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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第二巻
79/315

四章 暗黒の深部(8)

 気がついた時、俺は地面に突っ伏していた。俺、今回の戦いではけっこう倒れてるな。侵蝕されないと言っても、やっぱ不利なんだよ。ここでは。

 リーゼは? 迫間と四条は?

 わからねえ。今の暴風のせいで闇の靄が巻き上がって視界が悪い。

 しかし望月のやつ、なんつう力だ。背中に加えて体中が痛え。けっこうな量の血も流しちまったな。くらくらする。

 だが、こんな風、誘波に比べりゃそよ風みたいなもんだ。もし敵があの着物怪人だったら、俺は五体満足ではいられなかっただろうね。

 立ち上がる。青龍偃月刀は……ない。知らない内に手離してしまったらしい。仕方なく、俺は最後の日本刀を生成する。ないよりはあった方がマシだ。

 闇の靄が沈殿していく。

 視界が、晴れる。

「――ッ!?」

 迫間が、望月に斬られて鮮血を噴き上げていた。

「れ、漣ッ!?」

 上空に回避していたと思われる四条が、必死の形相で崩れ落ちる迫間の下に急降下する。

「るぉおおおおおおッ!!」

 そこに、横から悪魔異獣が突っ込んできた。

「四条! 横だ!」

「なッ!?」

 気づいた時にはもう遅い。悪魔異獣の即死級の巨拳が四条に襲いかかる。

 すると――ボワッ。

 巨拳と四条の間に、黒炎が灯った。

「レージを助けてくれた借りはこれで返したわ」

 黒炎から現れたリーゼはそう言うと、瞠目する四条を蹴り飛ばした。直後、悪魔異獣の巨拳が四条よりも僅かに体の小さいリーゼを撥ね飛ばす。まるで大型トラックと衝突したような軌道を描いて、リーゼは俺のすぐ近くへと落下した。

 あのリーゼが、他人を庇った。

「リーゼ!?」

 俺は即座に駆け寄り、リーゼの小さな体を抱き寄せる。幸い息はあったし、頑丈な〝魔帝〟様は骨も折れていないようだが……もう、動けそうにない。息はあっても虫の息。ダメージは深刻だ。

「しっかりしろ、リーゼ!」

 俺は呼びかけるが、意識を失っているリーゼに反応はない。

 と、背後に〝影〟の転移。望月か! と思ったが、現れたのは迫間だった。

「白峰、俺らが時間を稼ぐ。お前らは……もう逃げろ」

 喋るのもやっとという状態で、迫間はそう告げてきた。

「なんだと? ふざけんな! お前らを置いていけるか! 俺のお人好し舐めんなよ!」

 吠える俺を、舞い降りてきた四条が睨む。

「今の望月先輩が狙ってるのはその子よ。ここに残ってたら確実に連れ攫われるわ。だから安全なところに運ぶの。その役目はアンタ」

 俺はもう一度リーゼを見る。四条の言うことはもっともだ。それが一番合理的だということは俺にだってわかっている。だが、納得は死んでもいかないだろうな。

「安心しろ。望月先輩は俺らが刺し違えてでもなんとかしてやる」

「少なくとも、アンタが誘波や師匠の下に辿り着くまでの時間は稼いであげるわ」

 二人はそう言い残し、俺に反論の余地も与えず望月と悪魔異獣に飛びかかっていった。

 戦闘音と絶叫が飛び交う。

 逃げろだと?

 そんなことした日には、またお前らにでかい借りを作っちまうじゃないか。たぶん、二度と返せない借りをな。

 悪いが、俺は逃げないぞ。日本刀一本でも戦ってやる。

 と、その時――

「レー……ジ」

 擦れそうな声に、俺はリーゼを振り向いた。意識を取り戻した彼女は、瞼を少し開き、ルビー色の瞳で俺を力なく見据えている。

「レージ……わたしは……あいつを燃やしたい」

 指一本動かせないにも関らず、リーゼの闘志はこれっぽっちも揺らいでいなかった。

 これでもしリーゼが『帰りたい』とか『助けて』とか言ったら、俺の決心は見事に瓦解していただろうな。

 そうだ。俺だって、望月をぶん殴りたい。ぶん殴って、まず迫間と四条を利用したことを謝罪させてやる。

「リーゼ、一緒に戦うぞ。だから、お前の魔力を俺に預けてくれ」

 弱々しく頷くリーゼの手を左手で握り、俺は〈吸力〉を開始する。

 リーゼの底なしの魔力が俺へと流れ込んでくる。

 だが……なんだ? いつもと、少し違う。

 魔力を通じて、リーゼの『勝ちたい』という強い意思が伝わってくる。俺の中で、気持ちが一つに混ざり合う。

 普通の武器じゃダメだ。そんなんではこの想いを乗せられそうにない。

 母さんに叩き込まれた能力の使い方を思い出す。俺は今まで基本的なことしかやってこなかったが、ここらで応用編に手を出してみるか。

 イメージする。ナマクラの日本刀を捨て、俺の武具の知識を総動員し、リーゼの意思を込めた全く新しい武器を創造する。


〈魔武具生成〉――魔帝剣ヴァレファール。


 長く広い剣身はフランベルジェのように波打ち、突き刺した相手の肉を抉る。その色は赤く、リーゼの瞳の色を模している。鍔は攻撃的に刺々しく前方に突き出し、柄は両手持ち用に長めに設えた。命名は言わずもがな。リーゼのファミリーネームだ。

 スヴェンの時に生成したグングニルや、ニセ〈黒き滅剣〉とはわけが違う。アレらはただの想像で作られたでかいだけのレプリカだったが、今回は細部まで綿密に計算した俺オリジナルの武器だ。ただ知っている武具を生み出すのが〈魔武具生成〉じゃない。あらゆる武具の要素を組み合わせ、設計し、この世には存在しない実現不能な武具を生成することが真骨頂なんだ。

 既存の武具を作る方が楽だからやったことなかったけど、どうやらうまくできたらしいな。母さんほどじゃないけどよ。

 それからもう一つ、俺は試したいことがある。

「リーゼ、悪いけどお前の炎、使わせてもらうぞ」

 炎のごとく波打つ刃に、本物の黒炎が纏った。

 これはスヴェン戦で気づいたことだ。取り込んだリーゼの魔力を、俺の魔力に昇華してしまう前に武具に込めれば黒炎を灯せる。制御はかなり難しいが、リーゼの意思がそのやり方を直接教えてくれる。

 一撃だ。

 一撃で決めなければ、後がない。

「迫間! 四条! ちょっとどいてろ!」

「「「――ッ!?」」」

 黒炎纏う波状剣を持つ俺に、迫間たちが気づく。だが当然、望月にも知られてしまう。こんな派手な武器だ。隠せるわけがないだろう。だったら最初からバラしていた方が対処された時に対処し返せるってもんだ。

「ふふっ」

 望月が転移する。闇が俺の後方に噴き上がる。が――

「そんな手に二度も引っかかるかよ!」

 人の気配を感じない後ろの闇はフェイク。本物は――なっ!?


 噴き上がる闇が、何箇所にもあるだと?


 驚愕する俺は、どこに刃を向けていいのかわからなくなる。

「上だ!」

 迫間に言われて見上げると、四条と似たような巨翼を背に生やした望月が、遥か上空から俺を狙っていた。〝影〟の斬撃波が飛んでくる。

 やばい――っていうと思ったか?

「いいのかそんなところにいて? それならそれで、俺はまずはあの異獣から焼き殺すぞ!」

 斬撃波をかわしながら、俺は咆哮する悪魔に向かって走る。

「! 智くんには触れさせないわ!」

 案の定、望月は転移で俺と悪魔異獣の間に割り込んで――

「二度と引っかからないんじゃなかったの?」

「なにっ!?」

 後ろ……だった。

 また、俺は油断した。

 やられる!?

 と――

「まったく、詰めが甘いっていつか言わなかったかしら?」

 振り翳された望月の腕を、四条の〝影〟の帯が絡め取った。四条は黒翼を広げ、一本釣りの要領で望月を宙に持っていく。しかし、その帯はすぐに切断された。

「無駄よ。瑠美奈ちゃん程度の〈束縛〉じゃ、私を捕えることはできないわ」

「知ってるわ。捕えることが目的じゃないから」

 宙にいる望月の後ろに回り込んだ迫間が、〈黒き滅剣〉を大上段から叩きつける。望月は影刀を立てて漆黒の刃を受け止めたが、武器の重みの差で吹っ飛んだ。

 空中で体勢を立て直す望月を、悪魔異獣が優しく受け止める。

 ――そこだ!

「リーゼ、存分に焼き尽くしてやれ!」

 俺は黒く燃える魔帝剣を振り翳し――

「らぁあッ!!」

 気合いと共にリーゼの黒炎を解き放った。

 轟ォオオオオオオオオッ!!

 激烈な爆撃音が轟き渡り、怒涛と化した黒き業火が驚愕する望月と悪魔異獣を周囲の景色諸共津波のごとく呑み込んだ。

 俺の〈魔武具生成〉では武器が持つ特殊能力までは再現できない。なんせその辺の構造を理解できないからな。でも、理解している能力をオリジナル武器に付加させることは可能だ。

 この魔帝剣は、リーゼの黒炎を何倍にも増長させる力を宿している。リーゼの意思から感じ取り、俺が一から設計した力だ。波打つフォルムもそのための要素だったりする。

 結果――――やり過ぎたな。

 俺の前方、いっそ天晴れなくらい燎原となっているぞ。そりゃあ、まだ慣れてないから制御できなかったってのもあるけど。

「白峰、まだ終わってないわ」

 四条の緊張感ある口調に俺は改めて前方を見やり、愕然とする。

 元々黒いから焦げてるのかどうかわからないが、とにかく悪魔異獣の巨体がむっくと起き上がったんだ。

「ははっ、姿通りのバケモノめ」

 アレをくらって生きてるだと? もう苦笑しか出ないな。

 と思ったら、悪魔異獣はガクンと膝をついた。

「智くん!? 智くん!? そんな、私を庇ったりするから……」

 悪魔異獣の陰から、黒セーラー服が焼け落ちてほとんど下着姿となった望月が出てくる。悪魔異獣が庇ったらしいから生きているようだが、彼女自身、もうフラフラだ。

 しかし、フラフラ度で言えば俺らだって負けてない。ここから再戦して勝てるかどうかは怪しいな。やるけど。

 武器を構え直す俺たちを、望月はキッと恋人の仇を見る目で睨む。

「あなただけは許さないわ、監査局のわんこさん。智くんが大怪我したから今日は見逃すけど、そのうち絶対に私の手で首を刎ねてあげる」

「なっ、てめえ! 逃げる気か!」

 叫ぶ俺に、望月は完全にやる気を失った声で答える。

「元々、私が残って戦う理由はないの。スヴェンの研究には興味ないし、私個人の目的も執行騎士としての目的も達成されたから」

「執行騎士の目的だと?」

「ええ。歪みを用いて、この辺りにある『次元の柱』を圧し折ったの」

 次元の柱? なんだそれは? 聞いたことがないぞ。

「それは、なんのためにだ?」

「さあ? 私は〝王様(レクス)〟の指示に従っただけよ」

 本当に知らないのか、知っていてあえて言わないのか、望月は掴めない笑みを浮かべている。

「じゃあね、漣くんに瑠美奈ちゃん。またどこかで会いましょう」

「「望月先輩!?」」

「待てコラ!」

 捕えようと走る俺たちに向かって、望月は右手で空気を薙いだ。

「止まれ白峰!」

 俺は迫間に腕を掴まれる。

「なにしやがんだ迫間! 今あいつを捕まえないでいつ――ッ!?」

 迫間が止めた理由に気づいた俺は、驚きのあまり言葉を失った。


 俺たちと望月の間に、高さ二十メートルほどもある楕円形の〝穴〟が空いたのだ。それはもう、メスで切ったようにスッパリと。


『混沌の闇』の〝穴〟だ。あのまま突っ込んでいたら間違いなく呑まれていた。誘波の風の加護があるといっても、あの中に入ったらまず助からない。助かったとしても、望月みたいな影霊に生まれ変わってしまう。

「さようなら。次に会う時まで死なないでね、わんこさん」

 俺に言い残し、望月は悪魔異獣の肩に乗って『混沌の闇』の中へと飛び込んだ。それも大概に驚愕物だったが、影霊だから大丈夫なのだろう。

 数瞬後、〝穴〟が勝手に閉じられる。

「逃げ……られた……?」

 帰ったら誘波か鷹羽に殺されるな、俺。

 いや、その前にレランジェに殺されそうだ。早くリーゼを治療してやらねえと……。

 すると――ドサッ。ドサッ。

 なにかが倒れる音を聞いた。見ると、迫間と四条が気を失って地面に転がっていた。緊張が解けたのだろうな――って!

「おいおい、ちょっと待て。お前らまで俺一人で運べってのか? 無茶言うな……よ……」

 あ、やばい。力入んねえ。

 どうやら、俺も意識が飛ぶらしいな。


 悪い、お前ら運ぶのは、ちょっと休んでからにするぜ……。


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