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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第三巻
87/314

一章 来る学園祭に向けて(6)

「監査官対抗戦?」

 セレスが訝しげに柳眉を寄せ、小鳥のようにきょとりと首を傾けた。

「ああ。毎年、学園祭と同時期に裏で開催されてる闘技大会のことだ。まあ、こういうことやってんのは日本だけなんだが、開催時には各支局からの代表者が集まってけっこう賑やかなんだぜ」

 ちなみに本局所属の監査官は局長の誘波以外全員に漏れなく出場権が与えられている。出るかないかは自由だが、最低でも一人は参加しなければならない。そんなわけで去年は俺が強制的に出場させられたわけなんだが、結果は惨敗だったなぁ。……いや、やる気なかったから適当に負けたとかそんなんじゃないぞ!

「なるほど。ラ・フェルデでも聖剣十二将の互角試合が見世物として催されることがある。それと似たようなものなのだな」

「んまあ、そんな感じだと思ってくれて構わん。趣味の悪い催しじゃないし、一つの祭りとして楽しんでいればいいさ」

 見てる分には、だがな。

「そうと決まればレイちゃんには今年も出場してもらいますね♪」

「オイ待て、誘波。なにがそうと決まったのか詳しく説明してみろ」

「今年もレイちゃんが快く出場してくれて助かりますぅ」

「俺の心を捏造すんな! だいたいグレアムが毎年出てんだろうがっ! なんでわざわざ俺を強制する!」

「お砂糖が甘いから?」

「よーし、意味がわからんからとりあえずそこに正座しろ」

「嫌ですよぅ。そんなことしたら熱いじゃないですか」

 ふわふわとした笑顔で俺の言葉をそよ風のごとく受け流す誘波。去年もそうだったが、どうあってもこいつは俺を戦わせたいらしいな。こうなるだろうとは予想していただけに、あー、一発ぶん殴りてぇ。

「レイちゃん、そんな暴力魔みたいな顔してないでよく要項を読んでみてください。今年はいつもとは違うのですよ」

 誰が暴力魔かっ! とツッコム気力を暑さに奪われた俺は、不承不承とビラに視線を落とす。

 そして――気づいた。

「は? チーム戦? それも二人一組? おいおい、正気かよ」

 去年は、というか俺が知ってる対抗戦はどの年も例外なく個人戦だった。というのも、監査官は基本的に一匹狼が多いからだ。そこのグレアムがいい例だろうね。子分は引き連れていても、グレアムが誰かと肩を並べて戦うなんて想像できん。

 当のグレアムはというと……

「なんだと? チーム戦……だと? やばいな。俺的にやばい。なにがやばいのかって? 簡単だ。俺的に組んだやつまで叩き潰さない自信がねェからだ。だが思いっ切り暴れられる対抗戦には出たいわけなんだが、困ったことにどうすればいいのか俺様の頭は思いついてくれない。なぜだ? 俺様は俺的にバカではないはずだ。となると全ての元凶はこの暑さ……そうか、暑さだ! そしてその暑さを振り撒いている太陽! 俺的に貴様をぶっ壊す!」

「大兄貴落ち着いてくださいっ!」「太陽壊したら凍え死にますって!」「その前に流石の大兄貴でも太陽には敵いませんて!」「一発入れる前に消滅するッスよ!」

 頭のネジが飛んだように太陽に向かって吠えているところを、子分たちに諌められていた。あいつはもうバカでいいだろ。

「そうだ、俺的に一つ妙案を思い浮かんだぞ。おいそこの子分A。お前的に俺様と組め。そして俺様の戦いの邪魔にならねェところで頭抱えて引っ込んでろ」

「ええ!? 俺ですかい!? む、むむむ無理っすよ!?」

 スポーツ刈り野郎が凶器を向けられたように狼狽する。

「ダメですよぅ、グレアムちゃん。監査官ではない人は出場できません」

「なに? それは困った話だ。友達の少ない俺様は零児と組む以外ないってことじゃねェか。だがそれは俺的にできない。なぜなら俺様は零児と戦いたいわけで、零児と組んでしまうとそれは叶わぬ夢となってしまう。だから俺的に別のやつを探すことにしようと思う」

 どうやら俺が「お断りだ!」と叫ぶ前に自己完結してしまったらしいな。ていうか、俺はお前の数少ない友達としてカウントされてんのか?

「そうなるとアレだ。俺的にこんなところで暢気にだべってる場合じゃあねェな。ハッハァーッ! いいねェいいねェ、なんか俺的に楽しくなってきたァ!」

 テンションを跳ね上げて踵を返すグレアム。これから相棒探しをするんだろうね。あいつと組む物好きがいることを願ってやるか。

「あ、ちょっと待ってください、グレアムちゃん」

 立ち去ろうとしたグレアムをなぜか誘波が呼び止めた。「あん?」と振り返ったグレアムの下まで誘波はてくてくと歩み寄り、背伸びして耳元でなにかを囁いている。なにやってんだ?

 すると、グレアムのテンションの上がった笑みが急激に醒めていった。グレアムはすっと目を細め――

「おい、てめェら」

 ――普段よりトーンを落とした畏怖すら感じさせる声を、子分の不良たちに向けて放った。不良たちの肩がビクゥ! と跳ねる。

「俺的に、弱いもんをイジメて喜ぶやつは大嫌いなんだが、まさか俺様の子分がその大嫌いカテゴリーに入ってるなんて悲しいと思わねェか? ああ?」

 不良たちの顔が一気に青ざめる。お怒りの大兄貴を前に、いきなり雪山の天辺にテレポートさせられたみたいにブルブルと激しく震えているな。

 なるほど、誘波は俺たちがもめていた原因をグレアムに話したってことか。

「大変だ。俺的に実に忙しくなる。俺様を大兄貴と呼ぶってんなら、俺的にお前らを町の清掃活動にでも励むよう調教しねェといけなくなったわけだよなァ」

「「「「ひっ!?」」」」

 凶悪な笑みを浮かべたグレアムは不良たちの襟首を片手に二人ずつ掴むと、そのままゴミ袋のように彼らを引きずり去って行った。

 ……不憫な。


 泣き喚いて許しを請う不良たちの声が聞こえなくなった頃、セレスが感心したように口を開く。

「意外と、彼は善人だったのだな」

「まあな。あいつはいろいろと狂ってるけど悪人ってわけじゃねえよ」

 という感じでセレスがグレアムの評価を改めたところで、俺はだいぶ逸れてしまった話題を元に戻すことにした。

「そんで? どうしてチーム戦にしたんだよ?」

 誘波のことだ。どうせまたどっかのバトル漫画にでも影響されたんだろうね。

「これから『王国』と戦うにあたって、異界監査官も結束する必要があると考えたからですよ、レイちゃん。個々人がこれまで通り勝手気ままに動いていたのでは、恐らく『王国』には勝てません。スヴェンちゃんや望月ちゃんを相手にしてみて、レイちゃんも充分にわかったはずです」

 ……。

 か、かなりまともな理由じゃないか。誘波にしては珍しい。

 確かにその通りだ。スヴェンも望月絵理香も冗談みたいに強かった。もしも俺一人で相手をしていたら、ほぼ間違いなく死んでるだろうね。

「いきなり大人数戦は難しいので、まずは二人組(ツーマンセル)からチームワークを培ってもらおうと考えたのが今回の企画です」

「うむ。仲間と手を取り合い、背中を預け合って戦う。私も素晴らしい考えだと思うぞ。流石は誘波殿だ」

「わかっていただけましたか、セレスちゃん。その通りです。最近読んだバトル漫画でもチームの絆が大切だと言っていました♪」

「やっぱり漫画の影響もあったのかよ!」

 ……おかしい。今、急激にこの企画がまともじゃなく思えてきた。

「そこで今回はいつにも増して奮発しました。なのでチーム戦だとしても例年通り参加者は募ると思われます」

 言われて俺はもう一度ビラに目を通す。下の方にある赤枠の中に、各順位の賞金と賞品が記されていた。

「なっ!? 優勝賞金三百万!?」

「あはっ、驚いたようですね。例年だと優勝賞金は五十万ゼニーですから」

「ゼニー言うな」

 三百万あったら香ばしく焼けたリビングを改装してお釣りがくる。対抗戦に出る気なんてミジンコほどもなかったが俺だが、これは少々検討する必要が出てきたぞ。

 差しあたっては誰と組めば優勝できるかと考えていると――バッ。

「零児、ちょっと貸してくれ!」

 なにやら血相を変えたセレスが俺から監査官対抗戦のビラを奪い取った。あまり字を読めないのにどうしたんだ?

「やはり……これは……」

 セレスは優勝賞金ではなく、プリントされてある賞品の写真を見て低く唸った。対抗戦の賞品は順位で決まるのではなく、優勝者から順に何種類もある賞品の中から選べる形式になっている。賞品は監査局が表向きに製作している近未来型洗濯機や、ユーラシア大陸横断旅行とかいう謎プラン、果てに呪い的な力が込められてそうな指輪まで様々だ。

「どうかしたのか、セレス?」

 その中でセレスが見詰めていたのは……剣だった。誰が振れるんだって言いたくなりそうな二メートルを優に超える大きさに、両手で扱うための長い柄。銀色の剣身はどうなっているのか光を紅に反射し、どこの世界のものとも知れない奇妙な文字が彫られている。

 珍しい剣だとは思うけど、セレスには武器を集める趣味でもあるのか? 俺なら迷わずこのウォーターベッドならぬウォーターソファーにするけどな。

「誘波殿、この剣は一体どこで?」

「あらあら、お目が高いですねぇ、セレスちゃん。これはこの間『次元の門』から出てきたものを監査局が回収した物です。とても強力な力を秘めているようですので、対抗戦の賞品にピッタリだと思いました♪」

 今年の賞品はどれも良質ですよ、とニッコニコの笑顔で語る誘波。お前はどこの商人だ。

 セレスはなにかを逡巡している風にビラと誘波を交互に見ている。そして意を決したようにまっすぐ真摯に誘波を見て、

「……誘波殿、この剣は大会の賞品になどするべきじゃない。私に譲ってはもらえないだろうか?」

 そう頼み込んだ。その口調からして単に剣が欲しいっていう願望じゃなさそうだ。俺の気のせいだといいが、どこか危機感めいたものを感じる。

「それはできませんよ、セレスちゃん。もう発表してしまいましたし、この剣の競争率はそこそこ高いのです。たとえ呪われた剣だとしても今さら取り消すつもりはありません。手に入れたければ、対抗戦に参加して勝つことですね」

 ……見ろよ、誘波のあの無邪気なようで腹黒さを孕んだ企み顔を。こいつ、絶対にセレスを参加させたいがために今の話を断ったに違いない。

「そうか。なら、仕方がないな」

「いやセレス、なんか知らんが大事なことなんだろ? もっと食いつけよ」

「構わない。私は正当な手段で目的を達成させてみせる」

 俺に向けられる瞳の純粋さが眩しい! てか素直に引き下がり過ぎだ。少しは誘波の悪意を感じ取れるようになった方がいいぞ?

「ではではぁ~、暑いので私は冷房の効いた部屋に帰ります。レイちゃんたちも熱射病にはお気をつけてくださいねぇ♪」

 ヒュオッ。一陣の風が誘波を包んだかと思えば、一瞬にしてその姿を跡形もなく消し去った。風使いの誘波が用いる風の転移術だ。

「あのアマ、いろいろあって忘れかけてた暑さを思い出させやがって……」

 いかん、太陽の容赦ない攻撃がギラギラと俺に突き刺さってくる。こうなってくるとグレアムみたいにバカになりそうだ。つまり、太陽ぶっ壊してぇ。

「零児」

 俺が敬礼のポーズのように手を額にあてて憎たらしげに上空を見上げていると、セレスが凛と響く真剣な声をかけてきた。

 俺は太陽を睨むのをやめてそちらを向く。

 すると、セレスは仰々しく俺に頭を下げた。

 

「その、訳は後で話す。だから私と、私とチームを組んでくれ! 頼む! こんなことを頼めるのは零児しかいないんだ!」


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