11、銀血
最後の日の朝・・・
「・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・あ゛ぁ~!! やっぱ無理だぁああ!!!」
早朝の境内に、絶叫が響いた。
ハト餌の豆をついばんでいたフォボロスたちがびっくりして飛んでいってしまったのにはっとして、ようやく、俺がものすごい大声をだしていたことに気がついた。
オレは、努めて平然を装おうと神社で練習していたが、ことごとく崩れた。
何を言えばいい?
どう言えばいい?
オレは・・・どうすりゃいい?
なにもできやしねぇ。
だったら・・・・
自分をさらけ出すしかない。
結局思い立ったのは開き直ることだった。
最悪だな、自分…(涙;)
そして、あさなの病室・・・
「クロウ君・・・それ、なに?」
「ん~、御札だよ。天使よけにって、先輩がくれたんだ。」
「天使・・・てことは、もうすぐつれていかれちゃうのかな・・・・」
あさなは力なく笑った。
「大丈夫、連れて行くのはオレだからな。 天使なんかに渡すもんかよ!」
窓とドア、ベッドの柵に黒い呪札を貼り付ける。
「あとは・・・・これ、やるよ。」
「? 黒い羽根・・」
「オレの翼から引っこ抜いたんだ。オレの一部だから、俺の攻撃の巻き添えは絶対喰わない。 敵からのダメージを減少させる効果があるし、その辺に貼った札が結界になるから大丈夫だよ。」
「待って・・・まだよくわからないよ、どうしてこんな・・・・・」
冗談にしては、手が込みすぎてる・・・
そう言いかけたのだろう唇を指で制止する。
「言ったろ? オレは悪魔だ。 ・・どうしても怖くて仕方なくなったら、その羽根に向かってオレを呼んでくれ。 すぐにくるから。」
「・・・・」
不安そうに黙るあさなの頭をくしゃくしゃになぜながら付け加えた・・
「・・・絶対、あさなはオレのものだ。渡さない・・・・・・」
「クロウ君・・・・」
「さってと。準備もあるし、今日はもう帰るから。」
「ぇ!? あ、まってよ・・・・」
ばたんっ
「・・・どうして・・・・?」
夕方・・・・
烏の姿のオレは、病院の側のいつもの木の上から空を見上げた。
{チッ・・天使どもがうろついてんな・・・・}
人間には心地よい、オレにはイライラする嫌いな風。
ふと、あさなの病室を覗くと看護士とあさながしゃべっていた。
(鶉野さん、今日はいつもの男の子こないの?)
(朝、早くに来たんだけどそれきりで・・・)
(そう・・・・・ あ、ほら。風が気持ちいいわね~。もう、夏終わっちゃうね。)
(うん・・)
この風を止めて、人間の魂を回収することがオレの役目。
風は神の吐息。
風が吹き付ける間、人間は生きつづけるらしい。
寿命になると、少しの間風が一時止まり、風が急に強くなると死。
あさなに向かって吹く風は少しずつ威力を弱めてはいるが、それに反比例するように天使達の数が増えていく。
風に乗って天使があさなの様子を伺っているのがわかる。
{・・・あと、少し・・・・・か・・・・・}
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
深夜・・・・
「クロウ君・・結局こなかった・・・・・」
・・コンコンッ
「鶉野さん、そろそろ電気消してくださいねー。」
「はぁーい。」
あさなは、読んでいた本をしまい、窓とドアの鍵を確かめる。
蛍光灯の紐を引き、暗くなった部屋。
窓と、ドアと、ベッドの柵には黒いお札が貼られたまま。
発光塗料なのか、ぼんやりと変な文字が浮き上がって見えている。
部屋の真ん中でそれらを一つ一つ眺める。
「(・・・・本当に・・・最期になるのかもしれないのに・・・・最後の最期までチャカされちゃったのかな・・・・・ やっぱり、ちょっと寂しいよ・・・)」
再度二つの鍵を確かめた。
はずだった。
「・・・・ぇえ!?」
窓もドアも鍵がかかっているのに、いつの間にか真っ白な一対の翼を持った小さな子供が三人・・部屋の中にいた。
「ぁ・・あなた達は・・・・だれ・・・?」
<<ウズラノ アサナ、迎エニ来マシタ。>>
<<私達ハ、アナタヲ天界ヘ運ブ者。準天使。>>
天使・・・・・!?そんな・・
<<アナタハ優秀ナ人間デス。 '戦天使'トナルベク、優秀ナ命。私達ト共ニ・・・・>>
「戦天使・・・・?」
<<悪魔ト戦ウ強キ天使。 特ニアナタハ四大天使"ミカエル様"、"ウリエル様"、"ガブリエル様"、"ラファエル様"ノ次。 第五ノ大天使"ウズァエル"ト、ナラレマス。>>
<<アナタノ勇気、ココニ誓イノ 証明ヲ・・・・>>
「・・・そうはいくかぁああああ!!!」
バシャ――――――――――ン!!!!
「!!?」 ガシャンッ パリン!
ひどく驚いたようだった。 無理もない。
窓をぶち破って、急に黒い翼の生えた男が飛び込んできたのだから。
<<悪魔ガ遣ッテ来タ・・・連レテ行カレテシマウ。>>
<<早ク、一緒ニ・・・・!>>
「悪いが、そうはいかねぇ! その女はオレのモンだっ 渡せねぇんだよぉ!!」
「・・・・!」
どうやら、相手は準天使。
聖なる光とやらでオレの動きを喰い止めようとしているがほとんど効かない。
オレの闇の鼓動が全て弾き飛ばす。
<<悪魔・・倒ス!倒セ!倒セ!!>>
「殺られるかよッ!」
オレは天使の一匹を捕まえた。
「ぉらあ!」
ビリッブチブチブチ・・・ベキャッゴキバギャ!
<<ギィャァアアAアアaァアAaアアアア・・・・・・!!!>>
真っ白の羽根をむしる。 骨とか筋とかも全部引きちぎる。
銀色の血がばたばたと床に散った。
聖気を含んだ、白銀の血。
あさなは座ったまま動かない。
ざぁっ・・・と白い羽根が飛び散り、天使が一匹消滅した。
それとほぼ同時、もう一匹の天使の羽が細切れた。
同じように白い羽根を散らして。
銀色の返り血を撒いて。
黒い、羽根のカッターで切り裂かれたのだ。
悲鳴を上げる暇もなかったようだ。
<<ヒッ ヒィイeEiイイィイIィイイEィ・・・・・!!>>
残った一匹が大慌てで逃げていった。
追う必要はない。 ・・・・・とりあえず は・・・
「チッ・・・ 天使の血って落ちにくいんだよな・・・・・・」
返り血をあびて、銀色に光る腕をなめる。
「クロウ・・・君・・・・?」
振り返ると、大粒の涙をこぼすあさながいた。
ぽたぽたと雫を落としながら、それでも真っ直ぐにオレを見つめている。
「ようやく気が付いたか。 驚かさないように何度も言ったのに、全然信用しないんだもんよ。」
「だって・・・そんな・・・・」
黒い翼と銀色の血にまみれた腕を交互に見る。
恐怖 嫌悪
そんな瞳が、痛い。
本当のオレは、何かを消滅させる事を"快楽"と感じる、新米悪魔の中では一、二を争う残虐な男。
今までに消滅させた天使、悪魔はすでに2100匹を超える。
「とりあえず結界を張るから、ベッドに入れ。 たぶん、今逃げた天使が戦天使を呼びに行った頃だ。 もうすぐ団体様のご到着だ。」
オレはあさなをかかえあげてベッドに置いた。
あさなのベッドとパジャマが銀色に濡れた。
泣いているあさなに背を向けて呪文を開放していく。
『・・・・クアルェン、第二の鍵となる。そして・・・・・・』
ゴォオオオオ・・・・!
「!? (・・早すぎる・・・・ッ!!)」
ぶち破った窓から強風が吹きつけた。団体様の到着だ。
「(チッ・・数が多いぞ・・・・・!)」
「クロウ君・・・・!?」
今まで見た軍団の中で一番多いかもしれない。
それだけ、あさなは戦天使として必要なのか・・・・・くそっ!
ズ・・ドゴオォオオオン!!
「ぐは・・ぁっ」
「キャァ!」
・・・・・・・まさか、壁に突っ込んでくるとは思わなかった・・・・・・・・・・・・・・
無様にも、瓦礫に埋められてしまったらしい。
全く動けなくなった・・・・
「あの時」と同じように・・・・