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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第二巻
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二章 温泉と異変(6)

 空は次第に暗くなってきている。

 それに伴い、スパリゾート内にも影が広がり始めていた。

 太い幹が複数複雑に絡みついた熱帯樹――『カジュマル』というらしい――の前で、俺は影魔導師の迫間漣と対峙していた。

「どういうことなんだ? お前、一昨日辺りから学校にも来てなかったよな。任務ってのは温泉地で保養活動することだったのか?」

 皮肉混じりに軽く問い詰めると、迫間はこれ以上ないくらい面倒そうに後頭部をガリガリと掻いた。どうでもいいが、コートの下が黒のトランクス水着一丁というのはスパ内だろうと変質者にしか見えん。

「保養活動ねぇ……面倒臭いからそれでいいや」

「よくないっ!」

 バチィン!! と迫間の背中から景気のよい音が鳴り響いた。背後から強烈な平手打ちを食らった迫間は弓反になって奇声を上げている。……アレは痛そうだ。

「る、瑠美奈、いちいち引っ叩くなよ。痛いじゃねえか」

「漣がテキトーなのが悪いんでしょ!」

 迫間を張り倒したのは小柄で黒髪の少女――四条瑠美奈だ。迫間がいるならと思ったら案の定出てきやがった。ホント、光があれば影があるようにいつでもペアだな。この二人はどちらも影だけど。

 四条は長く艶やかな黒髪を頭の上で団子状に纏めていた。どこぞのネズミのマスコットを彷彿とさせる髪型だな。それに迫間と同じくこんな場所でも黒コートを羽織っている。コートの下は無論水着で、お前ら色の趣味まで同じかよとツッコミたくなる黒いビキニだった。雪国の人ですかってくらい肌が白いから、そのコントラストが非情に目立つ。白黒テレビから抜け出してきたみたいだ。

 いや、それにしても……

「なによ? なに見てんのよ?」

 俺の視線に気づいた四条がガンを飛ばしてくる。彼女の睥睨に気圧されたわけじゃないが、俺はついつい思ったことを口走ってしまった。

「四条、お前ってさ、意外と胸あるんだな」

「なッ!?」

 背丈はリーゼとそう変わらないはずなのに、四条のそれはいっそアンバランスに思えるほど立派だった。まさかそんな言葉が返ってくるとは考えもしなかったのか、絶句した四条は自分自身を抱き締めるように腕をクロスさせて後じさる。心なし顔が赤い。

 迫間がケラケラと笑う。

「だろ。こいつは隠れ巨乳なんだよ。ちっこいくせにな」

「だよなぁ。俺も前々から高校生とは思えんちっこさだと……」

 迫間に釣られる形で本音を漏らしたことを、俺は言葉の途中で後悔した。


「ち、ちっこい言うな! アンタら死刑よ死刑っ!!」


 相貌を赤鬼へと変化させた四条に、俺と迫間はすぐそこにあった水風呂へ蹴り落された。つ、冷てえ! 準備もなしに突然冷水に叩き込まれた俺たちは慌てて這い上がろうとする。

 が――

「誰が出てもいいって言った?」

 額に青筋を浮かべ、引き攣った笑みでこちらを見下す四条瑠美奈さんが、両手に〝影〟の帯を構えて仁王立ちしていた。……勘弁してください。


 簀巻きにされて水風呂に沈められた俺たちは危うく溺死するところだった。

「で? なんでヘンタイ・ザ・白峰たちがここにいるのよ?」

 猫のように大きく吊り上がった目に険を宿し、四条が床に伏す俺を睨んでくる。その質問は俺が先にしたはずなんだが。あとヘンタイ・ザ・白峰ってなんぞ?

「げほっ……旅行だよ。偶然、たまたま、ここへ来たんだ」

 俺は少々むせ返りながらここにいる理由を掻い摘んで説明した。誘波の突発的な企画だと教えると、迫間と四条は妙に納得した表情になる。

「妙な偶然もあったものね」

「偶然だったらまだ面倒臭くはないんだがな」

 水を吸ったコートを絞りながら迫間が意味深なことを呟いた。本当のところ、俺も迫間と同じ気分だ。また誘波に大事な部分を無意味に秘匿されているような気がしてならない。

「それはそうと、迫間先輩と四条先輩はデートなん?」

 興味津々といった様子で稲葉レトが訊いた。ボーイッシュな顔にニヤニヤとした意地の悪い笑みが貼りついている。てかお前、いたんなら俺に代わって説明してくれてもよかったのに。

「で、デート!? 違うわよっ! 誰がこんな面倒臭がり屋なんかと!」

「そうだぜ稲葉。考えてもみろ、俺がそんな面倒臭いことすると思うか? よりにもよってこんなちんちくりんとぐがはぁッ!?」

 一言多い迫間は四条に向う脛――弁慶の泣き所を思いっ切り蹴られて蹲った。こいつらわざと夫婦漫才やってるんじゃないかと時々思う。

「ニヒヒ、そない照れんでええやん。先輩たちの仲はウチもよー知っとるで」

 そりゃあ、学校でも公認のカップルみたいなもんだしな。本人たちは否定しているが。

「ほんならウチは邪魔んならんよう消えとくわ。せや、あそこで目ぇ回しとる部長も連れてかんとな。白峰先輩もほどほどにしときや」

「だから違うわよ! ――って、聞いてないし」

 余計な空気を読んだ稲葉は、幸せそうに気絶している桜居を引きずりつつ駆け足で立ち去っていった。俺はなにをほどほどにすればいいんだ?

「デートじゃなければ、本当はなんなんだ?」

 弁明くらい聞いてやろうかという気持ちで問うと、四条はなにやらムキになって振り返った。

「仕事よ! 言っとくけど、アンタたちみたいな保養目的じゃないんだからね!」

「仕事っつっても、影魔導師の方な」

 迫間が微妙に捕捉説明する。それだけで俺は大体の事情を察した。異界監査局とは別に、影魔導師には影魔導師の組織があると聞いている。詳細は知らないが、俺たちとは関係のない仕事をこの二人は請け負っているのだろう。

 なんだろうと、関係ないなら無理に関わる必要はない。昔から触らぬ神に崇りなしって言うだろ。

「そいつは御苦労様だな。んじゃ、俺はこれで」

 踵を返して辞去しようとした俺の手首を、「待ちなさい」と四条が掴んできた。

「丁度いいから、アンタちょっと手伝いなさいよ」

「はい?」

 思わぬ白刃の矢に、俺は目を点にして首だけ振り返った。え? なに? 俺ってもう神に触っちゃった感じ?

「おいおい、いいのかよ瑠美奈。白峰は影魔導師じゃねえんだぞ」

 そうだ迫間言ってやれ。俺は影魔導師じゃなくて異界監査官、それも今は休暇中だ。

「大丈夫よ。〈封緘(スィール)〉の内部に入れなければいいし、やることは〈縫合(スティッチ)〉だけだから。それに師匠がどっか行っちゃったから誰かにやってもらわないと困るじゃない」

「師匠……ハハハ、あのクソ面倒臭えオヤジめ。俺たちを仕事に誘ったのは、俺たちに仕事投げつけて自分だけ遊ぶつもりだったんだ。手伝ってくれたのは初日だけだったもんなぁ」

 なんか迫間が死んだ魚のような目であらぬ虚空を見詰めている。どうしたんだ? 師匠って誰だ?

「すまん、白峰! 今回だけでいい。簡単だから手伝ってくれ」

 拝み倒すように両手を合わせて平身低頭する迫間。一体なにが彼をそこまでさせるのかと俺は少し狼狽する。そんなにされると突っ張れないじゃないか。

「手伝えって言われてもな。どうする、リーゼ? あまり面白そうなことにはなりそうにな――あれ?」

 振り向けど、そこに求める金髪赤眼の少女の姿はなかった。

「ああ、〝魔帝〟だっけ? あの子とメイドならシビレを切らしたように回流の浴槽に飛び込んでたわよ」

 静かだと思ったら、どうりで……。


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