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第十一話 本の虫

 薙刀高校の図書館は別棟になっている。

 放課後、僕は図書館に向かう。


 僕は日刊薙高新聞――新聞部が発行している――の十年前の記事を探しに、ここに来た。

 だが、僕はその時知らなかった。情報部と図書部が敵対していることも、文芸部と図書部が親しいことも。

 僕はそうとは知らないで、宿敵のテリトリーへと侵入してしまっていたのだ。

 しかも図書館内ではケータイジャマーが働いていて、ケータイが自動的に圏外になることも知らなかった。

 

 僕は書架の中を進む。ここには本当にたくさんの本が取り揃えられている。

 「黒死館殺人事件」「ドグラ・マグラ」「虚無への供物」「匣の中の失楽」「エイボンの書」「無名祭祀書」エトセトラエトセトラ。

 あまり本を読まない僕には、どの本が有名なのかは分からない。厳重な鍵が掛けられた防弾ガラスのケースに入れられた本は、世界に数冊しか無い希少な本だったりするのだろうか。

 僕は当初の目的も忘れて、色々な書架を見て回った。

 

 そして、最初の攻撃は、僕が本棚と本棚に挟まれた場所に居る時に起こった。

 

 コトリ。一冊の本が傾く。

 コトリ。一冊の本が動く。

 コトリ。一冊の本が飛び出る。

 バサリ。一冊の本が落ちる。

 

 なんだ? 今何が起きた?

 

 バサササササ。周囲の書架の全ての本が磁石に引き寄せられるかのように引きずり出され、空中で支えを失っては落ちてゆく。

 

 超常現象! シークレットのP2持ちの襲撃か!

 

 落ちた本は積み上がり、山を形成する。それが、次第に集まり、起きあがり、巨大なムカデのような形態を取った。

 その虫の口から、分厚いハードカバーの本が、高速で射出される。僕は咄嗟にサイコキネシスを起動し、眼前にまで迫った本を静止させる。

 だが。

 

「くっ……強い……」


 本を動かす力は、僕がサイコキネシスで止めている力を僅かに上回っていた。

 そこに、第二射目が襲う。僕は一冊目の本を躱し、サイコキネシスを解除する。同時にサイコキネシスで二冊目の本の軌道をずらした。ありえない速度で単行本が飛んでいく。直撃を食らえばひとたまりもない。

 

「『本の虫』と、私はそう呼んでいるのよ。ザ・トリガー」

 

 僕から見えない位置から声が響く。

 

「誰だっ! どこにいるっ!」

「私は図書部と文芸部に所属する、チーム『クローゼット』の一人、本田マユミ。あなたに、図書館の地理を熟知したこの私が倒せるかしら?」

「お前……本を武器にして使うなんて……本が悲しむぞ!」


 その台詞に反応したかのように、虫は停止し、攻撃が少しの間止まる。しかし、それは嵐の前の静けさに過ぎなかった。


「あなたなんかに! 私の気持ちが分かってたまるもんですか!」

「子供の頃から本の中に逃げ込み!」

「本の中で暮らし!」

「本にしか救いを見つけられなかった私の気持ちを!」


 次々に射出される様々な本を、紙一重で躱す。躱しきれない本は、腕でガードする。痛さを通り越して、腕の感覚が無くなる。折れてはいないが、ダメージが積み重なれば、このまま倒れてしまうだろう。

 僕は別の本棚の後ろに逃げるが、無数の本の集合体、本の虫も追ってくる。自動操縦型のP2か。厄介すぎる。

 

「遅れたけど、助けに来たわよ!」


 ムツキの声がする。そう。僕達はチーム。あらかじめムツキたちと一緒に行動しておけば、こんなことにはならなかった。全ては僕のミスだ。


「ヤッホー! 到着ぅー!」


 ヤヨイが僕の元に駆けつける。そのヤヨイをめがけて、すぐさま本が射出される。

 

「危ない!」

「平気だよー。ヤヨイ、強いもん」


 ボクシングスタイルを取ったヤヨイは、高速で飛来する本を次々と拳で撃ち落としていく。まるで、拳が、ボクシンググローブのような不可視の力場で覆われているようだ。

 確か、カップラーメンとかいうふざけた名前が付いていた能力だったはずだが、単純戦闘にも応用できるらしい。

 

「カップラーメンは三分間待つんだよー」


 意味不明なことを呟きながら、ヤヨイは徐々に前進し、本の虫を射程に捕えた。


「ラッシュの速さ比べ、しようぜー」ヤヨイがくいくい、と挑発する。

「くっ! 本の虫よ! そのまま敵を押し潰せ!」

「じゃーいくよー。オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」


 ヤヨイのそのラッシュは圧倒的だった。本の虫の手足は吹き飛び、胴体もまた、次々と削り取られていく。本は補充されていくが、そのスピードが破壊の速さに間に合わない。


「そんな……本の虫が……崩れる!?」


「チェックメイト!」本棚の後ろで、カエデの声がする。


 後で知ったが、ムツキの遠隔視能力リモートヴィジョンで本田マユミの位置を発見し、カエデが騒音消去能力クリアノイズで近寄って、本田マユミの背中に銃口を突き付けたのだ。

 

「私には、私には……本しか無かったのよ……」眼鏡を掛けた、三つ編みの、本田マユミは泣いていた。

「あんたにはチーム『クローゼット』とやらの情報を吐いてもらう……。でもまあ、とりあえずは、本を片付けなきゃな」


 僕は本の山のほうへと歩いていく。振り返り、一言台詞を投げ掛ける。


「あんたも手伝えよ、本田マユミさん」

「へ?」

 

 こうして僕は、初のP2戦で、仲間に助けられつつ、辛くも勝利したのだった。


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