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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第二巻
77/314

四章 暗黒の深部(6)

 ドシン! と大地を揺るがすような音を立てて飛び降りてきたこの異形が、広瀬智治?

 どんな角度から見ても、地球人じゃないぞ?

 と――


「るぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 もはや衝撃波とも言えそうな大音量の咆哮が異形の口から発せられた。ビリビリと静電気でも帯びたような嫌な感覚が体中に走る。

 あまりの衝撃的事柄に俺は背中の痛みを忘れそうになりながら、望月に言う。

「ふざけんなよ。コレが地球人なわけねえだろうが! それともなにか? 広瀬智治ってのは名前だけ日本風の異世界人だったってことか?」

 身近にそういう例がいるので可能性はゼロじゃない。もっとも、あの着物怪人の場合は偽名だけどよ。

「酷いこと言うわ、監査局のわんこさん。私はふざけてなんかないのに」

 望月は、ピョン、と悪魔のような姿をした巨体の肩に飛び乗り、愛おしそうにそのワニ顔を撫でながら口を開く。

「彼は歴とした人間で地球人で日本人よ。本来の肉体はとっくに滅んでいるけれど、魂はこの影霊の中にちゃんと残ってるの」

「魂……だって?」

 

『どうも広瀬先輩は二人を『混沌の闇』に引きずり込んだ影霊に捕まってるらしいのよ』


 四条の言葉を思い出す。本当に広瀬智治の魂とやらがあの異獣の中にあるとしたら、まあ、嘘はついてないな。無限に存在する異世界には『霊界』ってのがあっても不思議はないだろうから、俺は魂の存在を否定しない。だが、それがアレの中にあるってことは俄かには信じられねえぞ。

「ふふっ。わんこさんは知ってるかしら? この『混沌の闇』がどうして侵蝕をするのか」

「いいや」

 いきなりなんだ? 俺が知るわけないだろ。迫間や四条だってそこまでは知らない雰囲気だったしよ。

「偽物が本物と入れ替わりたいって話はよくあるけどな」

 適当に言ってみる。

「凄い凄い。それ近いわ」

 キャハキャハと耳やかましく望月は笑った。そのやかましい声を間近で聞いているだろう悪魔異獣は……置物のように微動だにしてないな。望月のやつ、こんなバケモノをもう手懐けたっていうのか?

「レージ、どうするの? あれ燃やしていいの?」

「待ってくれ、リーゼ。俺が動けるようになるまでもう少し時間を稼がせてくれ」

 正直言うと、背中の痛みで立っているのがやっとという状態だ。痛みに慣れれば、少しは動けるようになる。

「で? 模範解答を教えてくれよ」

 言うと、こちらの狙いを理解しているのかいないのか、望月は不敵に微笑む。

「ほとんどの影魔導師は勘違いしてるけど、『混沌の闇』はね、言わば『世界の種』なの。神様が混沌から世界を作ったって神話があったりするじゃない? それもあながち間違ってない創世の一つで、『混沌の闇』はその原型よ。混沌は自分の世界を構築するために、既に存在する世界に寄生して情報を得ようとする。それが侵蝕」

 ……マジか?

 流石に創世の話になるなんて思ってもいなかったぞ。

「侵蝕され、消滅した世界の物質は、その情報を『混沌の闇』に持っていかれて不完全に再構成されるの。その動物版が影霊ってわけ。影霊も完全になるために情報を得ようとして、生き物を襲う。そして様々な生物情報が混在して生まれたのがこの子。この中には智くんの情報も含まれているわ」

 ワニ顔を愛撫しながら、望月は語る。美女と野獣とはこのことだ。

 ていうか、魂ってのはつまりそういうことだったのか。はいそうですかと納得はできないけど、魂がどうのこうの言うよりは理解できる。

 だったら、ますますこのバケモノが広瀬智治だとは言えなくならないか? もう全く別の存在だ。でも、望月の目には恋人に映ってるんだろうな。どんだけ捻じ曲がった愛なんだ。

「ついでに教えるわね。影魔導師は〝影〟を繰ってるっていうけど、実際は影を通して『混沌の闇』に干渉し、混沌を抽出して形や術式となる情報を与えて使役しているのよ。暗ければ暗いほど干渉しやすいし、影の範囲がほぼ全域に広がる夜は私たちが活動するにはベストの時間帯ってわけ。光に弱いのは、光が混沌を破壊してしまう性質を持っているから。わかったかな?」

「ああ、てめえの趣味がよくわからないことがよーくわかった。それと背中の痛みもだいぶ感じなくなってきたぜ!」


〈魔武具生成〉――青龍偃月刀。


 幅広の刃が龍の口から生えているように見える長柄の大刀だ。三国志の関羽が使っていたという話は有名だろう。日本刀三本分の魔力を消費しちまったが、あのバケモノと戦り合うにはこのくらいの武器がないと辛い。

「いけるのね、レージ」

 リーゼも掌に宿した黒炎を構え直す。

「ああ、もう充分だ」

「あはっ、ぐっちゃぐちゃの粉々にしてやりましょ」

 ぐちゃぐちゃか粉々かどっちかにしてくれ。

 戦闘態勢を取る俺たちを、望月は悪魔の肩から余裕の表情で見下している。

「智くんに会えたから私の願いは成就されたんだけど、どうしよっか?」

 望月は広瀬智治――悪魔異獣に話しかけるように呟いた。悪魔異獣は彼女に答えるように「るおん」と唸る。

「ん~。私は興味ないからどうだっていいんだけど……そこの〝魔帝〟さんをお持ち帰りして、スヴェンの研究のお手伝いでもしてあげよっかな?」

 ――ッ!?

 な、に?

 今、望月はなんて言いやがった?

 スヴェン……俺の耳には確かにその人物名が聞こえたぞ。俺が知る中でその名を持つやつは一人しかいない。

「てめえ、あの眼鏡野郎とどんな関係なんだ!」

「どんな? そうね……お友達、はありえない。仲間、かもしれないけどなんか違う。――あっ、あまり喋ったことないけどクラスが同じ人って感じの関係かな」

 凄む俺に怯みもせず、望月は自分がピッタリと思う言葉を見つけたことで華やかな笑顔を見せた。

「レージ、スヴェンって?」

「ほら、この前お前が吹き飛ばした首なしの人形に乗ってたやつだ」

「ああ、あいつね。あの時は鬱陶しかったわ」

 リーゼにとってはその程度の認識らしいな。渦の中心に自分がいることくらい自覚してほしいものだ。

「――ってちょっと待て! スヴェンはまだ生きてるのか!?」

「死にかけだったけど、王国(レグヌム)で治療したおかげで無事よ」

 王国……『混沌の闇』に喰われた望月を助けたっていうそれが、スヴェンをバックアップしていた組織だったってことか。これは、なんとしてでも望月を捕まえねえといけなくなったな。

「リーゼ、戦闘再開だ!」

「うん!」

 子供っぽく返事し、リーゼは両手の黒炎を弾丸にして投擲する。黒炎弾は寸分の狂いもなく望月と悪魔異獣の顔面目がけて飛んでいく。

「ふふっ」

 悪魔異獣の肩から飛び降りた望月が影刀二刀流でリーゼの黒炎弾を斬り裂き、軽やかに着地を決める。裂かれた黒炎弾は明後日の方向に飛んでいって虚しく破裂した。

「私一人にすら勝てないのに、私と智くんの二人を相手に戦えるって思ってるの?」

 パチン! と望月は指を鳴らした。するとそれを合図に智くん――悪魔異獣が動き出す。

 ワニのような大口を開け、そこへ〝影〟が収斂していく。

 アレは……ダンタリアンが使った魔力の波動のモーションに似ている。たぶん、光線状の〝影〟を噴射するぞ。

「リーゼ! あの怪物の口を狙え!」

 マヌケな魔王が思わぬ予習になったな。あの時のような失敗は二度とするかよ。

「口ね。面倒臭いから顔ごと吹っ飛ばすわ!」

 リーゼが大魔法陣から黒炎の奔流を放射する。しかし――

「智くんには指一本触れさせないわ」

 望月が〝影〟の円盤を構築して炎の流れを変えやがった。だったら俺が顎下から突き上げてや――

「なっ……体が、動かねえ……」

 走ろうとした俺だったが、まるで縛りつけられたかのように体が言うことを聞かない。

「! 〈束縛〉か」

 よく見れば、体のあちこちに〝影〟の糸が絡みついていた。糸の先は地面へと続いており、文字通り俺は地面に縫いつけられている形だ。この〝影〟……ピアノ線みたいに頑丈だな。

「あぐっ! なんなのよこれ!」

 悲鳴に視線をやると、リーゼも同じように動きを封じられていた。やられるまで気づかないとか、俺らって相当にアホだな。

「わんこさんはいらないから殺してもいいわ。でも〝魔帝〟さんは瀕死。できるわね?」

 悪魔異獣に優しく言い聞かせる望月。やばいぞこれ。本気で動けない。

「リーゼ! 炎で糸を切れ!」

「わかった」

「もう遅いわ」

 望月の残酷な一言。

 悪魔異獣の大口から放たれた〝影〟の波動砲が、怒涛となって迫りくる。位置からしてリーゼは掠る程度だが、俺は直撃を免れそうにない。

 畜生っ! 終わってたまるかよ!


「それが広瀬先輩だって? 望月先輩、ふざけないでくれよ面倒臭え」

「話は大方聞かせてもらったわ。悪いけど、あたしたちは元の枠に戻らせてもらうから」


 声がした。

 瞬間、〝影〟の波動砲に巨大な〝影〟の刃が衝突し、真っ二つに引き裂いた。

 割られた〝影〟の波動砲がそれぞれ俺とリーゼの脇を掠って遠ざかる。あ、危ねえ。

「アンタたち馬鹿でしょ? 影魔導師のフィールドで影魔導師と戦えるのは影魔導師だけなんだから」

 上空から投擲された複数本の影ナイフが、俺とリーゼを拘束していた糸だけを斬る。

 自由になった俺が声のした方を見ると――頼もしいやつらがそこにいた。

 漆黒の大剣を肩に担いだ迫間漣と、その横に黒翼を羽ばたかせて舞い降りた四条瑠美奈だ。

「漣くんに瑠美奈ちゃん、まさか先輩を敵に回すのかな?」

 酷薄な笑みを貼りつけて後輩を脅そうとする望月に、迫間と四条ははっきりと告げる。

「その通りよ、望月先輩」

「今の先輩は、どうやら俺らの知ってる先輩とは全然違うみたいだからな」

 あんな決着でも、迫間たちは自分たちの負けを認めたってことだ。過去に縛られた自分たちを、多勢とはいえ現在を預けた俺たちが討ち破ったのだから。

 なんだろうと、こいつらが味方についてくれるんなら百人力だ。

「ふふっ。あははははははははははははっ!」

 と、望月は堰を切ったように笑い出した。どこに笑いのツボがあったんだ?

「まあ、こうなるだろうとは思ってたのよねぇ。その通りよ。今の私は昔の――人間だった頃の私じゃないわ。ふふっ。そういうわけで、改めて私たちの敵さんに御挨拶をしてあげるわ」

 悪魔異獣の前に立った望月の雰囲気が、薄ら寒いものに変わる。

 いや、変わったのは雰囲気だけじゃないぞ。

「えっ!?」

「望月先輩の目が、赤く……」

 迫間と四条が驚きの声を上げる。それもそのはずだ。なんせ瞬きをした望月の両目が、影霊のそれと同じ血色に爛々と輝き始めたのだからな。

 俺とリーゼだって目を瞠っている。声も出ない。

 望月は一つ礼をし、いつもよりトーンを低くした口調で言う。


「はじめまして。私は王国(レグヌム)執行騎士(エクエス)が一人、〝影霊女帝〟望月絵理香よ」



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