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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第三巻
81/314

序章

挿絵(By みてみん)

 二つの青い月が淡く優しい光を持って地上を照らしている。満天の星々は小さな煌めきを瞬かせ、暗い夜の空を芸術的なまでの美しさで彩っている。

 そんな星空を鏡のように映す大きな湖があった。湖面は波打つことなく穏やかで、星月の輝きを反射した絢爛たるその様は、遠くから眺めるだけでも人々の心に安らぎと感動をもらたすことだろう。

 湖のほぼ中心には浮島があり、石造りの巨大な橋が架かっている。浮島と、岸辺で栄えた都市とを繋げる橋だ。荘厳な雰囲気を纏った大橋からは、建築されてから幾千の歳月を重ねていることが窺える。

 だが、それを渡った先には、そんな大橋など霞んで見えるほど壮麗で立派な王城が天高く超然と聳えていた。

 その王城の最上階。広い窓ガラスを設えた展望台として一般にも開放されているこの場所で、一人の青年が物静かに星空を見上げていた。

 腰まで届く美しいブロンドの長髪に宝石のような赤紫色の瞳。顔立ちは嘘のように端整で、法衣に似た豪奢な衣服を長身に羽織っている。年齢は二十代半ばだろう。しかしそこに立っているだけにも関らず、彼の全身からは王者の風格とも言える圧倒的な存在感が滲み出ていた。

 彼の傍らには、どういうわけか一振りの長剣が浮遊している。星空をそのまま剣の形に切り取って貼りつけたような刀身の、神秘的な輝きを放つ両刃剣である。

「世界は無限に存在する。その中からたった一人を見つけ出すなど、印をつけた砂粒を砂漠から探し出すよりも難儀なことだな」

 青年は剣に語りかけるようにそう言って、苦笑する。

「もっとも、私なら時間をかければ可能なことだが」

 自信に満ちた彼の言葉に応えるように、剣が明滅する。

 と、展望台の入口の方から人の気配。

「陛下、やはりここにおられましたか」

 気配の主は、鮮やかな翠色の長髪をした若い男性だった。彼は褐色のマントを靡かせて陛下と呼んだ青年の下に歩み寄り、恭しく片膝をつく。

「アレインか。なんの用だ?」

 陛下と呼ばれた青年が振り返らずに答える。

「フェンサリル第十二席の件です」

「ああ、そのことか」

 陛下は納得と呆れを滲ませてそう呟いた。

 セレスティナ・ラハイアン・フェンサリル。この国――ラ・フェルデが誇る聖剣十二将の一角を担う若き女性騎士のことだ。彼女は約一ヶ月半前に突然失踪し、現在までなんの手掛かりも見つかっていない。

 ただ、どこへ消えたのかだけはわかっている。

 異世界だ。

「あいつの部下の証言から『門』をくぐったことは判明している。私が見つけてやるまでは帰って来られないと、前に言ったはずだ」

「ですが、そう仰られてから時間が経ち過ぎています。下手な異世界に飛んでとっくに命を落としている可能性も考えられるでしょう。そろそろ、彼女が抜けたことで空いた聖剣の席を埋める準備を進めた方がよいかと思われます」

 彼――アレイン・グラリペル・キャクストンは聖剣十二将のリーダーを任されている。その責任から今回の提案をしてきたのだろう。

「悪いが、私はまだ諦めていない。セレスは私がこの目で選び抜いた聖剣十二将だ。聖剣の第十二席に座れる猛者を新たに見つける方が大変だと思うが?」

「確かにそうかもしれませんが、準備を進めない理由にはなりません。聖剣は十二本揃ってこそ真の意味を成すことは陛下が一番ご存知のはず。早々に取りかかるべきです」

 そうだな、と陛下の唇が弛緩する。アレインは直接政治に関わっているせいか、他の聖剣十二将たちと違って大臣たちのように頭が硬い。もっとも、それは国を思ってのことだ。強く否定はできない。

 そもそも、彼の提案を却下するつもりなどない。

 聖剣ラハイアンを失ったことで、この世界は新たなる聖剣の素を生み出そうとしている。それに合わせてこちらも聖剣を扱える者を見つけ出す必要があるのだ。世界は待ってくれない。

「わかった。そちらは全てお前に任せる」

「陛下はどうなさるおつもりで?」

「私は継続してセレスのやつを探す。あいつが戻ってくることこそ最善だからな。……そうだ。どちらが先に見つけるか勝負してみるか、アレイン?」

「またそのようなお戯れを」

 はぁ、とアレインが溜息をつく。どうやら了承はしてくれたようだ。

「それにしても困ったものですね。先代の第十二席も就任して間もなく外れましたし、なにか悪いものでも憑いているのでしょうか?」

 用件が済んだためか、アレインが雑談をする感覚で言の葉を紡いだ。口調は硬いが、彼とは幼馴染の関係にある。だからこうして二人きりの時は他愛のない雑談をすることも多い。

「アレとコレとは話が違うだろう? セレスは騎士の鑑のようなやつだ。先代のようにはならんさ」

「いえ、話の趣旨はそこではなく、第十二席がすぐ空席なるということに対してであって……」

「ああ、そうだったな。だが、今回はどうせ一時的なものになる。あいつは必ず帰ってくるからだ。世界が新たな聖剣を創造する前に、この私が連れ帰ってみせるさ」

 絶対的な自信を含んだ声に、アレインが深刻に言う。

「……本当のところを申しますと、私も彼女が適任だとは思っています。しかし希望が薄いことも事実。お言葉ですが陛下、本当に彼女を見つけることは可能なのですか?」

「おい、アレイン。お前は私を誰だと思っている?」

 疑念に眉を寄せるアレインだったが、陛下は微塵も揺るがない。強い意思を声に乗せてはっきりとこう告げる。


「王だ。次空を統べる神剣の継承者、クロウディクス・ユーヴィレード・ラ・フェルデだ」


 陛下――クロウディクスはようやくアレインを振り返った。その顔には決して折れることのない自信満々な笑みが貼りついていた。

「なに、すぐに見つけてやろう」


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