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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第三巻
89/314

間章(1)

 ――……レス――


 ――……セ……レス――


 ――応えろ、セレス――


「うぅ……」

 力強く尊大な、それでいてとても懐かしい声がセレスティナの脳に直接響いた。激しい眠気と『起きなければ』という気持ちが衝突し合い、微睡の中で呻く。


 ――聞こえるだろう、セレス。いつまで寝ている? 早く目を開けろ――


 さらに頭に突き刺さってくる威厳ある〝声〟が、セレスの意識を一気に覚醒させた。

「ハッ! も、申し訳ありません陛下! 私としたことがうたた寝を……?」

 瞼を開くと、辺り一面に無光の闇が広がっていた。上も下も前も後ろも右も左もない。長時間過ごすと感覚が狂って気持ち悪くなりそうな世界。

「な、なんだここは? 私は、自室のベッドで寝ていたはずだ」

 学園祭の準備を終えて監査局の女子寮に戻り、いつも通り授業の予習復習をしてシャワーを浴びてから消灯したところまでは覚えている。

 まさか眠っている間に『次元の門』に呑み込まれてしまったのだろうか。そう考える。

 いやーー

 変だ。このような暗闇なのに自分の姿がはっきりと見える。

 肩当て、胸当て、ガントレット、純白のマント、その下は学園の制服ではなくラ・フェルデの軍衣。就寝中に門をくぐってしまったのなら、自分は寝間着姿のままでないとおかしい。

 それにこのような虚無の世界で普通に呼吸ができることも不自然だ。声だって響いている。つまり空気があるということになる。そういう異世界なのかもしれないが、やはりここは『世界』として矛盾している気がする。

 と、ポゥ。

 唐突に、背後から淡い黄金色の光が差した。

 同時に感じ取った人の気配にセレスはバッと飛び退く。黄金の輝きが人の形をしてそこに佇んでいる。

「ようやく繋がったか」

 黄金色の光が言の葉を紡いだ。それも、セレスティナのよく知っている声だった。

「まさか……まさか、陛下……なのですか?」

「なにを当たり前のことを言っている? おかしなセレスだ」

 セレスティナは驚きに目を丸くする。この黄金色の光は、セレスティナの祖国ラ・フェルデの現国王――クロウディクス・ユーヴィレード・ラ・フェルデだというのだ。

 疑うのも一瞬。黄金色の光からひしひしと感じられる圧倒的な存在感は、紛うことなく自分が仕える主君のものだ。

「ですが、なぜ陛下が? それに、ここは一体……?」

「夢だ」

「ゆ、夢?」

 突拍子もない言葉にセレスティナの混乱が増大する。

「夢は門以外で世界間を繋げることのできる方法の一つだ。私の力は知っているだろう? 今は私の意識をお前の夢に潜り込ませた状態だと思え」

「はい、わかりました」

「む? 存外に素直だな。もっと戸惑うかと思ったが?」

「だって陛下ですから」

 とても信じられないことではあるが、この陛下ならこのくらいやって除けても不思議はないとセレスティナは思っている。セレスティナが知る中で誰よりも強く規格外なこの陛下ならば……。

「とにかく、こうしていられるのも限りがあるから手短に言うぞ。セレス、お前の夢を見つけられたことで三つわかったことがある」

 黄金色の光のシルエットが、セレスティナに突きつけるように三本の指を立てた。

「一つは、お前が無事だということ」

 陛下は立てた指を一本折る。

「ひとまずは安心した。よく無事だったな」

「はい、私の今いる世界の人々によくしていただきましたので。――ご心配をおかけしました」

 セレスティナは膝をつこうとするが、陛下はそれを手で制した。そのまま聞けということらしい。

 立てた指が一本に減る。


「二つ目は、この夢を通じてお前のいる世界を特定できたことだ」


「――ッ!?」

 セレスティナは声を失った。先程よりも強く驚駭したからだ。

「少し時間はかかるが、私が必ずお前を迎えに行く。それまでその世界で待機していろ」

「私を、迎えに……陛下自ら……?」

 衝撃的な台詞にセレスティナは狼狽する。全身に緊張が走り、動悸が高まる。

「……本当、ですか?」

「嘘だと思うか?」

 思わない。他の誰でもない、陛下の言葉を疑うなどありえない。

 ごくり、と息を呑む。

 飛び上がりたいほどに嬉しい。しかし、この胸の奥で渦巻く寂しさに似た感情はなんなのだろうか?

 この世界で出会った友と別れることになるから? そう考えることが自然だろうけれど、なぜかそれだけが原因ではないような気がしてならない。

 ……。

 考察したところで、その疑問は晴れそうにない。だからセレスティナは一旦疑問を保留にし、先を促すことにした。

「それで陛下、三つ目は?」

「ん? ああ、これでアレインとの勝負に勝ったということだ」

「は?」

 意味がわからずセレスティナは素っ頓狂な声を漏らした。アレインとはセレスティナも在席している聖剣十二将の長だが、ここで彼の名が出てくる理由がさっぱりだった。

 黄金色の光――クロウディクスのシルエットが首を振る。

「いや、なんでもない。こちらの話だ。それよりも時間だ。いいか、間違っても別の世界に飛ぶな。これ以上私に面倒をかけることは許さん」

 打ちつけるように言い残すと、黄金色の光は弾けて霧散した。

 瞬間、セレスティナの意識も真っ黒な闇から真っ白な闇へとシフトし――


 ――現実で目を覚ませた時には、夢の中での遣り取りは薄ぼんやりとしか記憶に残っていなかった。


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