第二十三話 プロソパグノシア
「ま、たまにはこういう日も必要よね」
黒髪を手櫛で梳きながら、小早川ムツキがゴザの上でお茶をすする。
「そうですねお姉さま。平安部ってクラシックのBGMも流れてて、居心地いいですもんね」
赤い髪をした木村カエデがクッキーを食べながら言葉を継ぐ。
「カップラーメンできた!」
髪を縛った天川ヤヨイが、いまお湯を注いだばかりのカップラーメンを開けようとするので、僕はそれを制止する。
「ああ、ヤヨイのカップラーメンはすぐ出来るのよ。それが能力名カップラーメンの名の由来なの」
ムツキが補足する。どうやら殴った物体の時間を三分間先に進める能力らしい。無駄に実用的なP2もあったものだ。
「私が焼いたクッキー、皆さんのお口に合いましたか?」
ウェーブのかかった髪の藤沢カオリがひょっこりと登場し、皆の湯呑茶碗にお茶を注ぎ足し始める。
「ええ、おいしいですよ」ピクチャレスが答える。
彼が、僕たちに残された最後の良心だった。
男二人に女四人。というか、ピクチャレスは僕が呼んだ。呼ばなかったら男一人に女四人になるところだった。どんなハーレム状態だ。周りの席のひそひそ声が凄いのは気のせいか。
「で、モノボードの件だが、実質情報部の部長をやっている私のところにも情報が回ってきた。岡崎キョウコは車道に飛び出て意識不明の重体。屋上の爆発は、ガス漏れによるものだそうだ。だが、噂ではたくさんの人工繊維が見つかった、と」ムツキが説明する。
「そして、ここからが魔王のリーク情報。岡崎キョウコは、モノボードの噂を広めていた張本人らしい」
早速、モノボードの再現出が始まったのか?
「屋上で、モノボードとの戦闘があったとは考えられないか?」ピクチャレスが問う。
「そこまでは断定できないわ。でも、もし戦闘があったのだとしたら、相当無茶な戦い方よ」ムツキが言い切る。
「屋上そのものが木っ端微塵になるほどの爆発だもの。あれでモノボードが死んだならともかく、あれでも死なないとしたら、モノボードってのは相当やっかいな代物ってことになるわね」
「それが、増殖する可能性があるわけだ」僕は言った。
生徒会からの狂ったような指示が正しいとすれば、モノボードはなんと、接触感染するらしい。僕はペストを想像する。それはどんなやっかいな疫病だというのか。
「単なる疫病だというなら、まだマシよ」ムツキが言う。
「誰がモノボードで、誰がモノボードでないか、見分ける手段が必要。増えすぎてからでは遅いもの」
言い忘れたが、この集まりはお菓子を囲んだ集会などではなく、モノボード対策会議なのだ。
「それでだな、学園SNSを『人相鑑定』で検索すると、こんな同好会がヒットしたんだが……」僕はおずおずとケータイを見せ、提案する。
「プロソパグノシア同好会? 相貌失認症の患者が、モノボードかどうか人相鑑定してくれるってわけ? それはいくらなんでも信じられ――」
「実はもうコンタクトは取ってある。もうすぐ着く。待ち合わせ時刻まであと1分」僕は宣言する。
「え?」
「どうも、相貌失認症の山岸ミノリです」
ショートカットにカチューシャを付けた山岸ミノリは、そうして僕らの集まりに顔を出した。
非公式、対モノボード・チームは、こうして結成されることになる。




