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第十話 藤王アキラ

 放課後、藤沢カオリには、平安部には後から行くと伝えて、僕は教室に残った。

 僕は情報端末の前で、学園SNSの検索エンジン、スクナヒコを起動する。

 

 まず「モノボード」で検索してみる。

 該当、なし。

 次に「タイムリピーター」で検索してみる。

 該当、一件。あった。

 

 コミュニティ:タイムリピーター連絡室

 

 1:必要な時に

 

 2:誰が立てたの?

 

 3:クソコミュ発見age

 

 4:<削除されました>

 

 5:<削除されました>

 

 6:<削除されました>

 

 7:<削除されました>

 

 8:<削除されました>

 

 僕は削除されたログが読めないか、ムツキのケータイに電話して訊いてみる。削除されたログは、手動で保存している人がいない限り読めないらしい。

 しかし続けて、ムツキはこう言った。


「何を調べてるのかは知らないけど、情報部名誉部長の藤王ふじおうアキラなら、ログを持っているかもしれないわ」

 

 僕は(聞き覚えはあるが)藤王アキラとは何者か、説明を求める。

 ホントに何も知らないのね。そういいつもムツキは教えてくれた。

 

「通称、『魔王』よ。人が出来ることならなんでもできるって噂されてるの。天才ハッカー。数学者。物理学者。人工知能学者。ロボット工学者。学園SNS管理者。新OS、シルバースネイルの上に学園SNSを移植したのも藤王アキラよ。でも――」

 

 ムツキは言い淀んだ。

 

「――魔王と話すには対価が必要よ」

 

 対価。それは通常の手段では入手できない、貴重な「情報」でしかありえないのだという。僕の知る限り、僕の手元には、そんな情報は存在しない。

 

 僕が諦めかけたとき、平安部の横島ツカサ(こういうときだけは本名で呼ぶものだ)の顔が浮かんだ。彼なら、藤王アキラとのパイプを持っているかもしれない。僕は、そう考えて平安部の部室に向かった。

 

 平安部で僕を待ち受けていた藤沢カオリと合流し、優雅な午後のティータイムが始まった。平安部の伝統として、BGMは吹奏楽部が担当している。なぜ放課後に紅茶を飲みながら「ワルキューレの騎行」を聞かなくてはならないのか、かなりツッコミたいのを我慢して、僕は邪を待った。

 だが、今日の邪は忙しく、部活に顔を出せないらしい。ケータイにも掛けてみたが、圏外になっている。僕はふてくされながらクッキーを口に運んだ。意外に甘くておいしい。僕の彼女にはお菓子作りの才能がある。

 

「なあカオリ、モノボードって知ってるか?」

 

 何気なく聞いたその質問に、意外な反応が返ってきた。

 

「黒木君……十年前の集団自殺事件を調べてるの?」

 

 十年前?

 あのタイムリピーターは、「これから対峙する」と言っていた。それが十年前ともなると、話が全く違ってくる。

 あるいは、今度は二度目なのか。あの女は、「遮断」すると言っていた。すると前回は、モノボードを遮断できなかったのか。それとも――


「いや、別になんでもないんだ。忘れてくれ」

 

 僕はお茶を濁す。心配そうな顔をするカオリ。

 明日の放課後、図書館に行って十年前の資料を当たってみなければならないだろう。その情報と、モノボード再来の件の情報を魔王に渡して、僕はタイムリピーターの情報を得る。フェアな取引だ。悪くない。

 

 僕が最後に齧ったクッキーは、ふんわりとレモンの味がした。


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