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烏の羽根  作者: Taka多可
13/18

12、極白


「…何、これ…?」


衝撃でベッドから投げ出されたあたしは、あまりの事に立ち上がることさえ出来なくなっていた。


何度目を擦っても…

崩れた壁、砕けた机、壊れたのに変な音を立てながら光り続けるデスクライト……

何一つもとに戻らない。



《ふん、もう終いか。》

壁の穴から入ってきたのは…さっきまでの小さな天使と違い、翼が六枚もある大柄の天使。

銀色の長髪を緩くみつあみにし肩から前に垂らしている。

筋肉でぎっしりな身体にぴちーっと密着した服、ガサツに巻かれたショール?と云う、いかにも異世界の登場人物のような、姿。


それに続いて翼が二枚、四枚の天使が何人か。


ようやくなんとか現状を飲み込んだ。

この天使達が病室の壁を壊して突入してきんだ。




「…!クロウ君!!」


呆気にとられて反応できていなかった。ガレキの下敷きになってる!

とにかく、はやく助け出さないと…!



バチィッ!!


「ッ!?」

立ち上がった途端、突然前が青緑色に光って弾けた。


《! 成る程、結界を張っていたか。》


六翼の天使は何のためらいも無く、立ちすくむあたしの前 (結界越し)へ進み出ると 深く会釈した。


《大天使、ミカエル様の次に並ばれる方…アサナ。お迎えに参上つか奉りました。貴女は戦天使を経て五人目の大天使となる方。人間の姿で生まれた天使と言っても過言ではありません。えりすぐられた人間ですから。某はハルサー、剛天使にて力天使を束ねる総司令兵天使。》



天使達は皆、ハルサーの後ろでひざまづいている。


なんだか…ひどく恐い。



ハルサーは身体を起こすと、筋肉で堅く引き締まった腕を結界の中に突き入れてきた。


あたしがほんの少し触れたかどうかくらいでも電気が走ったようだったのに…

ハルサーは青緑色の電撃をものともせず結界の中へ進んでくる。


体中から汗が吹き出していく。

天使=神秘性 のイメージはほとんど崩れた。

怖くてたまらない…耐えられそうにない。



そうしているうちに、ハルサーは結界を完全に越えてこちら (ベッド)側に入って来た。



「あ…あの……どうしてあたしが、天使に…?それに…その………」


《悪魔根絶の為です。》


ハルサーは、淡々と続ける。


《天上界は今、深刻な天使不足になっています。そのかわりにとでも云うかのように悪魔は次々と殖えているのです。悪魔達は[生命化]を行うことで数を減らそうと努力している--などと云っているが、そんな訳はあるまい。断じて悪の存在を許す訳にはいかないのだ。

しかし、天使になることが出来るのは汚れのない奇跡の心を持つ存在か、神が炎からお造りになったオリジナルから増殖することのみ。だが、どうしても戦天使にまで成長することが出来る天使の数は激減するし、増殖は時間がかかりすぎる事が欠点だ。

そこで、我々は神の祝福が多く残る幼少の人間の魂を矯正して戦天使として育成する事を考えついたのだ。》

「…ぇえ?!」

《比較的寿命の短い人間の運命表を修正し、死期を早めた。事故等で入院し、苦しみながら死ぬ運命ならば…即死のほうが[憎悪]の心で神の御力を失わずにすむ。

また殺人や虐待は[悲]の心に満ちやすいが、我々の勧誘に乗りやすくなる点で補える。

この作戦を始めたのはほんの数年前からだが、すでに世界中から集めた魂の中で戦天使になれたのは100体ほどだ。》


話を続けようとするハルサーをあたしは睨み付けた。

「…まって、つまり……」



お願いだから。


夢なら醒めて…………



「今までに亡くなった子供達の…ほとんどは、天使にする為だけに殺したの!?」



《そうです。先程も言いましたが、悪魔根絶の為には少しでも多くの天使を必要とします。

神のお造りになられた失敗作もこういう使い方が可能だったと…もっと早くに気がつくべきでした。きっと、神はそのために我々天使に人間の管理をさせ続けていたのでしょう。》


ハルサーは、神様を賛美するように崩れた壁の外に向かって天を仰いだ。



看護士さん達から聞いていた。

この病院には幼稚園児くらいの小さな子供も沢山入院していること。

特別親しかった訳ではないが、そういうちっちゃい子達と遊ぶことはあった。


『お姉ちゃん』

そう呼ばれるのがくすぐったくて、うれしかった。


ところが、そんな小さな子達は…ぱたぱたと消えるように死んでいった。


その理由が……天使達の一方的な決め付けのせいだったなんて………!!



「本当にあなたたち天使なの!?生き物の命は全部神様が決めるんでしょう?それを勝手にいじるなんて…!返して!ケンちゃんやみやびちゃん、きょうこちゃん達の命!!  この…外道天使…!!」



息を荒げながら必死に怒鳴った。

でも……ハルサーは眉一つ動かさない。

あたしを制止すると、また淡々と話の続きをし始めた。


《アサナ。貴女が言うことは全て感情論に過ぎません。天使になれば、わかります…悪魔がどれだけ憎むべき存在なのか。天使が憎むは唯一悪魔のみ。

また、貴女は他の人間から比べれば神の祝福を大いに受けています。ですから、運命表を修正する必要はありませんでした。

身体は傷つけられていても心は汚れなきまま。とても、美しく気高な天使となることでしょう。ミカエル様やガブリエル様のように。

なお、貴女の命は午前01:40分までです。それまでのあいだにそこの悪魔を片付けます。 しばし、御免。》


ハルサーは、また結界から出て行く。



「いち…じ……ッ」


慌ててベッドの脇に転がった時計を拾い上げた。


真夜中の12時を10分くらい過ぎた頃。



「クロ…ぅく……ん……」



________________________________________________________________



あさなは、半分失神していた。


そこへ


漆黒の羽根が舞い落ちた。




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