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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第三巻
93/314

二章 監査官対抗戦・予選(4)

「見ろよレヴィア! 俺たちはなんてついてるんだ!」

「そうだねクライン! こんなに早くゴールの情報を手に入れられるんだからね!」


 茂みの奥から姿を現したそいつらは、二十代半ばくらいの男女のペアだった。ありえないくらい前方に跳ねた揉み上げに割れた顎をしているクラインと呼ばれた男と、エルフのように長く尖った耳に腰辺りまである新緑色の髪をしたレヴィアと呼ばれた女だ。

 二人ともカウボーイハットを被り、ウェスタンシャツを着てスカーフ巻き、腰にはガンベルトといった格好をしている。ガンマンのペアルックって……上でやってる学園祭をなんかと勘違いしてないか?

「おうおう、そこのチーム。ここでいきなり俺たちに会ったが……会ったが、なんだっけ?」

「百年目だよ、クライン」

「そうそう、ここで俺たちに会ったが百年目! 大人しく降参するなら俺のラム・ダオが火を噴くぜ!」

「キャー♪ クラインかっくいい!」

 ……。

 なんだこのバカップル? どこから突っ込めばいいんだ? 百年目じゃなくて運の尽きだろ、とか。降参しても撃たれるってお前は悪魔か、とか。そもそもそのラム・ダオ――先端側の刀身の両脇に『目』に似た文様が食刻された鉈を巨大化させたような儀式用片刃剣――でどうやって火を噴くんだ、とか。なんでガンマンの格好してんのに剣なんだ、とか。

「この者たちが最初の相手というわけだな」

「そうだな。気をつけろよ、セレス。アホそうに見えても監査官だ」

「わかっている」

 セレスは背中の聖剣を抜きながら力強く答えた。俺も右手に魔力を凝集させる。望月絵理香との戦闘で一度尽きた俺の魔力だが、期末試験が終わった後にリーゼから〈吸力〉したので今はほぼ万全だ。

〈魔武具生成〉――ハルベルト。

 槍状の頭部に斧のような形をした広い刃があり、その反対側にも小さな鉤状の突起がついている長柄武器だ。この複雑な形状により、『斬撃』『打撃』『刺突』『引っかける』といった四つの機能を備えている。そんな多用途な使用法から、この武器は中世ヨーロッパの終わり頃に歩兵たちの間で全盛したとか。

「見た見たクライン! あっちの男の子、武器作ったよ。すっごいね!」

「見たともレヴィア。それに女の子の方だって、あんなに長い剣を持ってすっごいぞ」

「本当だね! 私なら絶対持てないよ。でもでも、私たちの方がずっっっとすっごいってこと見せてあげようよ!」

「おうともさ!」

 一メートルほどの長さをしたラム・ダオを無意味に振り回すクライン。その横でレヴィアが右手に引き金つきの弓――クロスボウを構える。それもただのクロスボウじゃない。連射や同射ができるように改造してやがる。それはそうと、だからなんで銃じゃないんだよ! 腰のガンベルトは飾りか?

 互いが身構え、いつでも戦闘が開始できるようになった――その時だった。


 バシィイイイイイイッ!!


 鼓膜を突き破りそうな派手なスパーク音と共に、俺たちとバカップルとの間で青色の炎が弾けた。

「な、なんだ!?」

 第三者か!? と思って警戒する俺だったが、すぐにそうではないと知る。炎が空中で不自然に燃え広がり、【STAND UP】の文字を描いたからだ。

「は、ははは……洒落たマネをするじゃないか、誘波。これも〈現の幻想〉がやってんのか? ゲームの世界にいるみたいだ」

 見ると、「すっごいすっごい」とはしゃいでいるニセガンマン二人組の頭上にも別の文字が浮かんでいる。


【日本異界監査局第三支局代表 クライン・アーベント&レヴィア・フリーゲン】


 白くはっきりとした光でそう書かれていた。てことは俺らの方も……やっぱりな。紅い光でちゃんと自己紹介されている。


【日本異界監査局本局所属 白峰零児&セレスティナ・ラハイアン・フェンサリル】


 今年の手の込みようはいよいよもって半端なくなったな。

「クラインクライン! あの子たち本局所属だって!」

「そうみたいだな、レヴィア。だけど、本局所属だからって強いとは限らないんだぞ。なあ、そうだろう?」

 クラインはいわゆるどや顔で俺たちに同意を求めてきた。ムカつくな、あの顔。

「まあ、否定はしない」

 淡白にそう返すと、セレスがムッと唇を尖らせて俺を睨んできた。

「零児、我々は馬鹿にされたのだぞ。なぜ言い返さないのだ?」

「本当だからだよ。支局にだって強いやつはたくさんいるんだ」

 だからこそ、油断はできない。そんな支局からの代表者が何十組と集まってるんだ。一回一回の戦闘は本気で臨まないと痛い目を見る。

 中央の火文字が一度消え、大迫力の爆発を起こして新たな文字――【BATTLE START】を表示させた。

 開戦だ!

「話は終わりだ。やるぞ、セレス!」

「了解した、零児!」

 俺とセレスは頷きを交わして左右に散開した。コンビネーションの練習をしたわけでもなければ、この場で示し合わせたわけでもない。俺は幼馴染のあいつとずっとタッグを組んで戦っていたし、セレスも元の世界では軍人だったんだ。チーム戦には慣れている。

 だが、相手のバカップルはこれっぽっちも怯んでいない。

「さあて、レヴィア。本局のやつらに俺たち第三支局の力ってもんを見せてやろうぜ!」

「そうだねクライン! じゃあ、私から行っくよぅ!」

 長く尖った耳をピコピコと動かし、レヴィアが天に向けてクロスボウの引き金を引いた。

 ピュンと空に昇る一本の矢。それが周囲の木々よりも高い位置に達した時――パァン! 

 矢が破裂し、無数に飛び散った破片同士が光の線を連結させて巨大な魔法陣を描いた。

「蜂の巣だよ! 〈吹雪の矢(シュネーシュトゥルム)〉!」

 レヴィアが溌剌と叫んだ刹那、魔法陣から氷でできた矢が射出されて雨あられと降り注ぐ。

 俺たちだけに。

「くっ!」

 俺はかわそうと横に飛んだが、無数の氷矢は地面に突き刺さる寸前で起動を直角に変え、改めて俺に狙いを定めやがった。

「ホーミング!?」

 なんて厄介な技なんだ。だが、追尾されるとわかったなら避ける必要はない。

 俺はハルベルトを振り回して襲い来る全ての氷矢を叩き砕いた。反対側ではセレスも同じように超長剣で氷矢を捌いている。

「こんなの、四条の影ナイフの雨に比べたら大したことねえよ」

 でも侮れない。四条の時もそうだったが、あれを連発されると防戦一方になる。俺は次を撃たれる前にレヴィアから昏倒させることにした。

 数歩で距離を詰め、ハルベルトを振り被る。が――

 ――ガキィン!

 金属音を響かせ、割り込んできたクラインのラム・ダオが俺のハルベルトの刃を受け止めた。

「おっと、このクライン様がレヴィアには指一本……指一本、なんだっけ?」

「折らせないだよ、クライン」

「そうだった。このクライン様がレヴィアには指一本折らせないぜ!」

「きゃう~♪ クラインかっくいい!」

 アホだ。こいつら真正のアホだ。

 別々の世界の〝人〟が好き合うことなんて珍しくないが(俺の両親がそうだし)、たぶんこの二人は周波数が合うんだろうね。アホ同士。

「本局の監査官だかなんだか知らないが、この俺の力を見てビビんなよ?」

 俺と組み合いながらクラインが力む。すると次の瞬間、彼の両手両足の服が破け飛び、現れた毛深い人肌がトカゲ、いや恐竜のようなごつごつと無骨なフォルムへと変化する。

「――ッ!?」

 途端に凄まじい力で俺は薙ぎ飛ばされた。異世界人だろうからどんなやつがいても不思議じゃないが、あの鋭い刺と緑色の鱗に覆われた腕と脚……こいつは口だけじゃない!

 俺はすぐさま体勢を立て直し、余裕の笑みを浮かべるクラインとレヴィアを睨む。こいつらはアホだが、やはり油断ならない。

「クラインすっごーい! だったら私も負けてられないね!」

 レヴィアが再び天にクロスボウを向けるが――こちらにも相棒がいることを忘れちゃいけないな。

「――光よ」

 俺の期待通り、セレスが聖剣から放った光弾でレヴィアのクロスボウを弾いた。

「あれ? あれれ?」

 空っぽになった両手を見詰めて戸惑うレヴィアに、セレスが一気に切迫する。そこを人外の手足をしたクラインがラム・ダオで牽制。儀式で捧げる生贄の動物を一刀両断するための重い刃がセレスの聖剣と火花を散らす。

「うぐ……なんて力だ……」

 竜人に似た腕を持つクラインにセレスが押されている。俺はすかさず走った。レヴィアがクロスボウを取りに行っている今なら邪魔は入らない。

「セレス、退け!」

 俺の掛け声にセレスは頷くこともなく瞬時に反応した。力の均衡が崩れてたたらを踏んだクライン。やつの間合いに一歩踏み込んだ俺のハルベルトが偃月を描く。

「おわっとっと!?」

 器用にもラム・ダオで俺の一撃を防いだクラインは、その勢いにあえて乗って身軽なバック宙返りで後方に下がった。そこにクロスボウを回収したレヴィアが普通の矢を連射しながら横に並ぶ。俺も矢を避けつつセレスと合流した。

「零児、怪我はないか?」

「今んところはな。そっちは?」

「私も掠り傷一つ負ってなどいない」

 安否を確認し合い、仕切り直しだ。

 あいつらはバカップルだが支局の代表に選ばれるくらいだ。わかっていたことだが、そうそう簡単には倒されちゃくれない。

「あーっ!」

 と突然叫んだクラインが、長く鋭く伸びた人差し指の爪で俺を指してきた。今度はどんな天然ボケをかます気だ、あいつ。なにが来ても絶対に突っ込まないからな。

「思い出した! 思い出したぞレヴィア!」

「え? なにを思い出したの? クライン?」

「あっちの男の方、去年の対抗戦の予選で呆気なく負けたやつだよ!」

 なんだそのことか。そりゃまあ、覚えてるやつがいたところで不思議はないか。去年はあの後なにしてたっけな俺? あー、確かオストリッチで敗戦祝いの一服をしてたな。

「えーっ!? ということは、あの子って実は弱いの?」

「ああ、弱いとも、レヴィア。少なくとも俺たちよりは弱いさ。なぜならあいつを負かした相手に俺は勝ってるからだ」

「すっごーい! クライン強ぉーい!」

「本当になんで本局にいるのかわからないくらい弱かったんだぜ! ザコもザコ、超ザコだ!」

「私たちは超楽勝ってことだね!」

 去年の対抗戦を知ってるやつらにはそう思われてんのか、俺。……こいつはいい、好都合だ。完全に嘗め切ってもらえれば油断も隙も生まれやす――


「貴様らぁあッ!!」


「「「!?」」」

 本物の森なら鳥たちが一斉に飛び去ってしまいそうなセレスの怒声に、バカップルはもちろん俺も驚きで心臓が止まるかと思った。え? なに? なんでセレスさんはブチ切れていらっしゃるんですか?

「貴様ら、これ以上私のパートナーを愚弄すると許さんぞ!」

「もしもし、セレスさん? なにを仰ってるんですか? 別に言わせたいやつには言わせとけばこっちとしても都合が――」

「零児は黙っていろ!」

「はい」

 強い怒りの意志を宿した翠眼で威圧され、俺は反射的にその場に正座しそうになった。こえぇ……。

 セレスは改めて彼女の圧倒的な剣幕にビビっているバカップルに向き直る。

「零児は弱くなどない! それは私が保証する! 確かに去年は弱かったかもしれない。その辺の子供に泣かされるほど弱かったかもしれない」

 いやいや俺そんなに弱くなかったよ? 誰もそこまで言ってないよ? てか今も昔も弱くないよ? 一年半前まで俺が『伊海の紅白殺戮ショー』の片割れとして恐れられてたことはセレスには言ったはずだよね……?

「だが、今ここにいる零児は強い! 他人を平気で馬鹿にする貴様らなどよりずっと! 去年までの弱い彼とは違う! 人は成長するんだ!」

 うん、まあ、成長はしてると思うよ。去年よりは断然強くなってると思うよ俺も。セレスが俺のために怒ってくれてるのは嬉しいんだけど、でもね、だからといって去年の俺がカスみたいな言い方はやめてもらえないでしょうか。

「……」

「……」

 バカップルは最初こそ震えていたが、今は落ち着きを取り戻してセレスの言葉を真摯に聞いているようだ。

 そして――

「ごめんな、お嬢ちゃん。俺たち、いや全面的に俺が悪かった。俺もレヴィアのことを馬鹿にされると、馬鹿にしたやつをぶん殴りたくなる。本当に悪かった!」

「ごめんなさい!」

 ペコリ、と。

 意外にもバカップルが素直に謝ってきたので、俺もセレスも鳩が豆鉄砲を食らったように呆気に取られていた。あいつら、アホだけど案外いいやつなのかもしれん。

「あ、ああ、わかってくれたのならもういい。頭を上げてくれ」

 セレスの許しが出たので、バカップルは同時に低頭を解除した。なんだかよくわからないが、俺も清々しい気分になっている。やっぱりアレか? こちらの実力に嘘をついて戦うことが気持ちのいいもんじゃないからか? 俺の中にもそんな騎士道精神があったんだな。

「仕切り直しにしようぜ。お互い、手加減なしだ」

 微笑んで戦闘再開を宣言する俺に、バカップルもいい笑顔を見せてそれぞれの武器を構え直す。

「おう、そうだそうだ。こんなところでもたもたしてられないからな! レヴィア、やるぞ!」

「任せてクライン!」

 レヴィアが斜め上空にクロスボウの矢を放った。同時に五本もだ。それらは最初と同じように空中で弾けて破片の連結魔法陣を描く。

「きっついの行くよ! 〈落雷の矢(ブリッツシュラーク)〉!」

 中二病患者みたいなネーミングセンスの技名を叫んだ刹那、各魔法陣から巨大な雷撃の矢が飛び出し、俺とセレスにその照準を向けて迸る。たぶん、あれも追尾機能つきだ。

「零児、ここは私が」

 セレスがその場で聖剣を瞬時に五度振り、五つの光の渦を飛ばす。あれはセレスの聖剣技の一つ――チェーンソーのごとく高速回転する斬撃の光渦だ。

 五つの光の渦は雷矢とそれぞれ衝突し、激しい閃光を放って爆散、相殺させた。

 爆風が吹き荒れ、土煙が巻き上がる。飛来する石礫が体を打って痛いが、これくらいなら我慢できる。

 視界を奪う土煙が晴れる前に、セレスは大地を蹴った。だが、俺は動かない。

「このクライン様には目眩ましなんて通じないんだぜ!」

 クラインが土煙を突き破ってラム・ダオを振り下ろしてくることがわかっていたからだ。俺は最小限の動きで体をずらしてその一撃を避ける。

「残念、ハズレだ」

「おお!?」

 間髪入れず振り下ろしたハルベルトの斧部分が、クラインのラム・ダオの背を打った。思いっ切り地面へと叩き落とす。

「よくもやったな、こいつ!」

 クラインが一本取られたという顔をして俺に人外の手を伸ばしてくる。あの手に掴まれたら俺の頭なんて豆腐みたいに握り潰されるだろうね。それは嫌だから後ろに飛んでかわした。

「? お嬢ちゃんの方がいない……てことは、レヴィア!」

 セレスが不在なことに気がついたクラインが俺に背を向ける。武器も拾わずに。

 彼女が心配なのはわかるが……

「余所見は禁物だとママに習わなかったのか?」

 ちなみに、俺は習った。

「くそっ!?」

 クラインが鋭い爪を立てて振り返る。

 だが、遅い。

 俺はその爪を掻いくぐってクラインの懐に飛び込むと、ハルベルトの柄尻で鳩尾を強く刺突した。

「がはっ!?」

 くの字に折れ、その場に両膝をつくクライン。

「あのお嬢ちゃんの言う通りだった。強い、じゃないか。……レヴィア、ごめんな」

 そのままクラインは白目を剥いて倒れ、動かなくなる。気絶したようだ。

 土煙が風に流される。

 すると、丁度セレスがレヴィアのクロスボウをラハイアンで弾き飛ばしたところだった。

「すまない。少し眠ってもらう」

「あう!?」

 レヴィアが倒れたクラインに気づく前に小突いて意識を奪ったのは、セレスなりの優しさだろうね。


 その後に現れた火文字が俺とセレスの勝利を告げると、気絶したバカップルはどこかへと転送された。

 まずは俺たちの一勝だ。


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