんなはゴールデンウィークの予定はどうするの?」僕は話を逸らす。
「地元に戻るわよ」小早川ムツキが答える。
「お姉さまと同じく、地元に戻ります」木村カエデが答える。
「地元に帰るー」天川ヤヨイが答える。
「私は黒木君と毎日デートします!」藤沢カオリが満面の笑顔で答える。
えっと、僕も地元に帰りたいんだけど……と言いたかったが、そんなことを言えば藤沢カオリまで地元についてきそうであったし、帰っても両親に会える以外に特に何かがあるわけでもなく。結局僕は自分の予定を言い出せなかった。
「ピクチャレスも地元に戻るだろうし、僕とカオリの二人きりか……」
「あら、ご不満ですか?」カオリが不安げな表情を浮かべる。
「いや、誰かに襲われないかなーと思って」
「確かに、ザ・トリガーと薙高会長の孫……襲われるには十分な組み合わせね……」ムツキが分析する。
「こんにちは」
うおっ。僕はびっくりした。食堂の隣の席には、例の宇宙人が居た。耳の形が尖がっているので、すぐにそれと分かる。それに、緑色のショートカットが、風景に映えている。どうして今まで気付かなかったのだろう。
「……何か用ですか?」ムツキが訊ねる。
「チーム『ポリリズム』からの指令で、ゴールデンウィーク中、ザ・トリガーの護衛をすることになりました。星野ハルカ(偽名)です。宜しくお願い致します」
「それはありがたいけど……」僕は申し出を受けるかどうかで困惑する。
「「失礼ですが、P2持ち相手に、護衛ができる実力はお持ちですか?」」
ムツキが問う。それに合わせて、星野ハルカが喋る。声は完全に一致して、見事にハモっている。
「……P2というわけではありませんが、未来予知を、少々」
その現象に、ムツキはしばらく茫然としていた。
「銃は何を?」僕は聞いた。
「イレイサーと同じ、グロック17を」
彼女は、それはもう誇らしく、銃を取り出して言った。
狙えば百発百中しそうな、見事な構えだった。そしてその僕の見立ては、間違っていなかったことが、後に判明する。