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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第三巻
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二章 監査官対抗戦・予選(1)

 俺がセレスと監査官対抗戦に出ると決めた日から数日が経ち、ついに伊海学園学園祭の幕が切って落とされた。


 ガヤガヤ。ガヤガヤ。

 開門と同時に数多くの一般人が学園内に殺到する。それは高等部の話なんだが、経験上、初等部や中等部も似たような感じだろうね。大学の方になったらたぶんもっとやばい。なんにしてもこのクソ暑い中、あの心臓破りの坂を徒歩やチャリで登ってきたやつらは称賛に値するな。

 どこもかしこも賑々としている。外は生徒たちが切り盛りする多種雑多な出店が軒を連ね、簡易ライブステージでは飽くことなく歌声や演奏が響いている。屋内だと教室を定番の喫茶店やなにかの展示会場、はたまたお化け屋敷等に改造したりと、普段学生が勉学に励む空間とは思えないほどの変貌ぶりだ。

 果たしてこの中にどれだけ外部の異界監査官が混ざっているのか見当もつかない。今年の参加人数を俺は知らないから、ちょっとすれ違ったやつと後で顔合わせて戦う、なんてことにもなりそうだ。

 監査官対抗戦には予選と本戦がある。一日目は予選で、開始は午後一時からだ。それまで参加者には表側の学園祭を楽しんでもらおうという魂胆だろう。

 予選開始までまだ時間のある午前現在、俺は様々な衣装でその身を彩った美少女たちが忙しなく動き回るコスプレ喫茶にいた。

 これはライバルクラスがやってる喫茶の視察……ってわけじゃない。

 俺は客として店のテーブルに腰を据えているのではなく、教室に設置した即席の厨房にてオムライスを作っているからだ。

 料理ができる俺の役目はキッチンスタッフなんだよ。……ん? なんで別クラスの助っ人をしているのかって? 悪いけど、その質問は見当違いだ。

 今もホールで忙しそうにしてる美少女たちがいるだろ?


 あれ、我らが二年D組の男子なんだ。全員。


 金髪ツインテールにメイド服を着た少女。

 黒い長髪と紅白巫女服をはためかす少女。

 青を基調とした婦警の制服を纏った少女。

 全部、男。

 いや、どっかから借りてきた女の子じゃないからな。正真正銘クラスの男子だ。しつこいようだが何度も言うぞ。ホールにいるどこからどう見ても女の子にしか見えないやつらは、漏 れ な く 野郎だ。

「白峰、オムライスはまだか?」

「はいよ、今できた。ほれ」

 俺は皿に盛りつけたトロトロたまごのオムライスを、ファンタジー世界の貴族令嬢みたいな衣装で身を飾った桜居に手渡す。地声で話しかけられなければ、俺がこいつを『桜居』だと認識するのに数秒のラグが発生するだろうね。それほどまでに、そこの桜居は『美少女』だった。

 いつもの癖毛を青い髪のカツラで封じた桜居は、睫毛の長いパッチリとした目を瞬かせ、桃色の唇で言葉を紡ぐ。

「なんだよ白峰、そんなにオレを見詰めて? ……ハッ! まさかオレに見惚れたのか!? これからはここでも女ボイスで喋った方がいいか!?」

「もし俺が一瞬でもお前に見惚れたならその時点で腹切って死んでやる」

 どうしてこうなったのか? それは数日前に遡る。



「えー、率直に言う。我が軍が普通に女装喫茶を行ったところで敵軍の女子どもに勝てないことは自明だ」

 教壇に立った桜居がそう断言した。なぜ司令官口調なのかは謎だ。

「隊長、でしたらどうするというのです?」

「女子どもに勝てなくば我らが悲願は成就しませぬ」

「始まる前からミッション失敗ということなのでしょうか?」

 男子たちから不満の声が上がる。誰もがそのことには気づいていただろうが、桜居のあまりの自信満々さに希望を抱いていたのだ。

「ええい、鎮まれい! このオレが無策で無謀な賭けをするわけがなかろう?」

 工作に使ったトンカチで裁判官のように教壇を叩き、男子たちのざわつきを瞬時に収める桜居。こういうカリスマ性はホントに凄えよ、お前。

「普通にやっても女子には勝てない。そこでだ、協力者を得ることにした」

 ニヤリ、と桜居は悪の組織の幹部がなにかを企てたような笑みを貼りつける。協力者という言葉に、皆が再びざわつく。

「どうぞ、入ってください監督」

 監督?

 胡散臭げに教室の扉に注目すると、そこから黒い髭をふんだんに蓄えたクマのような大男が入ってきた。赤い帽子を被ってサングラスをかけ、ジャンプ力に定評のある配管工みたいなつなぎを着ている。

 なんぞこいつ?

「この人はオレのちょっとした知り合いで、映画とかの特殊メイクを手掛けてる自称超一流のメイクアップアーティストなんだ」

 自称かよ。

「名前は土井――」

 と、紹介しようとした桜居を大男が丸太のような腕で制した。どうやら名乗りは自分でするつもりらしい。

 大男はウォホン! と力強く咳払いをし、


「ワターシノ名前ハ、D・W・グリフィスデース。『監督』ト呼ンデクダサーイ」


 ソプラノ歌手のような高い声でそう言った。

「――って嘘つくなよ! さっき土井って言いかけてただろ! メイクアップアーティストは監督じゃねえよ! そしてアメリカ映画の父に謝れ!」

「ノンノン、ドイー・ウォーク・グリフィスデスヨ、ボーイ」

「ややこしいわ! 結局偽名じゃねえか!」

「十七歳ノ火星人デース。地球ニハ混沌(クトゥルー)ヲプレゼントスルタメニ来マーシタ」

「年齢詐称すんな火星に帰れ見た目相応の声出せよお前の存在だけで既に混沌だ!」

「オー、ミスター・桜居。コノボーイ、ナンナンデスカ?」

「あー、チミたち、ドイーさんが困ってるからとりあえず白峰を追放しろ」

「「「了解であります、隊長!」」」

「いや待てお前らその投げ縄はどこから出したんだぎゃあああああああっ!?」

 四方から投げ縄で締め上げられた俺は、そのまま会議が終わるまで廊下に転がされていたわけだ。手首もガッチリ縛られてたからナイフを生成しても切れなかったんだよ。



 で、そのドイーさんはメイクの腕だけは神業で、クラスの冴えない男子どもをどんな魔法を使ったのか煌びやかな美少女に変身させちまったんだ。女装喫茶ってのは隠してるから、お陰様で物凄く繁盛している。こりゃあ、バレた日には集団リンチされても文句は言えないな。

 そうそう、当然、女装喫茶だから俺も女装させられているわけで。……うん、逃げようとしたんだけど、やつらめ俺の行動を見越してスタンガンを所持した連隊を編成してやがったんだ。気絶してる隙にやられた。

 俺がどんなメイクをしているのかは、自分も知らない。鏡を見てないからな。だからわかるのは服装だけだ。カメの化け物に頻繁に攫われるお姫様みたいなピンク色のワンピースドレス…………楽し過ぎて涙が出るね。

 俺は厨房からホールの様子を覗いてみた。男の娘たちが口に近い位置に装飾されたボイスチェンジャーで高い声を出している。客には無線と言っているらしい。

 そのホール全体が見渡せる奥の席にて、例のドイーさんが満足げに微笑んでいる。「オー、皆サントッテモ可愛イデース」とサムズアップなんかして……張り倒していいかな?

「なかなか似合っているじゃないか、白峰君」

 呼ばれたので横を見ると、厨房に一番近いテーブルで白衣を着た長身の少女が興味深げに喫茶内を眺めていた。

「郷野、なんでお前がここにいるんだ?」

「無論、敵情視察サ。それより白峰君、その格好で地の声を出すと気持ち悪いゾ?」

 俺は現在進行形で『美少女』をやってることを思い出し――たけど女声を出すつもりなど毛頭ない。自分自身が気持ち悪くなるからな。他の男子が楽しんでそれをやってることは尊敬すべきかもしれん。

「てか、よく俺だとわかったな」

「私はエスパーなのサ」

 なるほど、デンパか。

「いや、デンパではないよ」

 読心術!?

「本当は厨房の声が聞こえていたんだ。気をつけないと男だとバレるかもしれないゾ?」

「ご忠告どうも」

 俺はバレてもいいんだけどね。女装をやめれるなら。

「それはそうと、お前はいつも通りなんだな。男装しなくていいのか?」

「ん? おかしなことを言う。私は立派に男装しているじゃないか。医者の」

「普段となにが違うか一言で述べよ」

「白衣のボタンを留めている」

 絶対的な自信のある口調で答えられた。俺の脳裏に『手抜き』の三文字が浮かんだが、これ以上の問答はやめよう。疲れるから。

 するとそこでオムライスを運び終えた桜居がやってきた。テーブルで優雅に紅茶を飲む郷野に勝ち誇った顔を向けている。

「フハハ、見たか郷野。この繁盛ぶりを。オレが本気を出せばこんなもんだ」

「いやいや、敵ながらあっぱれだよ、桜居君」

 郷野は素直に称賛したが、

「でも、こちらだって負けてないサ」

 余裕な態度は一切乱さなかった。

「私たちは君たちと違って男装だと公開しているが、なかなかに繁盛しているよ。特にリーゼロッテ君とセレスティナ君が人気かな」

「セレスはわかるが、リーゼも人気なのか? 意外だな」

「年下の可愛い美少年が大好きなお姉さんたちにモテモテなんだ」

 ロリコンに加えてショタコンまで大発生させてるのかよ。リーゼ、恐ろしい子……。

 郷野は紅茶を飲み終えると、机上に代金を置いて椅子を引いた。

「さてさて、そろそろ視察はやめて戻らないとね。どういうわけか、リーゼロッテ君とセレスティナ君は午後から参加できないらしいんだ。白峰君、なにか聞いてないかい?」

「いいや。あいつらの事情なんて知らねえよ」

 と言ってはぐらかしつつ、俺は壁に掛けられている時計を確認する。もうじき正午だ。対抗戦前にセレスと合流して昼食を取ることになっているから、急がないとまずい。

「さっさと帰れ帰れ」桜居がしっしっと手を振り、「人気の二人がいなけりゃオレたちの勝ちは確定だな、郷野」

 そんな桜居の態度に郷野は少しムッとした表情をする。しかしすぐに澄ました顔に戻ると、踵を返して去っていく。

 その途中――

「重大発表。ここは実は女装喫茶だゾー」

 棒読みの爆弾発言を置き土産として残しやがった。客たちに動揺が伝播する。

「郷野てめえっ!」

 桜居が激昂するが、郷野はそそくさと立ち去った後だった。

 おいおい、と俺は嘆息する。美少女の姿をしている桜居から男の怒鳴り声が出たせいで、郷野の呟いた『女装』という言葉を裏づけちまったぞ。

 騒ぎ出す客。慌てて対応に追われる女装したクラスメイトの男子。そして、いつの間にか消えているドイーさん。

「……終わったな」

 俺は全てを悟って呟くと、迅速にこの場から退避することを選んだ。セレスを待たせるのも悪いし、桜居は俺の事情を知ってるからいちいち報告しなくてもいいだろう。

「おっと、その前に着替えないとな」

 このまま外に出られるほど俺はヘンタイじゃないんだ。


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