二章 監査官対抗戦・予選(8)
で、結論から言うと。
マルファの追撃を逃れてから約二時間、俺たちは幾度かの戦闘を重ねてズタボロになりながらもようやくゴールを発見したんだ。
フィールドの景色変更のタイミングがよかった。今、俺たちは真っ暗闇の中にいる。障害物もなにもない深海の底のような闇が全方向に広がり、光源と言えば天空に表示された光文字しかない。
突然こんな暗闇になったもんだから俺は内心酷く焦った。セレスの聖剣で照らしてもらってもよかったが、そうすると敵チームや『エネミー』に俺らの居場所を教えるようなもんだしな。おかげさまで目がある程度慣れてから進むというデジャブを体験することとなったわけだ。
もっとも、この暗闇のおかげでゴールとなる転移魔法陣の光を発見することができたんだけどな。ラッキーとしか言いようがない。
転移魔法陣の青色の光まで目測で十メートルちょっとってところか。
俺は上空を見上げる。
【現在の予選通過チーム数:6】
「なんとか間に合ったな」
「そのようだな。一時はどうなるかと思ったが」
隣からセレスのほっとした声が届いた。上の光文字のおかげで彼女の姿はぼんやりと認識できる。暗闇での戦闘は経験があるとはいえ、こんな時に影魔導師のような夜目の利く敵とエンカウントするのはマズイ。さっさとゴールしてしまおう。
俺とセレスは目配せを交わすと、一歩、また一歩と慎重にゴールに向けて歩を進めた。
「零児、暗闇だからといって少し慎重過ぎではないか?」
「そうでもないぞ。安心したところになにかしらのトラップを仕掛けてくるようなやつが主催者だからな。注意し過ぎて損することはな――」
俺の爪先がなにかの障害物を蹴った。
段差? いやそれにしては感触が生々しかったぞ。
まさか――
「セレス、聖剣で辺りを照らしてくれ」
「いいのか?」
「ゴールは目の前だ。敵に見つかっても駆け込める」
「了解した」
セレスが聖剣ラハイアンを鞘から抜く気配が伝わってくる。数秒後、目を灼かない程度に照度を抑えられた白光が周囲の闇を払い除けた。
「――なっ!?」
「こ、これは……」
足下に転がっていた物体は、黒いロングコートを羽織った俺の見知った人間だった。
「迫間!? 四条!?」
二人とも意識を失っているのか、ピクリとも動かない。コートも体も襤褸のようにボロボロだ。恐らくゴール目前にして戦闘があり、敗れたのだろう。まだ強制退場の転移が始まっていないことから、二人がやられたのはついさっきということがわかる。
ついさっき――つまり迫間と四条は、影魔導師の力が最大に増すこの暗闇の中で敗北したってことだ。
「……ぐっ」
迫間が呻いた。瞼が痙攣し、ゆっくりと見開かれる。
「……白峰、か?」
「迫間、お前らなんて様だよ」
俺は迫間の背中を支えて上体を起こすのを手伝った。セレスが揺り動かしている四条は目覚める気配がない。
「はは……影魔導師のフィールドで負けたなんて……格好悪ぃな。頼むから……師匠にはチクらないでくれ……よ」
師匠とは影魔導師連盟の幹部――鷹羽畔彰のことだ。
「気をつけろ、白峰。あのチームは……面倒臭いことに、ただもんじゃない」
「監査官の時点でただもんとはかけ離れちゃいるが、お前らがやられるほどの相手ってどんなだよ?」
迫間と四条は個人の実力はもちろん、チームワークも抜群で互いの相性もいい。しかも暗闇という最高の条件が整っていた場で勝てるとしたら、同じ影魔導師か誘波のような化け物くらいなもんだろう。
「あいつらは――」
いいかけたところで、迫間は光の粒子となって天に昇った。まるで成仏してしまったかのようだが、強制転移でこの空間から退場させられたんだ。見ると、四条も同じく消えていた。
「セレス、さっさとゴールするぞ」
「ああ、漣殿と瑠美奈殿の仇、私たちで取ろう」
「試合で当たることになれば、だけどな」
対抗戦の本選は毎年決まって異界監査局がどっかの僻地に所有している大闘技場で行われる。今回の予選は物凄く力を入れていたけど、本選に関しては今年も変わらんだろうね。例年通りならスタンダードなトーナメント形式になるはずだ。
「これはゲームみたいなもんだし、仇っつってもガチになることはないって」
そう言う俺だったが、心の奥からなにか得体の知れない嫌な予感が膨れ上がってきていた。迫間たちをやったのがどこのどいつらかはまだわからんが、そのチームを特定して警戒しておいた方がいいかもしれない。
転移魔法陣で移動した先は、大学部の敷地内にある一号館――異界監査局本局のことだ――の一室だった。
染み一つない白い壁で囲まれ、ポツンと出入口となるドアがあるだけで他になにもない寂しい部屋だ。強いて他にあるものを述べるとすれば、俺たちがくぐってきた転移魔法陣と、ここがどこなのかを示した張り紙と――
――先にゴールした六組の監査官チームだけだ。
「……」
俺はざっと他のチームを見回した。いるいる。見た目からしてやばそうなのが。
胸元に薔薇の紋章が入った中世の貴族風な衣装と真紅のマントを纏った優男に、カールスタイルの金髪に豪奢で毒々しい紫色をしたドレスを着た三つ目の美女。男の方は波打つ長剣――フランベルジェを佩いて悠然と屹立しており、女の方は両目を閉じて額にある第三の目だけで他のチームを観察している。
漆黒の西洋鎧でガチガチに身を固めた仮面の騎士と、一反木綿でも巻きついてるんじゃないかと思ってしまいそうな白い長布のみで裸体を隠す白髪の少女。仮面の騎士は長身で、少女は割と小柄。身に纏ってるものからしてもあべこべ過ぎるが、どちらも威風堂々といった佇まいだ。
深いスリットの入った赤いチャイナドレスを着た双子の少女。艶やかな黒髪を三つ編みのポニーテールとツインテールに結って互いを区別できるようにしているようだ。頭にちょこんと乗った狐耳がピコピコ動いて周囲の様子を探っている。
グレアムと稲葉レト。
闘牛のようなぶっとい角を頭に生やした六本腕の巨漢と、マジシャンっぽい格好の包帯で右目以外を隠した恐らくは男。六本腕の巨漢は仏像のごとく不動の姿勢を崩さず、包帯マジシャンはシルクハットからハト――ではなく煙管を取り出して吹かし始めた。
全長五メートルはあろうどこぞの機動戦士を彷彿とさせるようなロボットと、くすんだ赤毛を雑に後ろで縛っている黒いロングコートを羽織った目つきの鋭い女。天井すれすれのロボットの胸部に見えるコックピットには驚くべきことに赤ん坊が乗っており、その足下に立つ赤毛の女は血色の刃をした大鎌を軽々と肩に担いでいる。
一同を見渡して、セレスが唸った。
「空気が張り詰めている。皆、相当な強者なのだろう」
「そうだな」
確かに、どいつもこいつもとんでもねえ気迫を放ってやがる。ついでに言えば、ほとんどのやつらが初めて見る顔だ。チーム戦だからこそ今回の大会で生き残れた猛者ってとこだな。
中でも俺が目をつけたのは、赤毛の女だ。あのコートからして、やつは恐らく影魔導師だろう。迫間と四条を倒したやつかもしれん。気をつけねえと。
「俺的に、今、軽くスルーされた気がするんだが?」
マロンクリームのような色をした髪で右目を隠した作業着姿の青年が、とても心外そうな顔をして歩み寄ってきた。
グレアム・ザトペック。
やはりこいつは予選通過してたか。しかもほぼ無傷ってどういうことだよ?
「お前、稲葉と組んでたのか」
「ああ、あいつ的にも丁度相手がいなかったらしいからよ。しゃあねェから俺様の相棒にしてやったんだ」
「ちょ、なに言っとるんやグレアム先輩。ウチは別に出る気なんてなかったんやで。桜居先輩がクラスの方で忙しいから、ウチが異界研の方を任されとったのに。まあ、撮った映像を上映するだけやしお客さんなんて全然来てへんかったけど」
赤いジャージ姿のボーイッシュな少女――稲葉レトが疲れたように嘆息した。微妙な関西弁を喋る彼女は異界監査官のルーキーだ。ていうか異界研――桜居が非公認で創設した異世界研究部の略称――が撮って編集した映像を俺も前に見せてもらったが、アレの上映会をするくらいならこっちに参加した方が絶対に有意義だと思うぞ。
「俺的に心配したぜ。もしてめェらが勝ち上がってこなけりゃどうしようかってな。ここにいるやつらも壊し甲斐のあるやつらばっかりだが、俺的に零児と戦えなけりゃあ対抗戦に参加した意味が……ないのか?」
「俺に訊くなよ。お前のことだろうが」
「ふむ、それもそうだ。しかし俺様はどういった信念を持って対抗戦に参加してるのか自分でもわからねェ。金か? 賞品か? いや違う。そんなものに興味はねェ。単純に強ェやつらと戦り合いたいからって理由しか思いつかねェんだよ。なんてつまらねェ話だ。俺様は俺的にもっとなんかいい感じの『戦う理由』ってのが欲しいわけで――」
ぶつぶつと独り言をエンドレスに呟き始め、見事に周囲の変人たちの輪に溶け込んだグレアム。もう放っておこう。
「レト殿とグレアム殿は何番目にゴールしたのだ?」
セレスが重たい空気に堪えられなくなったように口を開いた。質問を投げかけられた稲葉は、頭の後ろで腕を組んでニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
「一番や。予選が始まって一時間ほどやったかな」
俺とセレスは驚愕に目を剥いた。速い。開始してから一時間といえばまだ景色の変動も起こっていない時間帯だぞ。
「グレアム先輩の突貫にはホンマに魂消たわ。敵も障害物もあっちゅう間にぶっ飛ばしてまうんやもん。おかげでウチは一回も戦ってへんから面白なかったわ」
「……稲葉も、楽なようで大変だったみたいだな」
トンファーを振り回してひたすら真っ直ぐ突き進むグレアムと、その背中を必死に追っている稲葉の姿が鮮明に想像できてしまうから嫌だ。
「ところで稲葉、聞きたいことがあるんだが」
「なんや、白峰先輩?」
「俺らの一つ前にゴールしたチームってどれだ?」
「? そんなん聞いてどうするんや、白峰先輩?」
きょとんと小首を傾げる稲葉に、俺は迫間と四条がゴール寸前でどこかのチームにやられていたことを説明した。二人の強制転移が始まってなかったから、あいつらをやったチームは俺たちの直前にゴールしているはずなんだ。
「なるほどなぁ、でもウチは知らへんよ」
「む? レト殿はずっとここにいたのではないのか?」
セレスが訊くと、稲葉をすまなさそうに苦笑して頭を掻いた。
「ウチとグレアム先輩は一番にゴールして暇やって、さっきまで学園祭の方に行ってたんや。そんで戻った時には白峰先輩たちが丁度ゴールしたとこで」
「そうか……」
他のチームに訊けばわかるかもしれんが、面識のない上に一応敵である俺と会話してくれそうなやつはいない。狐耳の双子はなんとなく人懐っこそうだけど、あいつらが迫間たちの仇という可能性もある。本選は明日からだし、後で迫間か四条に訊きに行った方が確実か。
「あ、そのことはグレアム先輩には言わんといてな。これ以上張り切られたらウチが暇になるだけや」
「はは、わかったよ。でも、流石に本選は稲葉にも出番があるんじゃないか?」
当のグレアムはというと……おいおい、まだ独り言が続いてるよ。誰か止めてやれ。聞いてない間に火星探査機がどうのこうの言ってるぞ。どうしてそうなった。すぐ傍に立つ六本腕のオッサンなんか非常に迷惑そうな顔してるし。
稲葉も唯我独尊な相方に苦笑いを隠せない。
「せやなぁ。もしかしたら白峰先輩たちと戦うかもしれへんし。そん時はウチも手加減はせえへんよ。――やや?」
稲葉は体を傾けて俺の後方を覗き込み――
「白峰先輩、最後の一組がゴールしたみたいやで」
そう言って転移魔法陣を指差した。振り向くと、俺たちも転移してきた陣の青色の輝きが、段々と強烈になっていくところだった。眩い輝きに思わず目を細める。
青色の光はやがて部屋全体を包み込むと、唐突にフッと消え去った。
そして、そこに現れた最後のチームは……
「皆様お集まり安定ですね」
「……きゅぅ」
完全に目を回した金髪黒衣の少女を抱えたゴスロリメイドさんだった。
そのゴスロリメイドさん――レランジェと俺の目が合う。
「「チッ!」」
どちらからともなく相手に聞こえる音量で舌打ちを鳴らす。マネすんじゃねえよ。こいつだけでもあのまま失格になってりゃよかったのに。
「〝魔帝〟リーゼロッテ、よくもあれから挽回したものだ」
セレス同様に俺も感心していた。リーゼのあの様子はたぶん事後だ。そこからレランジェ一人が主を抱えてゴールまで辿り着いたんだろうね。よく失格にならなかったな。
とにもかくにも、リーゼたちがゴールしたことで予選は終了ってわけ――
「喝っ!!」
その時、部屋全体を震撼させる怒鳴り声が轟いた。
「わしの横でべちゃくちゃべちゃくちゃ、やかましいぞ小童ぁあッ!!」
凄まじい怒気を撒き散らしたのは、千手観音のごとき六本腕を組んだ牛角の巨漢だった。禿頭の頭には何本もの血管が浮き出ており、首にかけている巨大な数珠みたいな繋ぎ玉が感情に呼応すように明滅している。めっさお怒りのようだ。
その泣く子も失神しそうな厳つい顔で睨んでいる相手は、彼のすぐ傍で意味のない独り言を無限ループさせていたグレアムだった。
「んあ? ああ、俺的に悪ィな」
激怒の矛先を向けられているにも関わらず、グレアムは微塵も動じない。六本腕の巨漢が放つ殺気をそよ風のごとく流している。
「ところでお前的にパンプキンパイはおやつに入ると思うか?」
だからどうしてちょっと聞いてない間に独り言が変な方向にぶっ飛んでんだ?
「小童が、わしを馬鹿にしとんのか? おやつに決まっとろうがぁあッ!!」
ごもっともで。――いやそうではなく、なんか激しく戦闘が勃発しそうな雰囲気なんですけど!
周りは六本腕の巨漢の相棒も含め、注目はしているが我関せずを決め込んでやがる。不良のカツアゲを目撃したところで止める勇気も力もない一般人とは違う。やろうと思えば鎮圧できるのに、こいつらは行動を起こす気がないんだ。中には楽しんでいる風なやつもいるから困る。
だが、これが異界監査官だ。組織に属しているにも拘わらず、個人を優先して動く存在。特に見知らぬ相手との協調性は絶無に等しい。
「零児、止めるぞ」
セレスが聖剣を抜こうとするが、それを俺と稲葉が同時に手で制した。
「セレスはんが行ってもどうにもならへん」
「しかし、レト殿……」
「稲葉の言う通りだ。やめた方がいい。こいつらの場合、余計な手出しをすれば余計にごちゃごちゃになるぞ」
かくいう俺も、今回ばかりは行動を起こす気がない側だった。第三者が動けば収拾がつかなくなる。稲葉も、六本腕の巨漢の相棒である包帯マジシャンも、そして他の全員もそいつをわかってるんだ。
「わしはぐちぐちと小言を垂れるやつが大嫌いじゃけんのう! 怪我しとうなかったらわしの視界から消え失せい!」
「そいつは俺的に気の合わねェ話だ。だが、俺的にてめェみたいな声の馬鹿でかいやつァ好きだぜ?」
ブチン。
「この、耳障りな上に目障りな小童がぁあっ! 明日を迎えるまでもなくここで潰れとけぇえっ!」
筋肉質な六腕がそれぞれ平手に構えて一斉に『つっぱり』を繰り出す。なんて迫力! 小さなビルなら二秒で解体してしまいそうな凄まじさだ。
が――
「俺様に喧嘩売んのは勝手だがよ、お前的に、試合前に体ぶっ壊してほしいわけか?」
一つ瞬きした間にそれは起こった。
ずっしりと仁王立ちしていたはずの六本腕の巨漢が、次のコマでは逆さになっていたんだ。あまりに一瞬だったが、なにが起こったのかは誰もが悟った。
グレアムが片手で六本腕の一本を掴んで捻った、たったそれだけのこと。されどもたったそれだけで、二メートルは優に超える巨体が頭から床に叩きつけられたんだ。
六本腕の巨漢はパチクリと呆けたように目を瞬かせている。たぶん当人だけがなにが起こったのかわかってないんだろうね。
ケラケラと巨漢を指差して爆笑しているのは狐耳の双子。ニヤニヤと粘っこい笑みを浮かべているのは薔薇服の優男。他の監査官たちは寡黙を貫いているが、『いい余興だった』と言わんばかりの空気だ。
と――ヒュワッ。
室内に、あからさまに不自然な風が吹いた。
「はぁい♪ 全次空のアイドル、誘波ちゃん優雅に参上でぇーす♪」
鮮やかな十二単をはためかせた天女が旋風の中から現れた。部屋に充満する緊迫した空気とは真逆の空気が一息に流れ込んでくる。空気読めよ風使いのくせに。
「あらあら? なにかあったのですかぁ? 喧嘩は両成敗ですよぅ?」
この場にいる全員の視線が少女――日本異界監査局本局長・法界院誘波に集う。立ち上がった六本腕の巨漢はグレアムを一睨みするも、もうなにも言わなかった。
ともかく誘波が来れば安心だ。てなわけで、俺はやつに誰よりも先に言わねばならんことがある。
「誘波、てめえが隠し撮りした映像をこの場で破棄するか俺に渡せ。あとその登場の台詞はどっかで一度言ってるぞ」
「無駄なところで物覚えのいいレイちゃんは嫌いです」
ぷいっと膨れっ面で目を逸らされてしまった。……コイツ後デ締メル。
「ここでなにがあったかはまあ、予想はついてますが、咎めるつもりはありません。それよりもリーゼちゃんとレランジェちゃんのゴールインにより、予選通過枠の八組が埋まりました。皆さん、お疲れ様です」
俺の要求などなかったかのように予選通過者に労いの言葉をかける誘波。
「長話をするつもりはありませんが、明日の予定だけ確認させてください。明日の本選開始時刻は午前十時です。これは例年通りトーナメント形式で、普段は封印してある監査局の大闘技場にて行います。ですがその前に、皆さんには再びこの部屋に集まって対戦順を決めてもらいます。方法はくじ引きです。あ、超能力を使ってずるしちゃダメですよぅ」
そんなやついねえよ。たぶん。
それから誘波はいくつかの細かい説明を終えると、ふんわりとした笑顔で俺たち全員を見回す。
「ではでは、本日はこれにて解散としたいのですが、なにか質問のある方はいらっしゃいますか?」
セレスが挙手した。
「誘波殿、賞品を見せてはもらえないだろうか」
「あら、忘れてました。皆さんも実物が見たいと思ってますよね。ではどうぞどうぞ」
パチンと誘波が指を鳴らす。と、陣風が吹き荒れてどういう理屈なのか数々の品物が部屋の片隅から順に出現していった。俺がいいなと思っていたウォーターソファーを始め、近未来型洗濯機やユーラシア大陸横断旅行券、世界の高級食材盛り合わせなんてものもある。
そして最後に、セレスが欲していた紅光を反射する銀刃の大剣が出現した。
「!」
瞬間、空気の微妙な変化を俺は感じ取った。
いるんだ。あの剣を狙っているやつが、何人も。
ざっと見回しても誰がそうとは判然としない。だが、一つだけその中に異質な気配が混ざっていることに俺は気づく。
ゾワリとした感覚。これは、あの望月絵理香が恋人のことを語る時に放った執着心に似ている。しかもただの執着心ではない。そこには他の監査官に向けられた敵意、いや殺意のような感情まで籠っていた気がした。
どういうことだ?
一体、この気配の発信源は誰なんだ?
わからないまま、俺たちは解散となった。