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烏の羽根  作者: Taka多可
15/18

14、光鎖


《……ま、アサナ様、しっかりなさってください。》

「ん……?」


揺り起こされて ぎょっとした。

女っぽい体つきの戦天使がいつの間にか横にいる。


「ぁ…あ……」

《突然呼吸が乱れたので心配したのですよ。でもまだ大丈夫ですね、よかったですわ。》

「え…?」


バキィイイン……!

「!?」


結界になにかがぶつかったのか、青緑色に光って弾けた。


「ッ クロウ君!?」


ズタボロになった黒い翼の悪魔が…

壁に、光の鎖によって貼付けにされている。

光る十字架に……

全身血みどろ。

Tシャツもズボンもビリビリ。

一番ひどいのは翼。

特に左の翼は何箇所も穴が開いていて、とめどなく滴り落ちる赤い雫が床に水溜まりを作っている。


《もう少々お待ちください。すぐにあの悪魔を処分致しますから…》

「だっダメ!クロウ君は殺しちゃダメぇ!!」

《殺すことは出来ませんよ。》

「?!だって…」

《存在自体を消滅させるのです。殺傷とは『生命』の破壊を指します。『命』と呼ばれるモノを持たない悪魔や天使の戦いにおいて、殺傷は意味がないのです。》


ひどい寒気がした。

戦天使はニコニコと話し続ける。


《『肉体と、聖気又は邪気』を同時に破壊することを消滅と指し、存在を消すことになるのです。先に消滅した準天使達は、悪魔に羽根を毟られ、そして同時に聖気も破壊された訳です。》

「同じことじゃない!」

《違うのですよ、天界の法則に触れればすぐに理解できます。さあ、我々と一緒に行きましょう。もうすぐですよ。》


あたしは差し延べられた手を、払いのけた。


「ぃゃ…嫌ぁ……!!」




クロウ君は、確かに悪魔だったけど…

小さな天使の羽根を引き千切った時でさえ苦い顔をしていた。

悪魔のほうが、゛死゛を重く受け止めているのかもしれない。

゛殺す゛と、笑顔で言えるようになんて…絶対になりたくない!嫌だ…!!!


――――――――――――――――――――――――――――――


《あと数十分か。キサマは運が良いな。素晴らしく強力な天使の、誕生の瞬間を見守ることが出来るのだ。神様に感謝し、消滅を受け入れるがいい。光り輝く十字架で……》

『…うるせえ……』

《今すぐ消えるか?》

『…………好きにしろ…』


情けない話だ。

幾ら羽根を毟り、攻撃を繰り返しても…でかい天使は、指先から放つ銀色に光る極小さな珠で簡単に打ち落としていく。

左の翼はその珠によって撃ち抜かれ、あっさり捕まってしまった。

天使どもの声は、直接脳に響いて嫌でも聞こえてくるが、その他の音は全く聞こえない。

一方俺は、声を出すことさえままならない状態。

声の代わりに 相手の脳へ直に意思を伝える。

言葉よりもこのほうが体力を無駄に使うことがない。


魔力は無駄遣いになるけど。


《ハルサー様ッ このままではアサナ様が……》

《ふーむ…混乱し始めているか。このままでは危険だ。》


ハルサーと呼ばれた天使は俺のほうに振り向いた。


《残念だが、おまえがここにいては儀式が行えないらしい。見せてやるつもりだったが予定変更だ。先にお前を消滅させることにした。》



ハルサーは、翼を広げた。

結局、なにもできずに終わるのか…

ベルゼの先輩に世話になったお礼できなかったし、ペモリンとの約束守れなかったし…


あさなのこと…傷つけたまま……


泣かせて、悲しませるくらいなら…

いっそ、なにも知らないまま死なせた方がよかったのか…?


何かを守る事が


苦痛でしかないなら


『すき』なんて感情は捨てるべきだった。


頭の近くに強すぎる聖気を感じた。







『(あさ……な………)』



「絶対……ダメぇええーー!!!」

《きゃああッ!?》





 ブブゥ…………ンッ

   パシュン! バチン!


《何だ、結界が……消えた!?》



聞こえないはずの耳にもその音は聞こえた。

鋭い、引き千切るような音。

そしてうっすらと…暗界の気が流れ込んできた。

何が起こっているのかわからないが、そのおかげで腕に少し力をいれるだけで、光る鎖は簡単に外れた。


どたっ!

「痛っ……」



がばっ!!

「クロウ君!!」

「っ!?」


「あた…あたし…ごめんなさ……!」

「………あさな…」





《何故だ…?こんな馬鹿な…!!アサナ様ッ『それ』は……!?》

「?」




あさながしっかりと握っているのは 漆黒の羽根。


《どうしてアサナ様が魔性の羽根を…?!きさまっよくもこんなことを!!》

「…なんの…、ことだ?」


…天使や悪魔の羽根を人間が持つと、極稀にとんでもない効力を発揮することがあるらしい。

だが、この時点での俺は、知らなかったんだ……



「オレは、ただ…」


あさなを

傷つけたくなくて。



いつのまにか翼の傷からの出血は止まっていた。

あさなにわたしておいた羽根に残っていた魔力のおかげだろう。気休め程度だが役立った。

あさなはボロボロと涙を流し続けている。


時間がない。


「…おい、デカブツ。」

《口の聞き方に気をつけろ、極悪。》


「こいつの魂、回収したって多分役に立たないぞ?大体悪魔のオレに惚れ込んでいるわけだし…天使になったところで云うこと聞くとは思えないぜ。」

《………》





ほんの少しの沈黙の後。


《アサナ様…》


ハルサーは、オレに背を向けた。


《皆、退却するぞ。》

《ハルサー様!?》

《悪魔に魅入られた人間の魂なぞ…我らに、天界に混沌を導くだけだ。上層部にはそう報告しておこう。…さらばだ。》


二言を発する事なく 壁の穴から身を乗り出すと……

大きな翼が輝きだし、静かに飛んでいった。



《あのっ…ハルサー様ぁ!!》


他の準天使や戦天使が後を追ってわらわらと出ていく。















しん…と病室内が静まり返る。

「……ようやく、終わったか…」



ふと気がついた。

俺を抱えていたあさなの細い腕に力が無くなっている。


「あさな…?」

「ぅ…ん………」


疲れたのか、額が汗でぬれている。


はっとして腕時計を見ると…



「!!」








時計の針は、 AM.01:20をとっくに過ぎていた。

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