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第三十四話 特別情報室

 特別情報室。それは、薙高のサーバ群が置かれた、サーバルームだった。常に冷房が効いているその場所は、春先でも寒々しい。

 防犯上の理由から、入口には二重にオートロック鍵が掛かっている。が、窓側からの侵入は想定されていなかった。

 

 そこに、人型ロボット丸とイレイサーはガラスを突き破って侵入した。

 

「やあ。待ってたよ」

 

 そこには少年が居た。銀髪の、目元が左右非対称な少年。脇目も振らずにディスプレイに向かい、キーボードをタイプしながら、少年は返事をした。

 

「やっぱり何度見ても面白いパッチ(修正、機能追加プログラム)だ。君に敬意を表すよ。藤王アキラ」


「タイムリピーター、イズマエルか?」丸が問う。

「ああ。ネットではそう呼ばれることが多いね」イズマエルが返答する。


「なぜ世界接続ワールドポータルを望む?」

 

 それはもう、丸の声では無かった。藤王が、丸を通して、語りかける。

 

「故郷に戻りたいのさ」イズマエルは、依然ディスプレイに向かい、キーボードを叩きながら言った。


「僕の故郷は思考するだけでなんでもできる場所でね。そこで、僕は神様のように振る舞うことができた。まさに楽園だったんだ。きっと君たちには想像もつかないくらいに、僕はパワフルな存在だった」

 

 そこで、イズマエルは言葉を区切る。

 

「でも今はダメだ。僕は単なるタイムリピーターにまで堕ちてしまった。OSシルバースネイルや、誰かの力を借りなければ、存在さえできないような身体になってしまった」


「それで、ボーダーレスか」イレイサーがため息交じりに言った。


「そう。彼女は素晴らしい。僕が必要とする能力を全て持っている。まだ未発達だけれど、その才能が開花するのは時間の問題だ。イレイサー。君が記憶を消したことで、彼女は自分の能力への思い込みから解き放たれた。彼女が持っているのは、壁をすり抜ける程度の能力じゃない。いずれ彼女は、世界接続ワールドポータルを生成する程度の能力を持つだろう。そこに、僕の帰還の可能性が残されている」

 

 丸は、藤王の声で言った。

 

「何度失敗しても、か」

 

 そこで、初めてイズマエルは藤王アキラのほうに振り向いた。

 

「何度失敗しても。何度邪魔されても。何度繰り返しても。絶対に」

 

 それは少年の顔というには、あまりに悲哀に満ちていた。見るだけで、苦痛さえ感じられる顔だった。それは断固とした決意のようであり、永遠の諦観のようでもあった。誰かに老人の顔だと言われれば、藤王とイレイサーはきっとそう信じただろう。

 

「ボーダーレスはどこだ?」藤王は質問した。

「安全な場所に保護してある」イズマエルはやんわりと回答を拒絶した。

 

「イズマエル。取引をする余地は無いのか? 俺たちと協力していくつもりは?」

 

 藤王アキラは提案する。

 

「それはもう何度も試したんだよ。だがダメだった。ボーダーレスの能力がついには薙高全体を巻き込み、ロストは目に見えて頻発し、最終的に生徒会はボーダーレスの処分を決定する。ボーダーレスの居場所が誰かに知られているというだけで、僕の計画が破綻するには十分なんだ。彼女は必要な時まで隠されねばならないんだ」


「それで薙高を犠牲にして、魔術を成功させるってわけか」


「そうだ」イズマエルは言った。

「僕はこんな学園にも、モノボードの増殖にも、増え続ける超常現象にも興味はない。そんなことはどうでもいい。世界接続ワールドポータルだけが僕の望みなんだ」


「結局、ただおうちへ帰りたいだけのガキか。思ったより――薄っぺらい奴だったな」


 イレイサーは呟く。と同時に、ポケットに差した拳銃――グロック17――を引き抜き、射撃する。だが、弾丸はイズマエルの身体をすり抜け、床にめり込む。

 

「妨害は無意味だ。世界接続ワールドポータルは必ず成功させる」

 

 イズマエルは立ち上がり、立ち去ろうとする。それでも、藤王アキラは説得する。

 

「もう一度だけ、俺たちを信じてみないか? なにしろこの学園には『ザ・トリガー』が居るんだぜ?」


「『ザ・トリガー』?」イズマエルは初めて、耳慣れない言葉を聞いたような反応を示した。

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