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烏の羽根  作者: Taka多可
16/18

15、羽筆


「………」

「………」






壁の大穴から差し込む月明かりが、病室内を青白く照らす。

風は吹いているのかわからないほどに弱い。


時計の針を見るのは止めた。

もう、わかっている。


「……翼、大丈夫?」

「ん、もう血は止まってるし傷もすぐ塞がるさ。」


くしゃくしゃとあさなの髪をなぜながら左翼を指す。まだツンツンの小さな羽根のモトで覆われている。

しかし、問題がある。


「あ゛ー カユいッ!」


ものすごく痛痒くて……


「ふふ…」


辛そうだったあさなの顔がようやく緩んだ。

それで充分だ、と思わなければ……


あさなが聞かなかったから俺も言わなかったが…

このあさなの病室全体に結界が張られていて、視覚聴覚振動など全ての情報が結外界から隔離されている状態になるため、あれだけ大騒ぎしていても誰も駆け付けてこないらしい。

未だに誰も来ないってことは…多分あさなが死ぬまで有効なのだろう



あさなが俺の肩にもたれ掛かって来た。

「…側にいてくれたこと、すごくうれしかったよ。もっとずっと…クロウ君と一緒に居たかった…」


「無理だな。多分あさなの魂も…再生命化の材料に回されるぜ。」

「……そっか…」


わざと冷たく。

向かせないように。

振り切るために。


そうするつもりなのに、やっぱり…辛い。

時計の針の音が嫌なほど響く。



「…ごめんな、結局最期まで恐いおもっ…!」


俺の言葉は

あさなの唇で遮られた。


「!!んななななっ!?」


こんなに取り乱したことなんてない。

気を緩ませるためにオンナの唇を奪ったことは何度かあるが…隙をつかれたのは初めてだ。


「あたしも悪魔になる。そうしたらまた会えるよね?」

「ちょっ…ちょい待て!?おいっ!!」


あさなは俺の胸に顔を押し付けた。


「クロウ君、だいす…」



言葉が途切れた。

「あさな……?」







           ゴォオオオオ!!

「ッ!!」


豪風に乗った木の葉が痛いほどに叩き付けてくる。




「ぁ…」


少しして…穏やかな風が、流れ始めた。

あさなに向かう風ではなく、他の誰かに。



「(……わかってるさ…わかってるよ! なのに…何でこんなに(こころ)が痛いんだよ……!)」


あさなの肩を掴んでいた右手の中に…薄い茶色の光りを放つ石がある。


俺はようやく時計を見た。

時間はAM.01:41。

はやく、後始末をしなければ…







病室内に血を撒いた。

ベットや棚などがもとの位置にもどる。

天使たちがぶち抜いた壁もほとんどふさがった。

あさなが結界を解いたときに破れた呪札をはがして、あさなをベットに寝かせた。


壁の穴から外へ出て…


「ぅおっとと…?!」


まだ、羽ばたくには体力が足りなかった。

落っこちかけて、あわてて樹の枝にしがみつく。


地面に散らばった瓦礫にも血を落とす…

チョコレートのようにグニグニと動いてもとの壁の位置に納まる。

窓にはきちんと鍵もかかった。


「………さよなら。」




―――――――――――――――――――――――――――――――




クロウは樹から降りて…何処へともなく、歩き出した。


その頃…

あさなの病室での大騒音が数十秒間に凝縮されて轟き、慌てて駆け付けた看護士たちによって…体温を失った彼女の抜け殻は見つかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――





どのくらい時間がたつか。神社の境内に俺は居る。

もう泣き疲れた。


「…ちきしょー…」


なにを悔やんでいるのかもよくわからないけど、兎に角、悪態つかずにはいられない。


ぎりぎりと音がするほど…光る石をにぎりしめた。


「お疲れさん。」

「…先輩…」


ぽんぽん頭を叩かれる。

いつもなら物凄く嫌いな行為だが、今はいつも通りなその行動にホッとしている。


「…これ……」

「あぁ、よし……」


俺の渡した石に印を付けていつも通り羊皮紙にダサイ柄の羽根ペンで必要事項を書き込んでいく。


「しかし…なんだ?珍しいな、そんなに落ち込んでいるなんて……この前なんか、女の子の気を引き付けるために押し倒したりし……」

「それ以上いうなぁああああ?!いかがわしいことはしてない!!!」


そう、俺の人間界での行動は ほとんど筒抜けになっているらしい。





「あの…先輩…  …俺、規則…破り……」

「ん?何だ?」

「ぇ…あの……」


ベルゼ先輩が一瞬、にやっと笑った。

「まぁ、報告するのは石の情報だけだからな。お前の軟派さは問題外だよ。」

「……先輩ぃ…」


結局、助けられる訳で…。


書き上げた書類と魂の石を、郵便コウモリの首からかけたポストに投函する。




♪ぱんぱぱぱーッぱぱらぱー♪


「ぅだあっ?!」

「おっ」



正直、びびった。

ダサい効果音と紙吹雪が飛び出す。

郵便コウモリは何事も無かったかのように、ぱたぱたと飛んでいったが。


「おめでとう、クロウ=カスガ。今の魂の石で調度ノルマ達成だな。」

「…あっ!」


そう、『ルーキー (新米悪魔)』には達成目標が決められていて…

それをクリアして『ディビラ (中級悪魔)』となる。

ちなみに、ベルゼの称号は『ガーディビル (監視員悪魔)』だ。


「私が担当している連中の中でお前が一番最初か。まっ当然の結果だろうけどな。…ほら、ピアスだ。」

「ども…」


ランクを示す紅いピアス…  翼に付けることにした。


「なかなか、様になってるじゃないか。」

「……」

「嬉しくないのか?」

「いや、嬉しい…ですけど……」


かなりタイミングが悪い。こんな状態で喜べって言うほうが酷ぇ…



「……ん?ピアスのはいってた袋の裏、手紙がついてるぞ?」

「え?」

「読むぞ『最先に進級したルーキーに対する進級祝い。望む褒美を規律範囲内で比較的自由に与える。』…だそうだ。」


「ぇえっ?!」

「ぁー、なるほど。」


ベルゼが書類を広げながら一人で納得している。


「な、何すかそれ?」

「なんだ、知らないのか。悪魔として生まれた年毎に、そのうち最先六体までが得られる優遇賞品だ。」


とてもオイシイ話なのはわかるが…


「あの…俺、いまそんな気分じゃ……」

「無茶な願でない限り、大体叶うらしいぞ?」

「……本当に?」

「流石の自分も、こんな時に誰かを騙せるほど器用じゃないさ。」



互い…ふっ、と 微笑った。


差し出された羽根ペンと羊皮紙。

字なんか下手でもかまうもんか。ありったけの気持ちを書き殴る。


めちゃくちゃな文章でも、ようは間に合えばいいんだ。






ていうか間に合え…!

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