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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第二巻
76/315

四章 暗黒の深部(5)

 割とすぐに目的地へ辿り着いてしまった。

 リーゼから充分に魔力を供給されてないが、着いてしまったものは仕方ない。今ある魔力なら五回は日本刀を生成できるし、このままやるしかないだろう。

「さっきのはビックリしたなぁ。やっぱり漣くんと瑠美奈ちゃんは負けちゃったのね」

 周りと一線を画するほど巨大な木、その太い枝に腰掛けていた黒セーラー服の女――ラスボス・望月絵理香に速攻で見つかっちまったしな。

 ここが歪震源か。望月が登っている巨大木を中心にドーナツ状に開けた広い空間だ。天気のいい日は弁当持参してピクニックに来ると最高なんだろうが、今はどこよりも濃い闇に支配されている。冥界という世界があるならこんな感じなのかもしれん。

 闇の源泉――『混沌の闇』の〝穴〟は望月のすぐ傍に開いている。複数に分かれた木の枝に包まれている感じだ。

 やはり、でかい。昼間見た『次元の門』には及ばないが、特徴的な楕円形の縦穴は五メートルくらいあるぞ。

「後輩惑わせて遊んでんじゃねえよ。てめえの本当の目的はなんだ?」

 すぐに動こうとしたリーゼに待ったをかけ、俺は単刀直入に訊ねた。迫間たちは望月のことを信じたいみたいだが、俺は端から疑ってかかるぜ。

「ふふっ。おっかしいなぁ。私、言ったと思うんだけどなぁ」

 こちらの神経を逆撫でするような声と態度。昼間に一瞬見せた顔が素顔なのだとしたら、こいつ一体何匹猫被ってんだ?

「広瀬とかいう恋人を助けるんだったか? それが嘘だってことはわかってんだよ。とっくに死んでるんだ、そいつは」

「死んでなんかないわ。だって、彼とコンタクト取れたもの。もうすぐこっちに来てくれるって。その時は監査局のわんこさんにも紹介してあげるわね」

「適当なことを」

 くえない態度の望月に、俺はいい加減嫌気が差していた。

 と、リーゼが俺のブレザーの袖を引っ張る。

「レージ、あんなやつもうやっちゃえばいいのよ」

「いや、リーゼ、それは気が早いぞ」

「それにここ、なんか気持悪い。わたしは早くあいつ燃やして帰りたいの」

 気持悪い。それは俺も感じていたことだ。

 歪みに〝穴〟に漏れ出す闇、どれもこれも吐き気がする。

 リーゼの言う通りだろう。時間に余裕ができたとはいえ、無限じゃないんだ。こいつは迫間たちみたいに口で説得したいわけじゃない。問答無用でぶん殴って、それから監査局で尋問すればいいんだ。

「ああ、わかったよ。さっさとあいつを捕まえるとしますか」


「ふふっ。じゃあ、私も彼が到着するまで退屈だから、少し遊んであげるわね」


 声は背後から聞こえた。

「「――ッ!?」」

 俺とリーゼは同時に飛び退きながら振り返る。〝影〟の転移をしてきた望月絵理香は、両の手にそれぞれ影刀を握っていた。

 望月は両腕を広げて身を捻り、片足を軸として回転。俺とリーゼの両方を斬りつける腹だ。

 リーゼは横に飛んでかわし、俺は即座に生成した日本刀で回転斬を受け止める。が――

「ふふっ」

「!?」

 影刀が、俺の日本刀を擦り抜けてきやがった。

 咄嗟に体を反らして回避するも、影刀の切っ先が俺の頬を掠った。血が滴る。すっぱりと横一文字に斬られたようだ。痛え。

「ちっ!」

 体を反らした勢いに任せ、俺は転がって望月から距離を取った。

 今の擦り抜け……一瞬見えたが、たぶん一度影刀の刃を〝影〟に戻して再構築したんだと思う。最初に俺と斬り合った時は手加減してたってことか。いや、今も本気とは思えない。まったく気にくわねえ女だ。

「お前はわたしが燃やすんだから!」

 上天にでかい黒魔法陣が展開した。

 轟!! とそこから一条の黒炎柱が落ちる。天の裁き、もといリーゼの裁きだ。

 かわせるほどの小さな範囲じゃない。転移なんてしている時間も当然ない。もらった! と思いたかったが、降りかかる黒炎を見上げる望月の表情から余裕は失われていなかった。

 望月は片方の影刀を天に翳し、輪を描く。すると空中に円盤状の黒い物体が出現し、リーゼの黒炎柱を受け止めた。負担を軽減するためか〝影〟の円盤は少し傾いており、黒炎は飛散せずに軌道を変えられている。

「こんな見切りやすい単調な技じゃ、私を捉えられないぞ」

 望月はもう片方の影刀の先をリーゼに向ける。瞬間、その影刀の刀身がぎゅうんと伸びた。

「!?」

 リーゼは紙一重でかわしたようだが、右肩を掠めたらしい。傷を手で押さえて望月を睨んでいる。

 伸びた刀身はそのまま消え去り、気づけば元の長さに戻っていた。望月は長さを戻した影刀とリーゼの黒炎を防ぎ切った影刀をクロスさせ、その場で振り払う。

 ゾクッとした悪寒。

「! リーゼ! 横に飛べ!」

 気づいた俺はリーゼにそう指示し、自分も大きくサイドステップした。すると俺とリーゼがそれぞれさっきまで立っていた場所に、正面からだと見えないくらい平べったい三日月状の〝影〟が凄まじい勢いで通り過ぎた。〝影〟の斬撃波ってとこか。

 なんて変幻自在なんだ。迫間や四条よりも〝影〟の操り方が断然うまい。これが本来の影魔導師の戦い方なのかもしれん。望月を見ていると迫間と四条は二人で一人前って気がしてならないぞ。

 だが――

「まだあいつらの方が強かったぜ!」

 俺は日本刀を居合風に構えて望月との距離を詰める。たとえ個人の戦闘力では望月の方が強くても、所詮は一人だ。息の合った二人組を相手にする方がよっぽど怖い。

「はっ!」

 一閃。横薙ぎに振るわれた日本刀が立ち込める闇を吹き払う。

「ふふっ、速い速い。でも遅い」

 バック転でかわした望月が意味のわからんことを言う。でもな、かわされるのは計算の内だ。

「今だリーゼ!」

 俺の合図でリーゼが黒炎の転移をして望月の眼前に出現する。そして目を剥く望月の顔面目がけて黒炎纏う拳を叩き込んだ。なかなか息が合うようになってきたな、俺とリーゼも。

 顔面の一撃は影刀で防がれたようだが、望月は衝撃に堪え切れず吹き飛んだ。そこへリーゼが追い打ちをかける。黒炎弾を容赦の欠片もなく撃ち込む。

 撃ち込む。撃ち込む。撃ち込む。まだ撃ち込む。

「り、リーゼ、そろそろやめような」

 いくら魔力還元術式で無制限に力を使えるからって、エネルギー弾の連射は相手の生存フラグだ。漫画だと。

「まだよ。こんなんじゃまだわたしの気がすまない! ぐちゃぐちゃにしてやるんだから!」

「いやいや、お嬢様の気がすんだら相手生きてないですか――ッ!?」

 リーゼの背後に闇が噴き上がるのを俺は見た。やっぱお約束通りかよ!

「後ろだリーゼ!」

「!」

 俺の声に気づいてリーゼが振り返る。それと同時に、間欠泉のように噴き上がる転移の闇から望月が現れ――なかった。

「残念ハズレ。後ろは後ろでもわんこさんの後ろでした♪」

 ザシュッ!

 生々しい音と共に、俺の背中に激痛が走った。生温かい液体が迸る。これは、俺の血か?

「レージ!?」

 リーゼの悲鳴。そうか、あっちの闇はフェイクだったんだ。本物は俺の背後かよ。油断した。

 くそう、痛い。痛いが…………まだ倒れるわけにはいかねえ!

「あら? まだ動けるんだ。浅かったかしら?」

 振り向き様の一閃を望月は難なくかわしやがった。そのままいずこへと転移する。

 背中が半端なく痛い。そして熱い。浅いだと? とんでもない。バッサリ行きやがって。反射的に体を前にずらしてなければバラバラ死体ができてたぞ。俺の。

 ダメだ。出血が止まるどころか溢れてやがる。体が弛緩してくる。倒れそうだ。

「レージ!?」

 リーゼが駆け寄ってくる。まだ覚悟はできてないけど、意識があるうちに言っとくか。死にたくねえし。

「リーゼ、黒炎で俺の背中の傷を焼いてくれ」

「え? いいの?」

 そこは少しくらい躊躇ってくれよ。まあリーゼらしいけど。

「ああ、そのくらいなら後から監査局の医療技術で治せるだろうから」

「うん、わかった」

「あ、でも、できれば優しくぎゃああああああああああああああああああああッ!?」

 傷を塞がないと死んでしまうとはいえ、早まった真似をしたかもしれない。途切れ途切れの意識の中で、俺は何度もそう後悔した。

「ふふっ、応急処置は終わったかしら?」

 いつの間にか突っ伏していた俺は見上げると、望月が再び巨大木の枝に腰掛けて楽しそうにこちらを見下していた。足をブラブラさせて……そんなに俺の悲鳴が面白かったか?

「はぁ、はぁ……どうして、邪魔しなかったんだ? 俺らを殺るチャンスだったろ?」

 立ち上がりながら、俺は望月に疑問をぶつける。

「わんこさんに智くんを紹介するって約束しちゃったでしょう。だからまだ死んでもらっちゃ困るんだよね」

 こっちとしては約束なんかした覚えないんだが、結果としては助かったってことだ。あの女のいつでも殺せるぞって態度はムカつくけどな。

「お前、降りてきなさいよ! それともそこで焼き殺されたいの?」

 黒炎を両手に構えたリーゼが吼える。が、望月はそんなリーゼを鼻で笑った。

「暇潰しは終わったのよ、チビっこい〝魔帝〟さん。ふふっ、じゃあ、着いたようだから約束通り紹介するわね」

 望月がそう言った次の瞬間、彼女の隣にある『混沌の闇』の〝穴〟に異変が起こった。

「なっ!?」

 俺は絶句した。突然、〝穴〟から丸太のように太い腕が二本生えてきたからだ。

 腕で〝穴〟の縁の空間をガシッと掴み、押し広げるようにして本体が出てくる。

「へえ」

 リーゼは感嘆の声を上げているが、俺はそんな好戦的な感情は抱けないぞ。

 ぶっとい二本の腕に、さらにぶっとい二本の足。全体的に筋肉質で凸凹した巨体は五メートルを優に超えてやがる。ワニのような頭部からはこれまたぶっとい角が前向きに突き出していて、目は爛々と輝く血色、口には鋭い牙がノコギリのように並んでいる。

 極めつけは、背中から生えた蝙蝠のような巨大な双翼と、ドラゴンのような長い尻尾だ。

 その姿はまさに、悪魔そのものじゃないか。

 望月は恍惚とした表情で言う。


「彼が、智くんよ。私の恋人。ステキでしょ?」


 ……嘘だろ?


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