第十九話 凍結者(フリーザ)
僕と音無ヨウイチ(ピクチャレス)は、食堂で昼食をとっていた。
僕らを中心に、軍事部の面々が食堂に集って円陣を組んでいる。新聞部戦争の時期に入ったため、新聞部の襲撃を警戒しているのだ。その周囲には、駒鳥ススムもいる。任務、ピクチャレスの護衛は、まだ続いているらしい。
シーザーサラダを食べながら、
「新聞部に囲まれているぞ」と、ピクチャレスが告げる。
「そうなんだ。僕ら人気者だね」と、僕はおどけてみせる。
「フリーズ!」
声が響くと、僕らを中心とした半径十メートルのものが静止する。
僕とピクチャレスは、いわゆる金縛りに遭う。
「俺は新聞部の――凍結者。俺の指定したモノはその場で静止する……。ピクチャレスは回収させてもらうぞ、ザ・トリガー。あんたのサイコキネシスの能力は把握している。妙な抵抗はしないほうが身の為だぜ……」
ザラッ。音がする。何かが始まる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
僕は口元を歪めて笑う。これから始まることを考えると、笑わずにはいられない。ピクチャレスは本当に頭が切れる。朝のうちに、こんなものを軍事部から借りてくるなんて。白くて丸いもの。それが本当に、沢山。
「く、首から上の行動だけを許可する! いま何をした! 答えろ!」
「ザ・トリガー。答えろだってさ」ピクチャレスが促す。
「何って……ちょっと軍事部から借りてきたBB弾をこぼしただけですよ……3500発入の袋入りのやつをね……」
ザアアアアアアア……
BB弾は、足の踏み場もないほど、床一面に広がる。
それで、新聞部の後衛たちは、突っ立ったまま動けなくなる。歩けば転ぶと分かっているからだ。
「僕はこう考える……『俺の指定したモノはその場で静止する』とあんたは言った。では、あんたはいくつまで指定できるのか? このBB弾の全てを止められるのか? 無理ですよね。なら、僕たちの勝ちだ」
BB弾は浮遊し、立ち上がり、白い人の形を取る。
「ザ・トリガー、BBモード。今日、いや、ついさっきピクチャレスが発案したんです。面白いでしょう? 僕のサイコキネシスには、なるほど、まだまだ成長の余地があるらしい」
「BB弾が人型になって……そんな……静止しない……そんなバカな!」フリーザは焦って汗を流す。
「一個止めても十個止めても無駄ですよ。全部止めなきゃ、こいつの動きは止まらない……なにしろ、BB弾全部がこいつの本体なんですから」僕は説明する。
「じゃあ、そろそろ本気で戦いましょうか」
BB弾は凝集し、無数の拳を形作る。
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!
フリーザは、BB弾が固まってできた「拳」の突きの連打を直に食らう。
一つの拳を止めても、意味は無い。そのすぐ後ろには、新たな拳が控えているのだから。フリーザは殴られ続ける。能力の通じない相手と戦ったことがないのか、ボロボロになっても助けを求めようとしない。
「止まれ! 止まええええええええええ!」
フリーザがBB弾のほうに集中しているからだろうか。僕らの身体は、既に動くようになっている。そのために、僕は彼のほうに向きなおり、サイコキネシスの狙いも、ますます的確に、強力になる……という悪循環にフリーザは嵌っている。
「クソぉおおおおおおおお! 撃てえええええええええ!」
そこでフリーザは、初めて新聞部部員に指示を出す。僕は僕の周囲の空間をサイコキネシスで歪める。
キュゴッ! 僕のサイコキネシスで進路をずらされ、新聞部の撃った全弾が外れる。
そこで立ちあがったのが軍事部だ。彼らもまた、金縛りが解け、動けるようになっていた。
銃を発砲した新聞部部員に狙いを定め、次々と撃ち抜いていく。狙いと発砲に躊躇いは無い。『死ぬなら全弾使いきってから死ね!』昨日のピクチャレスの教訓が、ここで生かされていた。
新聞部員は床のBB弾で動けず、あるいは転び、ろくな抵抗もできずに、全員が銃撃を受けて行動不能に陥った。
「まあ、今日はこんなところかな」僕は呟く。
「黒木君……君と友達になっておいて、心底良かったと思っている。いや、マジでそう思う」ピクチャレスが尊敬の台詞を述べる。
「そんなに褒めるなよ。次からはもっと厳しくなるんじゃないかな。だってほら、僕、ザ・トリガーだし」
新聞部 凍結者、リタイア。
TO BE CONTINUED……