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烏の羽根  作者: Taka多可
3/18

3、標的

朝早くの神社。

人気ひとけのない、静かな境内。



赤いTシャツの少年が沢山の鳥に囲まれて立っている。


「いいか、皆。これから全員でこの女の子を捜しに行く。

 見つけたらすぐ、オレに知らせてくれ。フォボとディモ、 (どちらもカラスだ)

 お前達は俺と一緒にここへ残って連絡係だ。 皆 頼んだよ。 じゃ、行って!」


       バサササササササっ!!


少年の合図で鳥達がいっせいに飛び立っていく。

カラス、ハト、スズメ、シジュウカラ、オナガ・・・


______________________________________



カルテを受け取った日から二日目。

オレはターゲットの病院へ何度も飛んでみた。だがすべて空振り。

とっくに脱走した後だった。

時間を置いていってみても、面会時間ギリギリまで戻ってこなかった。


「なんか理由でもあるのかな・・・?」


もう一度カルテを見直してみた。


_小さいころからずっと病院にいる。

_学校へ全く通っていない。

_母親は病院へ見舞いにほとんど来ない。


・・・・・・・・・

思いついたのは『寂しさ故か?』 ということくらい。


「母さんに会いたい・・・・・・・とか・・?

 参ったな、上手く回収できないかも…場合によっちゃ強奪になるかな…超、面倒くせぇ~…」




  ・・・とんとん・・・・

誰かが石段を登ってきた。

「!!  (二人とも、離れろ!)」   バササッ


オレもとりあえず座っていたベンチの裏に隠れた。

姿を見せたのは女の子。 青いYシャツにジーンズ。

{あれ? もしかして・・・!}


ほんのり茶色い短髪、毛先がぴんっと跳ねている。

「ふぅ!やっとついたー♪」


音を立てないよう慎重にカルテの写真と見比べる。

間違いなさそうだ  やっと見つけた・・・!


『鶉野 あさな:13歳、肺に重い病気を患っている。』


女の子は時折 胸に手を押し当てて息を整えている。

どうも危なっかしい・・・

そんなことを考えているうち、案の定 急に咳き込みだし倒れてしまった。




「お・・おい!!」

ほうっておくわけにもいかず、飛び出した。


「大丈夫か!?」

「はぁ…はぁー… ありがとう、ございます…」


思わずだき抱えてしまってから気がついた。

なにか柔らかい物があたっている。


「んっ・・・ぁの・・・・・」


もぞもぞ動く。顔が赤い。


「! ごっ ごめんなさいいいい!!」


確か、『人間の女性の胸部は迂闊に触ってはいけない』って注意されていたんだ…


「ゴメンな・・・うっかり・・・」

「・・・・・」



「あさなちゃん!」

「!!」 「なんだぁ?」



女の子の顔が一瞬曇った。

看護士達が2・3人石段を駆け上がってくる。


「やっぱりここにいた! もう、逃がさないからなっ さ、病院へ帰るよ。」

「・・・ハイ・・・・・」


沈んだ顔・・・やっぱり、病院に居たくないんだ…


「きみが見つけてくれたんだね? ありがとう、ゴメンね…この子、病気で入院してるんだよ。」

「いえ、大丈夫です。それよりオレの方が悪いことしちゃったみたいで…」

「? そうか… それじゃ。 ほら、行くよ…」


「あっ  ちょっと待った!」

女の子の肩をつかんだ。


「…なんですか?」


怯えさせてしまったらしい。 顔がこわばっている。


「オレ、クロウ! 粕我 (クロウ) っていうんだ。 名前、教えてよ。会いに行くから・・・!」

「・・・・・鶉野・・あさな   です・・・」

ふっとやさしい顔になった。 うっすら頬がピンク色に染まった。


「いい名前だね。 じゃ、後でね!!」

手を振って分かれた。




石段から人影がなくなったのを確認して

「さて・・・と。」


オレは小さな鈴を鳴らした。ベルゼ先輩からもらったヤツ。

フォボとディモがサッと飛びでてきた。

「皆に連絡してきて。もういいって。 ここに集めてくれ。お礼の朝飯、用意しとくから…」






______________________________________


病院への帰り道

看護士サン達はしつこくあたしにあの男の子…クロウ君のことを聞いてきた。


「あさなちゃん、 何かあったの? あの男の子と…」

「…ぅぅん…あそこで会っただけです。でもすごく不思議な人だった。どこからか突然出てきたの。」

「ふーん…?」




______________________________________


「よ! 遊びに来たぜ~」

「クロウ君。本当に来てくれたんだ!うれしい!」


昼過ぎ、買い物袋一杯にゼリーとスナック菓子をもって、あさなの病室に入った。


「今日、土曜日だし友達とかお見舞い来てくれるんだろ?いっぱい買ってきたよ」

「……ごめんなさい…私、友達いない…」

「へ?!」


あさなはうつむいたまま話し出した。


「小さい頃から通院していて、小学校へ入る直前に入院したの…入学式も、卒業式も出てなくて…中学は入学式だけ。」

「じゃぁ 本当に一人も……」

「うん……けど、仕方ないモン。お父さんもお母さんも病気がちな人で、お母さんは私を生んですぐに死んじゃったんだって。それで、新しいお母さんと再婚して…けど、その後すぐお父さんも死んじゃったの。  本当の子じゃない子供を一人で育てられるほど心の広い人なんかそうそういないよ…」

「・・・・・」



俺は黙って聞いていた。

なにか、寂しさとは別の 悲しい気持ちがあさなを取り巻いているのがわかった。


「よーし!わかった!!」

「・・ぇ?」

「俺が最初の友達だ! いいだろ?な!」


「・・うん・・・・・!!」




瞳に目一杯涙を浮かべて笑った顔が  俺の身体を縛り付けた



人間なんか 嫌いなはずなのに





どうしてこんなに    心配しているんだろう・・・・

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