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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第二巻
73/315

四章 暗黒の深部(2)

 ……誤算だった。

 いや、普通に考えればわかったことか。

 なにがって? 簡単なことだ。

「……見えねえな」

 真っ暗なんだよ、視界が。

 ライトアップされていた場所からいきなりこんな暗闇に飛び込んだんだ。加えて周り全てが黒一色に染まっちまってるもんだから、どこになにがあるのかすぐには把握できそうもないぞ。

 とにかく、まずは点呼を取ろうと思う。

「リーゼ、いるか?」

「ここにいるけど?」

 返事はすぐにあったが……どこだ? わからん。

 とりあえず声のした方に手を伸ばすと――むにっ。

「にぅ!?」

 ん? なんか奇妙な悲鳴が聞こえたな。あと小振りだけど柔らかくて弾力ある感触が布越しに伝わってゴブハァッ!?

「レージの馬鹿レージの馬鹿レージの馬鹿レージの馬鹿レージの馬鹿レージの馬鹿ぁッ!!」

「ぐふっ!? がふっ!? ま、待てリーゼ! 謝るから! なんか知らんけど謝るから連続顔面減り込みパンチはちょっと待ぶべはっ!?」

 これから敵と戦うかもしれんのに、なにゆえ俺味方に私刑(リンチ)されてんの?

「こ、今度やったら、も、燃やすわ」

 震えた声で言って、リーゼは俺を殴るのをやめてくれた。どうも俺は変なところを触ってしまったらしい。けど仕方ないだろ。リーゼも黒衣を纏ってるからかなり見えにくいんだよ。

 まあでも、その明るい金髪のおかげでまだマシだと思う。これから相手するだろうやつらなんて保護色もいいところだぜ。できれば、戦いたくないね。

 幸いなことと言えば、今日が快晴で満月に近いということだ。月明かりと星明かりのおかげで、目さえ暗闇に慣れれば戦えないこともない。

「いいか、リーゼ、少し時間を置いてから移動するぞ」

「なんで?」

「いやなんでって、お前も暗くて見えないだろ? 目が慣れるまで待つんだ」

「わたしは普通に見えるけど? レージは見えないの?」

 シルエットの動きでリーゼが小首を傾げたのがわかる。

「マジか。こんな暗闇の中で普通に見えるってどんだけ夜目が利くんだよ」

 そういや違うことなく俺の顔面を殴ってたな。まだ痛えし。

「ふふん、だってわたしは〝魔帝〟で最強よ?」

 あっ、今度は偉そうに控え目な胸を張ったぞ。俺もだいぶ暗さに慣れてきたようだな。

 どうやらリーゼを連れてきたのは人選ミスじゃなかったみたいだ。このお嬢様がなんの障害もなく暴れられるのなら、これほど頼もしい存在はそうはいない。

 ……ああ、わかってるさ。頼もしいのは間違いないが、リーゼの危険度はセレスよりも高い。だから釘を刺しておかないとな。

「リーゼ、これまで何度も言ってきたが、間違ってあいつらを殺したりするなよ?」

「それが〝ルール〟なんでしょ? わかってるわ」

「望月もだぞ。あいつには事情を全部吐かせてから迷惑かけた人たち全員に頭下げさせにゃならんからな」

「だからわかってるって。首から上を持って帰ればいいんでしょ?」

「晒し首!?」

 そこまでの謝罪は求めてねえよ! そしてお嬢様、あなたホントにわかってらっしゃいますよね? 今のはリーゼなりの冗談だと信じていいんですよね?

 とか思っている間にも、俺の目は順調に暗闇に適応していった。もう既にリーゼの表情がわかるくらいにはなっている。そろそろ動いてもよさそうだな。

 あいつらがいるのはこの奥――歪震源だ。俺とリーゼはより大きな歪みの気配を頼りに闇の森を突き進んでいく。

 今さらだが、誘波の風の加護は効果絶大だ。足下に立ち込める煙のような闇は俺とリーゼにだけ纏わりついてこない。それどころか闇の方から避けているようにすら見える。これなら俺たちが侵蝕されることもなさそうだ。

「……変だな」

 周囲に気を払いながら歩いているうちに、俺はある違和感を覚えた。


 あれだけいた異獣が、この辺りには一匹も見当たらないんだよ。


 RPGのダンジョンよろしく十歩くらい歩けばエンカウントするかと思っていたのに、なんか拍子抜けだな。全部城旅館の方へ流れたのだろうか? なんにしても余計な戦闘をしなくて済んだのはありがたい。

 だがその代わりに――――来るぞ!

「リーゼ!」

「うん!」

 俺とリーゼは目配せを交わしてバッと左右に飛び退いた。

 直後――ズシャァアアアンッ!!

 今まで俺たちがいた場所に、巨大な黒い壁が降ってきた。いや、直線状に木々を薙ぎ倒し、大地を抉ったそれは壁じゃない。〝影〟の刃だ。

 そして俺は、この技を知っている。

〝影〟の刃が闇に溶けるように先端から消えていく。風景と同色だから激しく見づらいが、それを目で追っていくと…………お出ましだ。

「よう、迫間に四条。お迎えの時間だぜ」

 あの一撃でずいぶんと良好になった視界の先に、マントに近い形状の黒ロングコートを羽織った男女が立っていた。

 迫間漣と四条瑠美奈。俺たちが必ず連れ戻さなければならないやつらだ。

 諸悪の根源の望月絵理香はいない。ということは、俺たちに後輩をぶつけてあいつは高みの見物と洒落込むつもりだな。気に食わねえ。

「白峰零児、やっぱり来たわね」

 リーゼ並にちっこい方――四条瑠美奈が預言者か探偵のような口調でそう言ってきた。

「その言い草だと、俺の予想もあながち間違いじゃなかったってわけか」

「どんな予想したのか知らないけど、アンタに言えばあたしたちを止めにくると思ってたわ」

「お前が侵蝕を恐れずに突入してくるかは賭けだったけどな。その侵蝕を防いでる力は誘波だろ?」

 漆黒の大剣を担ぐ迫間からはやる気のなさを感じない。大マジってことか。

「ったく、止めてほしかったんなら最初っから裏切ったりすんじゃねえよ。いい迷惑だ」

 向こうにその気があるのなら、こいつらの説得は案外簡単そうだ。あとは望月絵理香をどうにかしょっ引いて、この大規模侵蝕を終わらせればめでたしめでたし――

「止めてほしいとは思ってないわ。止められるなら止めてみなさいって意味よ」

 ――ってわけにはいかねえよな。やっぱり。

「くだくだとわけわかんないこと言ってないでわたしと戦いなさいよ!」

 ああ、挨拶代わりの一撃のせいか、いつものリーゼに戻ってやがる。瞳をあんなに好戦的に輝かせちゃってもう……ややこしくなる。

「ちょっと黙っててくださいねお嬢様。つまらないと思うが、まずはぐだぐだ話をさせてくれ」

 俺はムッとするリーゼを蚊帳の外に締め出しておいて、改めて迫間と四条を見やる。

「お前らの師匠が言ってたぞ。広瀬ってやつはもう助からないってな。過去の幻想に捕らわれてないで、さっさと諦めてくれると俺も苦労しなくて済むんだが?」

 俺はストレートに言葉をぶつける。オブラートに包んでいる余裕なんてないんだ。

「フン、そんなこと、あたしたちが理解してないとでも思ったの?」

「なんだと?」

 四条の意外な言葉に俺は困惑する。裏切りを告白された時はめちゃくちゃ希望を抱いてなかったか?

「広瀬先輩はもういない。望月先輩が生きてたから百パーセントそうとは信じたくはねえが、一応俺らだってわかってるつもりだ」

 迫間がどこか寂しげにそう告げた。ますますわけがわからん。

「じゃあ、お前らが望月に協力する理由ってなんなんだ!」

 詰問すると、迫間は言葉を纏めるように数秒瞑目し、そして口を開く。

「望月先輩が信じてるからだ。信じて、諦めてないから俺らは先輩に協力したいと思った」

「たとえ残酷な結果を叩きつけられても、それを先輩が受け入れられるようにあたしたちは傍にいてあげたいのよ」

 それがお前らの本心ってやつか。なるほど、先輩想いのいいやつらじゃないか。

 だが――

「あいつが嘘をついてるとしても、本当に協力できるのか?」

「どういうことよ?」

 四条が怪訝そうに訊いてくる。あの嘘までは知らないらしいな。

 俺は鷹羽が二年前から望月を追っていたことを告げる。すると、迫間と四条から息を呑む気配を感じた。それから二人は互いの顔を見合わし、すぐになにか思い当たる節を見つけたように俺へ向き直る。

「だとしても、俺らはあの人を手伝うぜ」

「その嘘は、きっとあたしたちに協力してほしい気持ちから出た方便だと思うから」

 都合よく解釈しやがって。

 この二人はどうしても望月=悪だとは考えたくないらしいな。まったく面倒極まりない。少しは疑問くらい持てよと言いたいね、俺は。

「あーくそっ、もう回りくどい問答はやめだ。単刀直入に訊く。お前らを改心させるにはどうすりゃいい?」

「レージ、なに言ってんのよ。そんなの倒せばいいだけじゃない」

「俺はなるべく穏便に済ませたいんだよ、リーゼ」

 そりゃあ、ぶん殴って引きずり帰って鷹羽の前にでも放り出せば後は勝手になんとかしてくれるかもしれん。だがな、ここはあいつらの土俵だ。そう易々と勝てるなんて言えないんだよ。

「その子の言う通りよ、白峰」

 四条がリーゼを肯定した。

「あたしたちを止めたければ、アンタたちが戦って勝つことね」

「悪ぃな、白峰。過去か現在(いま)かの二択だったんだ。どちらも捨てられない想いだ。だから俺らは過去を選び、現在をお前に預けた。今さらなにもなくそっちに鞍替えはできない」

「つーか勝手に預けるな。俺はそれを突き返しに来たんだよ」

「だったら面倒でも戦ってくれ。これは俺たちの今後を決める戦いでもあるんだ」

 ダメだ。こいつらはもうなにを言っても聞く耳を持たない。

 戦るしかねえってことかよ。仕方ねえな。

「わかったよ。俺に喧嘩売ったこと、あとで後悔しても知らねえぞ?」

 元より戦う覚悟はできていた。でないとわざわざこんな場所へ飛び込んだりはしないさ。

「やっていいのね、レージ」

 身構える俺を見て、リーゼも掌に黒炎を宿して臨戦態勢を取った。

 対する迫間は大剣を中段に構え、四条はその小さな背中に巨大な黒翼を出現させる。二人の殺気がここまで伝わってくる。

「言っとくけど、殺すつもりで来なさい。じゃないとアンタたちが死ぬわよ」

「俺らも、手加減するつもりはねえからな」


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