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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第二巻
48/315

一章 二人の影魔導師(4)

次元の門プレナーゲート』ってのは、数多ある異世界の一つとランダムで繋がってしまう歪みのことだ。俺たち異界監査官の仕事の一つに、その『次元の門』の出現から消滅までを監視することがある。

 というのも、こんな街中だと滅多にないことだが、監査局の対応が遅れる過疎地なんかでは人間や動物が知らずに門をくぐって異世界へ飛ばされることがあるからだ。一般には神隠しって呼ばれているやつだな。

 そしてもう一つ。つまりはその逆だ。異世界からこちらの世界になにかが迷い込んでくることだってある。その辺の対応を現地で行うのが、戦闘能力の高い俺ら異界監査官ってわけだ。


 今回の『次元の門』が開いた場所は、閑静な住宅街にぽっかり穿たれている空き地だった。広々としたその空間は整備が丁寧に行き届いており、無駄な雑草などはほとんどない。なんでも近々公園になるとか。

「あっ」

 俺たちが現場に到着した時には、既に先客がいた。

 リーゼが嫌そうな顔をする。先客は、学園の制服の上から肩当て・胸当て・ガントレット・白マントを装備している騎士然とした少女だった。武装していてもわかるグラビアアイドル顔負けのプロポーション。輝かんばかりの銀色のポニーテールをふさっと揺らし、彼女はこちらに振り返る。

「ようやく来たか。遅いぞ、零児」

 腕を組み、女騎士――セレスは透き通るような声音で凛と言い放った。

「援軍ってのはやっぱりお前だったのか、セレス」

「なんだ、零児? 私だと不服なのか?」

「いや、そんなことはないさ。寧ろお前で安心したところだ。頼りにしてるぜ」

 微笑んだ俺が本心からそう言うと、セレスはなぜか頬を紅潮させて視線を外した。「そうか、頼りにしてくれているのか」と小声で呟いている。きっと騎士として誰かに頼られるのは悪い気がしないのだろう。

「ところで」

 とセレスが再び視線を合わせてくる。彼女の翠眼には呆れの色が混じっていた。

「〝魔帝〟たちは一体なにをやっているんだ?」

 言われて俺は体ごと後ろを向いた。


「おねえさま、仕事なんてあの人たちに任せてマルファと楽しいことをするユゥ」

「ぬ、ぬるぬる……いやぁ……」

「マスターから離れなさい下等魔獣! それ以上マスターに無礼を働くと焼殺安定です!」

「マルファの愛は何者にも妨げられないユゥ。こうしておねえさまにくっつくと力が漲ってくるように気持ちがいいユゥ。おねえさまもきっと同じ気持ちユゥ」

「……あうぅ……や……ぅ」

「!? マスターの魔力が奪われています。魔導電磁放射砲は不安定ですし、こうなればこのレランジェが力づくにでも――」


 髪の毛や手足を粘体化させてリーゼに絡みつくマルファを、レランジェが必死に引き剥がそうとしている光景が繰り広げられていた。ピンク色のスライムに絡みつかれ、涙目の顔を赤くして脱力しているリーゼはなんともエロい。このまま見ていたい――じゃなくて、放っておけば視聴年齢制限が跳ね上がりそうな行為を先輩監査官として見過ごすわけにはいかない。

「マルファ、そろそろやめてやれ。あんまりしつこいと嫌われるぞ?」

 てかリーゼの理性が飛んだらまたこの辺り一帯が焼原と化してしまう。それだけは勘弁してもらいたい。

 だがマルファは俺の言葉なんてガン無視。この脳味噌ドロドロのスライム女め。

 そのままマルファは現状を維持し続けていたが、

「もう……やめて……」

 リーゼが弱々しく、しかしはっきりと拒絶の意思を示したためにショックを受けた表情になる。

「……むう、わかったユゥ。マルファもおねえさまに嫌われたくはないユゥ」

 渋々とマルファはリーゼから離れた。とっくに嫌われてるけどね。

 完全に弛緩して息を切らしているリーゼをレランジェが優しく抱き留める。ホント、スライムに負ける魔王ってどうなんだろ? 

 と、一連の様子を窺っていたセレスが思案顔でぶつぶつとなにかを言っていた。

「なるほど。あの者が〝魔帝〟の弱点なのだな……これは使える」

「待てセレス! お前なんか物騒なこと考えてないか?」

「いや、気にするな。それよりも気持ちを切り替えろ。来るぞ」

 セレスが向きを変え、腰に提げた槍のように長い剣――聖剣ラハイアンの柄を握る。いろいろと言及したいこともあるが、後回しだ。俺もいつ戦闘になってもいいように身構える。

 眼前の空間がはっきりと視認できるほどに歪んだ。その奥から生命の気配を感じる。

 一つじゃない。多数の気配がこちら側へ迷いなく突き進んできている。

 緊張が走る。こんなこと、今までになかった。

「おいおい」

 冷や汗が滴る。誘波は少々厄介とか言っていたけど、これは少々なんてものじゃないぜ。


 武者のような鎧を纏った魑魅魍魎が、大群を成して現れたのだ。


 さながら百鬼夜行を彷彿とさせる怪物たちで空き地が埋まる。

 その中の、大群の将と思われる頭部に三本の角を生やした巨人が俺たちを見下して口を開く。


「我は魔王ダンタリアン。今よりこの世界を我が支配下とする」


 はぁ? と俺はついつい素っ頓狂な声を上げてしまった。

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