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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第二巻
75/315

四章 暗黒の深部(4)

「面倒臭え、帰れないならずっとそこに貼りついてろ。――瑠美奈」

「ええ」

 迫間に応え、巨大な〝影〟の翼を折り畳むようにしている四条が一歩前に出る。

「悪く思わないことね」

 そう言って四条はその場を蹴って高く飛翔し、翼を大きく広げてホバリング。そして片翼ごとに四本ずつ、計八本の長剣を〝影〟から作り出し、羽ばたきと共に目下にいる俺とリーゼに向けて一斉投射した。

 ――殺られる!?

 と思っても体が言うことを聞かねえ。転がって避けることすらままならないとは、四条の黒い電撃は最初から麻痺効果のみを目的とした攻撃みたいだな。殺傷力が低いわけだ。

 小回りが利いて敵の動きを封じることに長けた四条に、隙は多いが広範囲高威力の技を持つ迫間。悔しいが、ベストチームって感じだな。お前ら。


 ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ!

 ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ!


 八本の〝影〟の長剣が突き刺さる。

 だが、痛くねえ……?

 疑問に思って見ると、長剣は確かに四本ずつ俺とリーゼに刺さっていた。

 ただし、衣服を地面に縫いつけるような形で、だ。

 人体を傷つけることなく服のみを狙ったってか? なんつう精密さだよ。リーゼのだぼだぼな黒衣はともかく、俺なんかそこまで余裕のないブレザーとズボンだぞ?

「なんの真似だ?」

 俺は地面に突っ伏したまま迫間を睨み上げる。

「言ったじゃねえか。そこに貼りついてろって。面倒臭いだろうが、望月先輩が本当に広瀬先輩を救い出すか、現実を知って諦めるまで辛抱してくれ」

「殺すつもりはないってことか?」

「殺す気で戦ったが、俺らだって本当に殺したいと思ってるわけじゃねえしな」

 ……甘いぜ、迫間。こんな程度の拘束、体さえ動けば簡単に解けるぞ。リーゼなんかは炎のコスチュームチェンジまでやれるしな。本気で縛りつけたけりゃ、四条に〝影〟の帯を使わせるべきだったんだ。

 まあ、たぶんわざとそうしたんだろうけど。

 なにかあった時、俺らが逃げやすいように。

「白峰、別にお前らがやらなくてもこの状況は俺らでなんとかする。命に代えてもな」

 踵を返す迫間。ボロボロになったコートが翻える。

「アンタたちは無様に地面に這い蹲ったまま見てるといいわ」

 舞い降りてきた四条も、黒翼を影に戻すようにして消した。

 終わりか?

 このままじゃ、俺らの負けだぞ?

「待ちなさいよ!」

 その時、リーゼが怒りの感情を込めた声で叫んだ。

「逃げるなんて許さないわ。わたしはお前たちを引っ捕まえるって決めてるの」

「だから、なによ?」

 四条が苛立たしげに振り返る。

「逃がさないって言ってるの! この〝魔帝〟で最強のわたしから逃げられるなんて思わないことね!」

 黒炎がリーゼの黒衣に灯り、一瞬にして燃やし尽くす。長剣の縛りから解放されたリーゼは、まだ痺れているだろう体を懸命に動かして堂々と立ち上がった。その時にはもう改めて黒衣を纏っていたが、少しだけ全裸だったってことだよな? あーいや、俺には暗くてヨクワカンナカッタケド。

 しゅぼっ、と俺を縫いつけていた四本の影剣が黒炎に包まれて焼失する。

「レージ、まだ立てるでしょ?」

 真剣な顔のリーゼ。……ああそうだ。忘れるとこだったが、俺はこのリーゼを連れて来たんだ。自分が楽しむためじゃないことで行動を起こそうとした、このリーゼを。

 心の深層でライバルと認めた四条を連れ戻すことが、このお嬢様の目的なんだったな(あとついでに迫間も)。

 俺はフッと微笑する。

「……当たり前だ」

 実はもう動けるくらいには痺れが取れている。クレイモアは消えちまったから杖代わりになる物は生成しないとないが、俺はあえてそのまま立ち上がった。杖をついてたら強がってるようにしか見えないからだ。

「まだやるわけ? 白峰、アンタもその子並に諦めが悪いわね」

 勝手に言ってろよ、四条。なにを言われようが俺は諦めない。負けたらお前たちに作った借りが返せないからな。

 とは言ったものの……どうするか。

 最終兵器ならある。横の〝魔帝〟様に全力で力を解放してもらうことだ。スヴェンの時みたいにな。だがそうすると、俺もあいつらも助からねえぞ。今回は誘波がいないんだ。

 そう思ったところで、狙ったかのように一陣の風が吹いた。すると俺の耳元で小さく声が響く。

『(レイちゃん、苦戦してますね)』

 誘波だ。声を風に乗せて送ってきたんだ。こちらからの音声は伝わらないため、俺は迫間たちに気取られないよう注意して耳を傾けるだけにする。幸い四条とリーゼが「なによ」「なんなのよ」って幼稚な舌戦を繰り広げているからな。少しなら大丈夫だ。

『(戦っている様子はここからでも微かに視認できました。影魔導師のフィールドで二人相手によく頑張ったと思います)』

 おい、なんだよその台詞。諦めろって言いたいのか?

 いや……

『(ですが、もう少しだけ頑張ってください。できればその辺りをもっと見通しよくしてくれると助かります)』

 やはりな。この誘波がそんな部下に優しい考えなんて持っているはずがない。

『(そうすれば、私たちが〝光〟を届けます。ではでは、頑張ってくださいねぇ)』

 それっきり誘波の声は聞こえなくなった。

 要は周りに残ってる木々を伐採しながら時間を稼げってことか。なにをする気かわからんが、了解だ。

「リーゼ、ちょっと伏せてろ」

「?」

 きょとりと小首を傾げるリーゼは、とりあえずといった様子で頭を抱えてしゃがんでくれた。聞き分けのいいお嬢様だ。どこぞの暴言メイドにも見習わせたいぜ。

「迫間! 四条! 死にたくなかったらお前らも避けろよ!」

「なにする気よ、白峰」

 警戒の色を濃くする四条に、俺は一言で告げる。

「こうする気だ!」


〈魔武具生成〉――〈黒き滅剣〉剣身拡張バージョン。


「「なっ!?」」

 驚愕する迫間と四条。そりゃそうだ。俺は残っていた全魔力を消費し、迫間が大剣を〝影〟の刃で巨大化させた状態を再現したんだからな。

 無論、俺はあいつの剣のことなんてこれっぽっちも理解していない。だからこいつはなんの能力もない見た目だけの超巨大な剣ってわけだ。

 そう、見た目だけ。こいつの重量は俺感覚で日本刀と変わらない。しかし強度と切れ味は込めた魔力量が物を言わせる。俺は普通に戦ってりゃそうそう底なんて尽かない量の魔力をリーゼから貰ってるからな。そこんとこはとんでもないぜ。

 身を捻る。

 両腕にありったけの力を込める。

 片足を軸として回転する。

 常人なら絶対に振れない三十メートルはある超巨大剣が、俺を中心に黒く染まった木々を薙ぎ倒していく。

 迫間たちは転移でかわしたようだ。それでいい。こいつを食らったら、いくらあいつらでもただでは済まないだろうから。

「要望通り、見晴らしを良くしてやったぜ、誘波」

 俺がそう独りごちた時、再び風が舞う。

『では行きます! レイちゃんたちは目を閉じてください!』

 なにをする気だと疑問に思ってる暇はなさそうだ。俺はニセ〈黒き滅剣〉を捨て、突然響いた誘波の声にキョロキョロしているリーゼの目を手で覆う。

「な、なにすんのよレージ!?」

「いいから、大人しくしてくれ」

 リーゼを宥めながら俺も目を閉じようとしたその時――


 太陽が瞬間移動でもしてきたような強烈な白光が、城旅館の方角から広がった。


 この光はまさか――セレスか? それと目を閉じる前に一瞬見えたが、レランジェの魔導電磁放射砲みたいなやつも混ざっていた気がする。

 なるほど、〝光〟を届けるってそのままじゃないか。なんかの比喩かと思ったぞ、俺は。

「ぐぁああああああああッ!?」「きゃぁああああああああッ!?」

 迫間と四条の絶叫が聞こえる。てか、目を閉じても視界が真っ白になるレベルの光だぞ? あいつら大丈夫か? 影魔導師は吸血鬼みたいに強い光に弱いんだ。

 この辺りの木を伐採させたのは、あいつらが隠れられる影をなくすためだろうが……やりすぎてないことを祈るしかない。

 光が止んだようなので目を開く。

 迫間たちは……無事のようだな。いや、死んではいないが無事ではなさそうだ。二人とも目を押さえて悶えている。

『レイちゃん、今です!』

 風に乗った誘波の声。なんか真剣勝負に水を差された感じで納得いかないが、確かにチャンスは今しかない。

 といっても、俺はもう魔力が尽きている。ついでに今の光で若干夜目が利かなくなってしまった。となれば――

「リーゼ、頼む」

「わかった」

 リーゼが駆ける。一鼓動の内に距離を詰め、右手を四条に、左手を迫間へと翳す。

 そして――

「燃えなさいっ!」

 両掌の前に小さな魔法陣を展開。射出された黒炎弾が迫間と四条を火達磨に変えて吹っ飛ばした。

 悲鳴も上げることなく転がった迫間と四条は、倒れた巨木に衝突して呻いた後、ピクリとも動かなくなる。

 心配になって駆け寄ってみると――二人とも気絶しているだけのようだ。リーゼが丁度いい具合に加減してくれたんだな。焼け焦げたコートは雑巾として再利用することすらできそうにないけれど……。

 とりあえずほっとし、俺は聞こえないと知りつつ二人に話しかける。

「悪いな、迫間、四条。俺たちの……現在(いま)の勝ちだ。ちょっと反則っぽかったが、元からルールなんてないしな。それに、ここにいない連中だって俺たちの仲間なんだ。大目に見てくれ」

 そこでまた、風が吹く。

『レイちゃん……意識のない人に話しかけるなんて恥ずかしいことがよくできますねぇ。台詞も臭いですし、私尊敬しちゃってもいいですか?』

「お前ホントは聞こえてるだろ!? こっちの音声も風で拾えるんだろ!?」

 だいたいおかしいと思ってたんだ。怪物・誘波の〈風話〉が一方通行だなんて中途半端すぎるってな。

『それはさておき、すぐに歪震源へ向かってください。望月絵理香ちゃんが不穏な動きを見せています』

 望月絵理香……そうだった、まだ終わりじゃないんだ。ラスボスが残ってやがる。にしても誘波、お前は敵にも『ちゃん』づけするんだな。緊張感失くすぞ。

『忠告しておきますと、これから先、私たちは今のような手助けはできません。もうわかっていると思いますが、さっきの光はセレスちゃんとレランジェちゃんが全力で放ってくれたものです。レランジェちゃんは魔力が枯渇寸前になっていますし、セレスちゃんは精神力を使い切って気を失っています。しばらく目覚めることはないでしょう』

 やっぱりセレスとレランジェだったか。帰ったら礼を言っとかないとな。

『ただ、そのおかげで侵蝕を少し押し返すことに成功しました。クロちゃんの負担も軽くなったので、時間的にも余裕が生じています。なのでレイちゃん、必ず彼女を止めてください』

「言われんでもわかっている」

 俺は気絶した四条を乱暴に揺り動かして起こそうとしているリーゼを見る。

「リーゼ、そいつらは後回しでいい。先にあの女をぶっ飛ばしに行くぞ」

「ん、わかった。あいつはわたしのレージを壊そうとしたから燃やさないと気がすまない!」

 再び赤い瞳に闘志を宿すリーゼ。手離された四条がゴチン! と巨木に後頭部をぶつけている。痛そうだ。そしていい加減に『わたしの』はやめてほしいなぁ。

『最後にお二人から伝言を預かっています』

 森の奥へ向かって進み始めた俺たちに、誘波がそう言ってくる。

『「マスターになにかあれば処刑安定です」とレランジェちゃん』

 あのポンコツはそれしか言えんのか?

『「零児、必ず勝って戻ってこい」とセレスちゃんが気を失う直前に呟いてました』

 それはたぶん伝言のつもりじゃないぞ! 本人に聞かれたら恥ずかしいことなんじゃないのか!

 ……でもまあ、どんな言葉であれ応援されると力が漲ってくるってもんだ。

 もうさっきのような反則は期待できない。俺らだけで始末をつけないとな。

 だけどその前に、やることがある。

「リーゼ、後でなんでも言うこと聞いてやるから魔力を分けてくれないか?」

「む、仕方ないわね。じゃあ帰ったらオンセン魔獣をお腹いっぱい食べさせてくれる?」

「温泉まんじゅうな」

 俺は苦笑しつつ、左手で隣を歩くリーゼの右手を握った。

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