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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第三巻
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三章 監査官対抗戦・本選(2)

 翌日。伊海学園学園祭二日目。

 かろうじて朝日を拝むことのできた俺は、急激に半世紀ほど年老いたようにゲッソリしていただろうね。実際、教室に入って早々に昨日の勝利で調子と鼻の下を伸ばしまくっている癖毛男――桜居とかいう変態――が朝の挨拶代りにそう突っ込んできたし。

 あの後はなんとか家に帰って、すぐに死んだ。ええ、死んだとも。気絶に近い眠り方をしていた俺をリーゼが何度も起こそうとしたようだが、蹴っても殴っても燃やしても起きなかったそうだ。どうりで今朝から体中が痛いわけか。

 そんな体調で大丈夫か?

 大丈夫だ、問題ない。

「ふぅん、レランジェっていっつもこんな動きにくい服着てたのね」

「こんなフリフリの可愛い服が私に似合うわけ――って零児! こっちを見るな!」

 リーゼとセレスのメイド服姿をしかと目と脳裏に焼きつけたから。

 時刻は八時半前。メイド喫茶の準備はほぼ完了し、女子も着替え終わったので、開店時間までの数分間に自然とお披露目会が開かれることになったんだ。

 メイド服の配色はスタンダードに黒地に白いフリルの縁取り。デザインはセクシーにも肩見せの半袖で、スカートの丈は学園の制服よりも数センチほど短いな。当然、頭にはレースフリルのカチューシャを搭載している。

「いやいや、ありえんくらい似合ってると思うぞ、セレス」

 昨日の仕返しだ、と俺はもじもじ恥じらうセレスを凝視してやる。

「お、お世辞は結構だ! 本音を言ってもいいのだぞ」

「いやいや、本音も本音。お世辞なんかじゃねえよ。げっへっへ」

「なんだそのわざとらしい笑いは!?」

 スレンダーでありながら出るところは出たセレスは、メイド服に肩の部分がないから魅惑の谷間が丸見えなんだ。しかも顔を真っ赤にして胸を隠そうとしてるもんだから――くっ、余計にエロい。クラスの男子どもがセレスに視線の照準を固定したまま石化してるわけだぜ。

 メイド服は毎日見ていて飽きたと思っていた俺だが、普段それを着ないやつが着ると全然違うんだなぁ。

「むむむぅ、騎士崩れのくせに」

 皆がセレスにばかり注目しているせいか、それともセレスのボンキュドカンに嫉妬してるのか、お子様リーゼがぷっくりと面白くなさそうに頬を膨らましていた。それはそれでかわえぇけど、お前もちょっとは恥じらってみたらどうだ?

「レージ! お前はわたしのものなんだから、騎士崩れじゃなくてわたしを見なさい!」

「俺は敵じゃなかったのか?」

「あう」

 揚げ足を取った俺に何も言い返せなくなったリーゼは、口をアメーバみたいな形にしてわなわなしてるな。面白い顔だなあはははは、と笑おうとしたところで――

「『わたしのもの』とはどういう意味かな白峰被告」

「ちょっとおいちゃんたちに教えてもらえんかね?」

「ていうか死刑」

 殺気を剥き出しにした男子連中に囲まれた。俺、滝汗。『わたしのもの』発言に慣れちまったせいで油断してた。ここは地雷原だった。

「奴隷って意味です」

「「「ならばよし」」」

 いいんだ!?

 奴隷は奴隷でリンチにされるかと思ったけど……まあ、いっか。

「リーゼロッテ君、少しいいかな?」

 と、メイド服の上からいつもの白衣を着た背の高い女子――郷野美鶴がリーゼに耳打ちする。てかお前それ卑怯だろ。これは罰ゲームみたいなもんなんだから白衣とか反則!

「セレスティナ君に勝てる方法を伝授してあげよう」

「おい郷野、リーゼに変なこと吹き込むなよ」

 注意するも、郷野はリーゼの耳元でごにょごにょと囁くことをやめない。一度だけ俺の方に視線を向けてニヤけたのはどういう意味だ?

「そんなことでいいの?」

 郷野から謎の必勝法を伝授されたらしいリーゼは、ちょこんと首を傾げた。それからとてててと俺の下まで駆け寄ると――


「えっと、ごしゅじんさま、今夜のごほうしはどうなされますか?」


 ルビーのような紅い瞳を上目遣いで向けてそう言った。

「散っ!」

 瞬間、俺はテレポート能力者となった。殺気孕む教室からコンマ一秒でも早く脱出するために。

 だが、やつらはそんな俺の本能的なスピードをも超越して回り込みやがった。

「隊長、白峰のクソ野郎の包囲が完了しました!」「よしよくやった」「白峰、まさか夜な夜なあんなことやこんなことを」「やってたのか?」「我らが天使であらせられるリーゼちゃんと?」「このゲスが!」「白峰くん言ってくれたらボクならいつでも!」「だから誰だよ今の!」「ていうか死刑マジ死刑」「桜居隊長、この腐れ外道の処分はいかほどに?」

「うむ、蜂の巣」

「「「ラジャー!!」」」

「待てお前らそのどう見ても改造してるエアガンはどこから持ってき痛だだだだだだだだだだだだだッ!?」

 あんな明らかに言わされた棒読みの台詞でなんで超人化できるんだよお前ら! あとリーゼ、仮にも〝魔帝〟のお前が『ご主人様』とか言うな! その辺のプライドも持とうね!

 華やかになるはずの二―Dメイド喫茶は、俺の悲鳴と同時に開店したせいで『絶叫喫茶』と呼ばれることになったとか。


 ――で。


 第一印象こそ最悪だった二―Dメイド喫茶だったが(俺のせいだけじゃない。断じて)、学園祭二日目から開店するという珍妙さが話題を呼んでいた。昨日の女装喫茶の件もあって、『男子があんなになったんだから女子はもっとやばいはず』と期待してやってくる客も大勢いた。でも残念だったな、ドイーさんはもういないんだ。どこ行ったんだろうね。

 まあドイーさんはどうでもいいとして、俺は午前中に一度抜けなければならない。対抗戦本選の組み合わせを決めるくじ引きがあるからだ。場合によっては戻って来れんかもしれんな。

 ともかくそれまでの一時間、俺は例によってキッチンスタッフを任されていたのだが――

「包丁捌きが粗雑不安定ですね、ゴミ虫様」

 振り返ると、憎きポンコツ無表情毒舌メイド――レランジェがやっぱり憎たらしい無表情をして厨房を覗いていた。

 厨房内の男子たちがざわめく。「メイドさん?」「本物?」「マジで?」「確かリーゼちゃんの」「そういや昨日見たぞ」「リーゼちゃんとこのメイドさんが一緒にいたとこを」「ていうかゴミ虫様って?」などと思ったことを素直に口に出してるな。ちなみに桜居はいない。異界研の方に行ってる。

「包丁は『武具』じゃないからな。調理道具の扱いは人並みでいいんだよ」

「人並み以下と言ったつもりでしたが?」

 おっとこのメイドさん、この俺に料理対決でも挑もうっていうのか? やめとけよ、勝てるわけがない。俺が。

「それよりなんの用だよ?」

「レランジェはマスターをお迎えに参っただけです。ついでにゴミ虫様を貶す安定です」

「てめえ、対抗戦で当たったら覚えとけよ」

「こちらの台詞ですね。では、遅れては皆さんに申し訳ないので失礼安定です」

 厨房を去るレランジェ。ホントになにしに来たんだよ。

 時計を見ると、午前九時三十分。やべ、ギリギリだ。そろそろ出かけないと確かに間に合わないぞ。ちょっと遅れて失格とかになったら笑い話にもならん。

 ホールを見るとリーゼはもういなかった。レランジェと共に一足先に行ってしまったようだ。俺はセレスに声をかけ、二分で支度を終えて教室を出る。

 が――

「君たちは揃ってどこへ行くと言うんだい?」

 そこで白衣メイドの郷野に捕まってしまった。

「白峰君にセレスティナ君、あとリーゼロッテ君もかな。君たちは昨日も三人同じタイミングでいなくなったようだけど?」

 郷野の目には疑いと好奇心の光が宿ってやがる。あれは俺たちが仲良く学園祭を回っているわけじゃないって気づいているな。

 だったら、多少の真実を混ぜた嘘でやり過ごすのが定石だろう。

「俺らは別のイベントにも参加してんだよ。そっちの方に遅れちゃまずいんだ。だから詳しいことは後で桜居にでも聞いてくれ」

 あいつなら上手く誤魔化してくれるだろう。

「部活にも委員会にも入っていない君たちが別のイベントを? ふむ、これは興味深いゾ。同行してもいいかい?」

「ダメだ」

 一言で突っぱねると、俺はさっさと歩き始めた。セレスもついてくる。これ以上こいつに付き合っていたらマジで遅れちまう。

「おやおや水臭いなぁ。白峰君でアイヒマンテスト」

 しかし郷野は後を追ってきた。なんてしつこいやつだ。そして今なんか『閉鎖的環境下における権威者の指示に従う人間の心理状況』を俺で実験するとか呟かなかったか? 

「美鶴殿、私たちは誘波殿――理事長が秘密裏に企画しているイベントの準備を任されている。関係者以外は立ち入りを許可されていないのだ」

 ナイスだセレス。

「それは傷だらけになる作業なのかな?」

 郷野のやつ、見抜いてやがる。一応、監査局で治療を受けてものの一日で目立たない程度に回復したってのに。

「けっこうハードなんだよ」

「ほうほう、医者はいらんかね?」

「いらねえよ!」

 お前は医者じゃないだろ。保険委員長。

「じゃあな」

 理事長の企画ということで納得してもらえたのかどうかはわからないが、立ち止まった郷野を置いて俺たちは駆け足で大学部の一号館を目指した。

「それならそれで、こちらにも手はあるサ」

 最後に郷野が含み笑いを浮かべていた意味は、まあ、だいたい想像ついたな。


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