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第二十話 ロスト

「イズマエル……タイムリピーター……必ずその尻尾を掴んでやる」


 藤王アキラは自身の寮、通称「アトリエ」に籠っていた。藤王は、目を覆うヘッドセットを付けている。藤王の角度を検出して表示する、全方位型デスクトップが眼前に展開されているのだ。

 午前と午後の授業は、人型ロボット「丸」に代理で受けさせている。これは先生たちも渋々ながら容認していることだ。丸は、藤王の代理として機能するだけの知性を持ち合わせていた。国語で当てられれば朗読もするし、数学で当てられれば解を述べた。

 

 単にデスクトップ、という表現は適切ではない。全方位型デスクトップは、三百六十度の作業用空間を提供する。そこに浮かんだ四十個を越すヴァーチャルコンソールをてきぱきと操作しながら、藤王は薙高校内を移動する物体を洗い出す。全ての物体をマーキングして、挙動不審な物体をピックアップしてゆくのだ。

 その結果。

 ロスト。そう呼ばれる現象が、薙高校内で頻発していることが判明した。

 どこかの建物に入ったまま、出てこない生徒。出てきたとしても、全く別の建物から出てくる生徒。この全く理由が掴めない神隠しのような現象に気付いたのは、タイムリピーターを、特にイズマエルを探し出すべく、校内の全体マーキングを開始してからすぐのことだ。

 最初はプログラムのバグを疑ったが、三角と四角を派遣して調査した後、重大な事実が判明した。彼ら彼女らは、違和感なく、確かに開始地点から終了地点に移動したと信じ、そう記憶しているのだ。彼らは実際にロストし、その後に、再出現していることが分かった。


 藤王のヘッドセットの向こう側に可視化された薙高の3D全体図は、「ロスト」の発生位置のマーキングで真っ赤に染まり、一つの重大な疑問を提示していた。

 薙刀高校は、実はワームホールだらけなのだろうか。それともこのワームホールのような現象は単なる前兆や派生物でかなく、実際は薙高そのものを巻き込む、ありえないほど巨大なP2が発生しているのだろうか、と。

 

「だが、スウマキツミ。いつもフラフラしている、こいつの尻尾は掴んだぞ」藤王はにやりと笑った。


 彼は使われなくなった旧校舎の一部インフラを復活させて、そこで寝泊まりしているらしい。

 問題は、誰をぶつけるか、だった。藤王はモノボードの情報を持っている。フェアな取引ならば、スウマキツミが応じる可能性は高いといえる。

 さてどうしようかな。呟いて、藤王はザ・トリガーを思い出す。そうだあいつにしよう。そう決めて、世界監視機構に指示を出す。そして、藤王は久々の仮眠を取った。

 システムの人工知能が、スクリーンセイバー代わりに禅問答を始める……。

 

 ザ・トリガー「ロスト」

 

 僕は授業の合間に、学園SNSで、日刊薙高新聞の特集に目を通す。

 

「ザ・トリガー、ピクチャレスを狙う凍結者フリーザを撃破!」

「軍事部は新聞部と敵対か!? そのとき情報部は?」

 

 さすがに、自分たちで襲ってきただけあって、情報が早い。

 

「私たちも助けに行きたかったんだけどねー」ヤヨイが呟く。

「パフェ当日割引券を貰っちゃって……つい……」ムツキが言い訳する。

「ごめん! ホントごめん!」カエデが謝る。


「別にいいですよ。一日くらい新聞部に買収されたって」僕のジト目は嫌らしく、声は冷たい。


「ま、今日からは本格的に護衛するからさー」ヤヨイが提案する。

「そうですね……今日は情報部に行く予定ですから、護衛をお願いします」

「あ、うちに来るんだ。彼女が嫉妬するわよぉ」ムツキがおどける。

「藤沢カオリの許可は取ってあります」僕は言い返す。

「彼女公認のハーレムかぁ……い、いやなんでもありません!」カエデが変な妄想をしている。まあこれもいつものことだ。


「一応、どの部活にも均等に顔を出すことにしているんですよ」僕は建前を述べる。


 本当は、エトピリカの駒鳥ススムからのメールが理由だった。

 世界監視機構のトップ――駒鳥ススムは知らないようだが、藤王アキラだ――からの依頼がある。情報部にて待機せよ、とのことだ。

 

 僕は放課後、三人の美少女を従えて、情報部に向かった。

 新聞部は、昨日の今日で襲ってくるほど間抜けではないらしい。僕たちはスムーズに情報部の部室に着いた。

 

「やあ。待ってたよ。ザ・トリガー」


 そこには「四角」が居た。丸、三角、四角は、それぞれ藤王の持つ人工知能搭載の人型ロボットで、四角の顔は名前の通り、四角形をしている。


「俺は四角。情報処理、論理学、推論に特化した人工知能を搭載している、藤王の分身の一人だ」

「それで、要件は?」

「『ロスト』という現象が、薙高全体を覆っている。この件について、スウマキツミと交渉、情報を取得してきて欲しい」

「スウマキツミ?」

「そう。忘れたのかい? タイムリピーターの一人だよ。居場所はもう割れている」


 これがその男の写真だ。そう言って、四角は一枚の衛星写真を手渡してきた。


「この、空に向かってピースしている男が?」

「そう。彼にとって何度目の、何万回目の交渉になるのかは、俺にも良く分からないけどね」


 タイムリピーター。同じ時を延々と繰り返す、人ならざる者。

 僕は、これから、そいつに遭いに行くことになる。


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