第三話 弱いでおじゃる
「弱いでおじゃる」
うつぶせになった僕の背中を踏みつけて、邪は言い放った。
部室に入った瞬間に、鉄パイプを持った二三人の部員に襲われたのだ。学園内では超能力を使わないと決めていた僕は、突然の襲撃に全く対処できなかった。
頭部と腹部への直撃を喰らい、前のめりに倒れて気絶した僕が気が付くと、平安部部長の横島ツカサに踏みつけられていたという成り行きだ。
邪は長身の優男である。手にはいつも扇子を持っている。
「麿は横島ツカサ。平安部部長で、現在入部テストを行っているところでおじゃる。麿は人づてに噂を聞いて、期待して待っていたでおじゃるが……まず、基礎訓練から始めてやらねばならぬでおじゃろうか」
吹奏楽部の奏でる雅楽をBGMにして、邪が自己紹介する。
僕が怒っていることを察知したのか、邪は足をどけた。
僕はむくりと起き上がる。
「あんたら何なんです? いきなり人を襲っておいて、謝罪の言葉も無いなんて……」
「彼らは平安部実働部隊、雅でおじゃる。それぞれ相当の手練れ揃いで、麿は重宝しているのでおじゃる」
「なにもしない部活、じゃあないんですね?」僕は起き上がりながら言う。
「寄る辺なき一般人の入部志望者には、そう言ってあるでおじゃるが――P2は別でおじゃる」
「P2?」
「Paranormal Phenomena。超常現象のことを、この学園ではP2と呼ぶのでおじゃる」
「誰がP2だと?」
「ザ・トリガー。お主の存在自体がP2なのでおじゃる。複雑に絡み合った因果の糸。ありうべからぬ遭遇率。これまでお主が生きてこられたこと自体、分析が必要な事象でおじゃろう」
邪はしばし間を置いた。僕に考える時間を与えているつもりらしい。
「じゃあ、僕はこの能力を使わなくちゃあならないんですね」
「訓練場があるでおじゃる」
「今、ここで、あなたを狙ったら?」
「お主が求める平穏は永遠に手に入らないでおじゃる」
なにもかもお見通しってわけかよ。僕は毒づいた。エレベータに乗り、地下へと移動する。そこには、広大な空間、訓練場があった。すぐわかるところでは、射撃練習場があった。平安部部員かどうかは分からないが、銃の練習している部員がいる。
「火器の訓練所とは別に、P2の訓練もできるでおじゃる」
通されたところには、それぞれ厚さが異なる、縦に長い鉄板がぶら下げられていた。256発当てると壊れると噂される、バキュラを想像させる。円が描いてあり、それが的だということが分かる。
「やってみるでおじゃる」
「まず手本を見せてくださいよ」僕は冗談を飛ばした。
ごぎん。衝撃が走り、厚さ1センチの鉄板が揺れる。ぐらぐらぐら。
僕以外にも、当たり前のように超能力者がいる。その事実に、僕は衝撃を受ける。
「ほほほ。麿は基本的に戦闘要員ではないゆえ、揺らすのがせいぜいでおじゃる」
「じゃあ、今度は僕がやってみます」
ねじ切れろ!!
僕が精神を集中すると、全ての鉄板がぎりぎりと音を立ててへし曲がる。
厚い板は歪み、薄い板はそのままねじれて、切れ落ちた。
「ふうむ」
僕は得意げに邪の言葉を待った。
「……やっぱり、弱いでおじゃる」
僕はその言葉に愕然とした。
「これでは『シークレット』の連中にあっさり殺されるでおじゃる。しばらく平安部で特訓することでおじゃるな」