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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第二巻
47/314

一章 二人の影魔導師(3)

 補習の疲れなどふっ消えた俺は玄関を飛び出して声のした方角へと駆けた。後ろからはレランジェが心なし焦燥とした面持ちでついてきている。

 リーゼに魂を捧げているこのメイド人形は、たぶん俺なんかよりも深く主人の身を案じているに違いない。

 夕闇の中、俺たちは住宅街の角を一つ二つ曲がり、今もなお聞こえ続ける悲鳴と魔力の気配を頼りに追っていく。追うってことは、向こうも移動しているってことだ。リーゼの魔力に圧倒されて気づきにくいが、確かに彼女とは違った力を俺は感じていた。

 あの〝魔帝〟リーゼロッテが何者かから逃げている。

 それがわかった時、俺は思うべきだったのかもしれない。ありえない、と。


 何度目かの角を曲がったところで行き止まりに辿り着いた。そこに、学園の制服を着た小柄な金髪少女が追い詰められていた。

「アレは……?」

 リーゼを追い詰めているやつは、彼女よりも小さな女の子だった。左右で結わえている桃色がかったブロンドの髪が、まるで生き物のようにゆらゆらとうねっている。

 異獣か? いや、異世界の生命体には違いないだろうが、そうと決めるのは早すぎる。そもそも異世界から来訪者があったなんて報告は受けていない。もしそうなら一人以上の監査官が動いているはずだ。リーゼも監査官として登録はされているが、見習いは担当する先輩と共に任務にあたることになっている。つまり、俺。

 なんにしても、敵がスヴェンの仲間だった場合が最悪の展開だ。

「レージ! レランジェ!」

 こちらに気づいたリーゼが歓喜の声を上げる。彼女は眼尻に薄らと涙を浮かべていた。あいつ、泣いてんのか?

「マスターを泣かせるとは、処刑安定ですね」

 レランジェの翳した細腕がパカリと四方に開く。バチィ! と青白いスパークが弾けたかと思うと、光線状のプラズマが大気を引き裂くように射出された。

「――!?」

 ピンク髪の女の子が攻撃に気がついた時には既に遅く、レランジェの右腕に内蔵された兵器――魔導電磁放射砲は小さな体に直撃し、大爆発を引き起こす。なんか威力上がってないか? そういえばレベルアップしたとか言ってたな。

 うん、感心している場合じゃないことくらいわかってるさ。

「いくらなんでもやり過ぎだレランジェ! 少しは状況を見極めてから行動しろよ!」

「マスターがピンチでした。判断を下す理由はそれだけで安定です」

「てめえは……」

 淡々と答えるレランジェに俺は怒りを覚えずにはいられなかった。相手が〝人〟だろうが異獣だろうが、滅多矢鱈に殺していいわけがない。まったく、このポンコツ人形はマスターのことになると容赦の欠片もないから始末に負えない。

「レージ!」

 爆煙を駆け抜けてきたリーゼがボディチャージで俺に抱き着いてきた。鳩尾に頭がクリティカルヒットして「ぐふぅ」と大ダメージを受ける俺だったが、か弱い少女のように顔を埋めてくるリーゼを見ると、そんな痛みなど忘れて思わず頭を撫でてやりたくなるな。

「マスター、そんなゴミ虫様と密着されては黴菌が移ってしまいます。不安定です」

「お前いい加減に壊すぞ!」

 とか突っ込みながらも、俺は衝動に負けてリーゼの金細工のように細い金髪をしっかりと撫で下ろしていた。にしてもなんて手触りの素晴らしい髪だ。俺と同じシャンプーを使っているはずなのに匂いもいい意味で全然違う。セレスもこんな感じなのだろうか?

 髪を撫で続けていると、リーゼは落ち着いたのか自ら身を引いた。なんか隣で「チッ! やはりゴミ虫様はこの場で処理安定でしょうか」とかいう恐ろしい囁きが聞こえた気がする。

「マスター、レランジェは一つお聞きしたいことがあります。マスターはどうしてあの者から逃げていたのですか? それほど驚異的な存在とは思えませんでしたが」

 そうだ。レランジェの質問で頭の片隅で感じていた疑問が鮮明になった。暴虐的な強さを持った〝魔帝〟が、あんなひ弱そうな少女に一方的に追いやられるなんて俺にも考えられない。

 リーゼは僅かに滲んでいた涙を制服の袖で拭き、いつもの絶対的な自信をルビーレッドの瞳に取り戻さないまま口を開く。

「わかんないわよ。あいつを見たら体が急に寒くなって、逃げなきゃいけないって思って」

 抵抗する気力を奪われるほどの恐怖を、あの女の子に感じたってことか? 戦闘民族のように好戦的なこのリーゼが?

 いや、思い当たる節はある。


「おねえさま、おねえさま、別にマルファから逃げる必要なんてないんだユゥ」


 甘えた子供っぽい高めの声に俺たちは振り返った。

 煙が尾を引きながら風に流されていく。

 すると、ピンク色をしたゼリー状のドームがそこに出現した。半透明のそれの中に、例の少女が立っているのが見える。さらに注意して観察すると、ドームと化しているゼリー状の物体は、少女の髪の毛が変形して形成されているものだとわかった。

「わたしは、マルファは、ただおねえさまのことが大好きなだけユゥ。酷いことなんてしないユゥ」

 ドームが質量を縮めて掃除機のコードを収納するように元のツインテールへと戻る。マルファと名乗った女の子は、満面の笑みを浮かべてリーゼに熱っぽい視線を向けた。リーゼはビクンと肩を震わせて小動物が怯えるように俺の背中に隠れる。

「まだ生きているようですね。今度こそ息の根を止める安定です」

「待て、レランジェ」

 魔導電磁放射砲の第二撃を構えようとするレランジェを俺は手で制した。

 あの女の子が首から提げているネックレスには見覚えがある。俺やリーゼ、レランジェも所持している異界監査局から支給された意思疎通アイテム――〈言意の調べ〉だ。となると、彼女の正体も自ずと知れるな。

「お前、あのスライムか?」

「そうだユゥ」

 コクリとマルファは頷いた。やっぱりか。こいつは先日、異世界から迷い込んできた〝人〟だ。正体はスライムだけど、俺らの定義では一定以上の意思を持っていれば〝人〟になる。喋れないし、いきなり襲ってきたので初めは異獣かと思って一悶着あったりもした。

 リーゼが逃げ出したくなるのも無理はない。この魔帝様はぬるネバしたものが大嫌いでいらっしゃる。人の形をしていても、刻まれたトラウマが拒否反応を示したんだ。

「お前たちのことも聞いてるユゥ。レイジに、レランジェだユゥ」

 一人ずつ指を差しながらマルファは名前を言ってみせた。それにしても妙な語尾だな。

「なるほど、マスターを散々苦しめた例の不定形魔獣ですか。やはり排除安定ですね」

「お前はもう黙ってろよ! どうせ戦ってもあいつにダメージなんて与えられねえんだから」

 言うと、レランジェは理解してくれたらしく大きな舌打ちを残して一歩下がった。

 俺は改めてスライム――マルファと向き合う。

「人型になってるってことは、人化の魔導具でも使ってんのか?」

「そんなもの必要ないユゥ。マルファは自由自在に姿を変えることができるユゥ。ようやくこの姿で言葉をうまく発せられるようになったから、まずはおねえさまに挨拶に来たユゥ」

「来なくていいわよ、お前なんか!」リーゼがひょこっと俺の背中から顔を出し、「そ、それに、わたしにお前みたいな妹なんていないわよっ!」

「まあ、リーゼが『お姉様』ってのもなんか変な響きだしな。もっと普通に呼んでやれよ」

 俺が率直な意見を述べると、マルファはキョトンと首を傾げる。

「愛する同性はそう呼ぶものだと聞いたユゥ」

「いや間違ってるからそれ。ていうかなんでリーゼを慕ってんだ?」

「おねえさまに初めて会った時、全身が燃え上がるような感覚に襲われたユゥ。あんな感覚は初めてだったユゥ。そしてそれが『恋』というものだと――」

「実際に燃やされていたからな! 間違っても『恋』じゃない!」

「――イザナミが言っていたユゥ」

「あいつはもう絞め殺してもいいからなっ!?」

 他人で遊ぶことが趣味の着物怪人とは今度腰を据えて話し合う必要がありそうだな。否、話し合いだけじゃやつは反省しない。いっそ監査局の総括に話を通して、トイレの清掃員くらいの地位まで降格させるしか……。


 Prrrrr! Prrrrr! Prrrrr!


 その時、ポケットの中で微振動する携帯電話が着信を報せた。

『どもども~、巷で噂の誘波ちゃんですよぅ♪ 絞殺なんて返り討ちです』

「てめえどこで聞き耳立ててやがった!?」

『なにを言っているんですか、レイちゃん。そんなことしてませんよぅ。私は今日一日中監査局にいたというアリバイがあります』

 いきなり電話してきたおっとり口調の女は、法界院誘波。いつも天女みたいな十二単を纏っている変態で、日本異界監査局の局長でもある。つまり、悲しいことに俺の上司ってことだ。呼ばれる度に背中が痒くなるあだ名は何度抗議しても直してくれやしない。

『マルファちゃんの自己紹介も終わったようですし、要件を言いますね』

「おいコラ、やっぱり聞いてたんじゃねえか!」

『レイちゃんたちの近くに「次元の門」が開きました。場所は――言わなくてもわかりますね。その位置からだったら感知できるはずです』

 見事にスルーされた。マルファのこともあって気づくのが遅れたが、確かに門の気配を感じる。それほど遠くないが、これ以上誘波のアホに付き合っている暇はなさそうだな。

「一般人の避難は?」

『それなら問題ありません。歪みを事前に観測していたので、既に人払いは完了しています』

 納得。だからレランジェが魔導電磁放射砲をぶっ放しても騒ぎになっていないわけだ。

『どうやら今回は少々厄介そうです。なので念のために援軍を送りますね』

 そう言うと誘波は通話を切った。なんか気になることを口にしていたが……俺は周囲を見回す。

 俺、リーゼ、レランジェ、あと一応マルファもカウントしとくか。この面子なら大抵のことなら乗り切れるだろう。ただ、やり過ぎてしまうことだけが不安ではあるがな。


 お知らせがあります。



 明日から三日ほど更新できないと思います。




 卒業旅行で九州行ってくるから!!ε====┏( ≧∇≦)┛イエーイ  |地獄巡り→|


↓卒業旅行記

http://ncode.syosetu.com/n4489r/

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