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第十八話 サバイバルゲーム

「邪魔しちゃ悪いですかね?」

 

 ひょろりと長い男、エトピリカの駒鳥ススムが、水城に問いかける。

 黒いスーツにサングラスという、一種の職業的な恰好は、この学園ではむしろ目立っていた。

 

「観戦するくらいなら、かまわないわよ」

「……ここに来る途中、新聞部部員を四人ほど始末しました。死んではいないはずです」

「そう」

「狙いはやはりピクチャレスですかね?」駒鳥ススムは問う。

「そうね……あるいは、ザ・トリガーかも」水城はくすりと笑う。

 

 パンパンと、銃撃戦が始まる音がする。

 ノートパソコンのディスプレイ上で動く赤と青の光点を覗き込んで、駒鳥ススムは面白そうな顔をする。

 

「時代はハイテクですか」

「ゴーグルにGPSが埋め込んであるの。戦闘後の反省会には必須ともいえるわね」

 

 確かに役に立つだろう。と、駒鳥ススムは思う。まあ、自分には関係ないが。

 

「しかしあなたも、出世欲の無い男よね」

「まあ、俺は秘密組織に属してるってだけで満足ですから」

「それで今回は何の用なの?」

「指令は、ピクチャレスの護衛です。彼はP2持ちではないですが、それゆえに、万一新聞部からP2認定を受ければひとたまりもないでしょう」

 

 そうかしら、と水城は言った。

 こうしている間にも、彼は仲間を造り上げていっているわよ、と。



「ポイントマン! あまり前に出すぎるな! フロントマン! ポイントマンを援護しろ!」


 ピクチャレスの指示が乱れ飛ぶ。サバゲー経験者と、未経験者で、アタッカーとディフェンダーを形成している。ディフェンダーは旗の周囲を警戒するだけで良いので、比較的楽なポジションだ。

 僕が驚いたのは、軍事部に所属していながら、銃器の取り扱いに詳しくない者がいたことだ。既に支給されていた銃を、飾りか何かだと思っていたらしい。やれやれ。引き金を引くのが初めてだという連中は、さすがに戦力として計算できない。

 

「ヒット! やられました!」

「同じくヒット! 戦線を離脱します!」

「アタッカー! 死ぬなら弾を使いきってから死ね! 出し惜しみするな!」

「了解!」

「アイアイサー!」

 

 僕の担当はスナイパーだ。M9は拳銃であり、決してスナイプ用の銃ではない。が、僕のP2と組み合わせれば、長距離のスナイピングも可能になる。

 尤も、そんなに簡単に位置バレをしてくれる先輩たちではない。僕はただ、時折視界に入る動く標的に、ピンポイントで数発ずつ狙撃していくだけだ。距離が遠すぎて、戦果の確認はできない。

 

「スナイパー、後退してディフェンダーの援護に回れ!」

 

 あっという間にアタッカーは摩耗し、不慣れなディフェンダーまでもが先輩たちの餌食になっていく。せめて旗を取られることだけは防ごうと、ディフェンダーたちは必至の迎撃を行う。僕は、そのサポートに回る。

 しかしそのとき、僕の肩に弾丸が着弾する。

 

「ヒット! スナイパーやられました!」

 

 僕は宣言して、セーフティーゾーンへと移動する。ボロ負けだ。ピクチャレスの指示はなるほど的確だが、それを実行に移す為の個人の技量が全く追いついていない。

 

 ホイッスルが鳴り響き、僕たちはようやくゴーグルを外す。赤チームの負けが確定する。

 結論から言えば、赤チームの戦果はゼロであった。青チーム、先輩たちの完全試合である。

 全員が集合し、校舎の壁面を巨大なスクリーンとして、どのように赤チームが敗北していったかの映像が映し出される。先行し過ぎたポイントマン。援護できなかったフロントマン。終始役に立たなかったディフェンダー。動きを悟られたスナイパー。散々である。

 その事実を噛みしめながら、僕ら新入生は水城先輩の薫陶を受ける。

 

「新兵諸君。今回は、個人の技量不足が敗因となったことは言うまでも無いだろう。だが、戦略的、戦術的に負けていたということはなかった。司令塔たるピクチャレスは、各タイミングでの現有兵力を適切に運用すべく最大限努力した。その努力に報いられなかった者たちは、己のやるべきことを悟っているかと思う。明日からの、射撃訓練などの各自の努力を期待する」

「イエスサー! 努力します! サー!」全員が斉唱する。

 そこには、軍事知識に甘えるだけのなんちゃってミリオタは、一人もいなかった。我々は一心同体の戦力であり、ピクチャレスの指示に応えるべく、無限に努力すべきことは明らかだった。

 そうして、僕たちのサバイバルゲームは終了した。もはや言葉は要らなかった。戦友たちと、僕らは笑い合った。

 

 その夜。僕は初めて学園SNSで日刊薙高新聞を読んだ。学園SNS自体はインターネット上に存在するので、薙高生なら寮からでもチェックできる。

 

「特集! ザ・トリガー! 彼は戦争の引き金を引けるのか?」

「ザ・トリガーは藤沢カオリと熱烈交際中!?」

 

 僕は赤面した。こんな記事が人目に晒されていたのか……僕はクッションに顔をうずめて、しばらくの間、じたばたと悶え苦しんだ。こうして、薙高の夜は更けてゆく……。


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