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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第一巻
43/314

終章

「はい。というわけで皆さん無事でしたぁ!」

 パチパチパチ、と演劇が終わったように拍手をするニッコニコの着物少女。俺はそんな彼女にアルプスの雪山くらい真っ白な視線を向ける。

「おいコラ、なにが『というわけで』だ。俺はたった今起きたばかりで説明なんて一切受けてねえぞ」

 ていうか、ここは誘波の屋敷か? 全体的に和風の畳部屋だが、その辺にマンガや携帯ゲーム機が散乱しているから十中八九そうだろう。なんで目が覚めたらこいつん家なんだ? 俺の家は? ……ああ、そういえば跡形もなく消し飛んだんだっけ。

 俺の家、もうない。

 俺の家……。

 俺の……。

 泣いていいかな?

「レイちゃんの泣き顔は是非見てみたいです♪」

 とりあえず腹いせに畳の上に転がっていたマンガ本を破り捨てた。

「ああああああっ!? なにするんですかレイちゃんそれ作家さんのサインが書いてある貴重なものなんですよ!?」

 貴重なら無造作に放置しとくなよ。つーか心読むな。

 俺は「うぅ、ネットオークションにまだあればいいのですが」と涙を流して紙片を拾い集めている誘波に問う。

「で、あの後はどうなったんだ? なんで俺は助かったんだ?」

「ふんです。酷いことするレイちゃんには教えてあげません」

「おっとここにもう一冊」

「私が風の結界でリーゼちゃんの爆炎爆発から皆さんを守ったのです。そして気を失った皆さんをここまで運んだのです。レイちゃんは大体半日くらい寝ていました」

 まあ、予想通りだな。それよりも後処理の方が聞きたいわけで。

「さあ、人質を解放してください」

 伸びてくる誘波の手を跳ね除ける。

「まだ俺の質問は終わってない」

「うー、レイちゃんのターンはいつまで続くのでしょうか」

 なんだよターンって。

「スヴェンはどうなった?」

「流石にスヴェンちゃんまでガードする余裕はありませんでした。恐らく爆発に巻き込まれてロボ軍団共々灰も残らず焼失したと思います」

「なんか曖昧だな」

「死体がありませんので」

 まあ、アレで助かるのは神か誘波か人外のなにかくらいだ。あのスライムも今度こそ昇天したことだろう。

「そうそう、スヴェンちゃんのお仲間を拷問……ではなく取り調べた結果、彼らの隠れ研究所の場所が明らかになりました。どうやらそこで魔力吸引機やデュラハン等を開発・製造していたみたいですね。ああ、安心してください。残党と研究所の殲滅は他の監査官が終わらせてくれたので、レイちゃんに働けなんて酷なこと言いませんよぅ」

 ひょいひょい、と両手を差し出す誘波。マンガ本を返せということだろう。仕方なく渡してやった。

「でも、まだまだ問題点はあります。スヴェンちゃんたちだけであれほどの設備を用意できるとは思えません。あの数のデュラハンもそうです。資金面や労働力的にも監査局に隠れて製造できるはずがありません」

「誰かがやつらに支援していた、と?」

 誘波はこくりと頷く。言われてみれば、確かに疑問だ。

「それこそ捕まえたやつらを拷問すりゃいいだろ」

「いえ、それが彼らは本当に知らないようで。どうやらスヴェンちゃん一人で支援者と遣り取りしていたようです」

 仲間を仲間と思わない、本性を曝け出したスヴェンはそんな男だった。文字通り蒸発してしまったのが非常に痛いところだ。

「監査局に敵対しているわけですからね。世界各地の監査局と協力して全力で調べるつもりです」

 それなら判明するのも時間の問題だろう。そういうわけで、俺は話を変える。

「それはそれでいいとして。これが一番気になっていたんだが、俺ん家の周辺は今どんな状況になってるんだ?」

「もちろん、一面焼け野原です♪」

 想像するだけで頭を抱えたくなった。

「でも問題はありません」

「は? どういうことだ?」

「異界監査局が総力を挙げて修復しているので、遅くても一週間以内には元に戻してみせます。それまでは〈現の幻想〉でなんとか誤魔化せるでしょう」

〈現の幻想〉とは異界監査局が最近開発した〝質量ある幻〟を発生させる装置だ。限りなく本物に近いが、幻は幻だ。いつかは違和感に気づく。それにあれほど大規模だと長時間維持することはできない。一週間はそれらのリミットと言ったところか。

「ちなみに隔離結界のおかげで一般人の被害者ゼロです。安心しましたか?」

「まったく、無茶苦茶だな」

 誤魔化し方が些か強引すぎると思うが、俺は安心していた。

「もうよろしいですか、レイちゃん?」

「ん? ああ」

「じゃあ、行きましょう。皆さんきっと待ってはくれませんよ」

「は? どこに?」

 その疑問には答えず、誘波は無理矢理に俺の手を引っ張っていく。てか、昨日あれだけボロボロだったのに、体の痛みはほとんどない。監査局の医療技術はたいしたもんだと感心する。

 部屋の襖を開けて廊下に出る。そういえばリーゼたちの姿が見えない。これから連れて行かれるところに集まっているのだろうか?

 靴に履き替えて玄関の戸をスライドする。と――


「あっ! お前今わたしの肉盗ったでしょ!」

「え? いやリーゼちゃん誤解だオレはそう、白峰の肉を盗ったんだ」

「レージの肉はわたしの肉なの! 焦がすわよ?」

「ええッ!?」

「なんや魔王ちゃん機嫌悪いなぁ。ウチが気持よくさせたるわ」

「ひぅッ!? お、お前どこ触ってんのよっ!」

「俺的にそこの肉もらったぁーッ!!」

「ちょっとそれあたしが丹精込めて育てたやつ!」

「大事なら取られるようなとこに置いとくなよ。面倒なことするな」

「まったく、貴様らはもっと静かに食事できないのか?」


 そうそうお目にかかれないほど立派な日本庭園でバーベキュー大会が繰り広げられていた。集っている面々は監査官や局員で、リーゼやセレスも自然な感じに溶け込んでいる。なぜか桜居がいるけどシカトの方向で。

「誘波、これは?」

「リーゼちゃんたちの新歓ですよぅ。レイちゃんたちの時もやりましたでしょう」

 俺は思い出す。間違って酒に手を出した相棒に「ゆーきゃんふらい!」とか言われて屋上から突き落とされそうになった記憶を……。

「ともかく今日は無礼講です。あ、レイちゃんはいつも無礼でしたねぇ」

 なんか心外なことをほざいてから、誘波はワイワイ騒いでいるグループに混ざっていった。

「ったく」

 肉の焼ける芳ばしい匂いが鼻を刺激し、思い出したように胃が空腹を主張し始める。

「お目覚め安定ですか、ゴミ虫様」

 とそこで、横から声をかけられた。ゴミ虫様で反応するようになった自分が悲しい。

「レランジェ、お前、その腕……」

 昨日は間違いなく両腕がもげていたはずの魔工機械人形に、新しい腕が取りつけられていた。

「自己修復安定ってやつか?」

「流石に損失の大きい部分は修復不可能です。これは監査局につけていただきました。新たな機能を追加の上、魔道電磁放射砲もレベルアップ安定で健在です」

 頑張ったな、異界技術研究開発部。

「あ、レージ!」

「ようやく起きたのか」

 こちらに気づいたリーゼとセレスが駆け寄って来る。

「なかなか目を覚まさないから心配したぞ。体はもう大丈夫なのか?」

「まあな。心配かけて悪かったな、セレス」

 微笑んでそう返すと、セレスは頬をほんのりと赤らめてそっぽを向いた。俺、なんか悪いことしたっけ?

「レージ、これあげる」

 と言ってリーゼはスペアリブが一切れ乗っかった紙皿を差し出してくる。

「ああ、サンキュ」

「わたしを助けてくれたのってレージなんでしょ? これは御褒美だからありがたく受け取りなさい」

 なんともショボかった。落涙するほど大変だったのに……。

「ゴミ虫様に質問があります」

「もうゴミ虫様で安定してきたなお前!」

「魔工機械人形百体分のマスターの魔力を人間が受け切れるとは思いませんでした。ゴミ虫様は何者安定ですか?」

「それはレイちゃんがハーフだからですよぅ」

 と答えたのは両手一杯に肉刺しを抱え込んできた誘波。

「異世界人と地球人とのハーフは、能力が劣化する代わりに最大魔力容量がずば抜けているのです。はむ……ほれはおひょらく、地ひゅう人にょは力りゅう量がひゃ世きゃい人りょりも、ごくん、高いからだと思われます」

「食いながら喋んな!」

 こいつは上品なのか下品なのか時々わからなくなるから嫌だ。

「なんにしてもリーゼちゃんの体調管理はレイちゃんが行うべきですね。レランジェちゃんはどのくらいの周期で〈魔力譲渡〉を受けていたのですか?」

「週に一回で安定です」

「だそうです、レイちゃん」

 マジで全部投げる気だこいつ! まあ、スヴェンみたいにリーゼを利用しようとしないだけマシか。

「わかったよ」

 それにたぶん、これは俺にしかできないと思う。

「なに? レージって魔工機械だったの?」

「違わいっ!」

 酷い誤解だ。謝れ、俺に。

「えー、ここで皆さんに新しいお友達を御紹介します」

 なんか誘波がいきなり転入生を紹介する小学教師みたいなことを言い始めた。

「なんでまたこんなタイミングに――ッ!?」

 どうぞ~、と誘波に促され、建物の影から現れたのは――ピンク色の不定形生物だった。

「うおあっ!? こいつ、スライム」

「まだ生きていたのか。零児、下がるんだ」

「ぬるぬる……ネバネバ……はうぅ」

「マスター、お気を確かに」

「なんで異獣がここにいんだよ、誘波!」

「なに言っているのですか? 彼女は〝人〟ですよ?」


 ……。


 …………。


 ………………。


「「「はぁ!?」」」

 衝撃のカミングアウトに、俺たちどころかバーベキュー大会の参加者のほとんどが驚愕した。

「喋ることができないだけで異獣と決めつけるのはよくないと思いますよ、レイちゃん」

「いやいやいやいや、こいつ俺ら襲ってきたし!?」

「スキンシップだそうです」

「なんじゃそりゃ!?」

 やっぱり異世界人、意味がわからん。つーかさっき〝彼女〟って言わなかったか? 性別あんのかよ。不定形のくせに。

 俺は謎生物をじっと観察する。ぽっとピンク色の体が目に見えてわかるくらい朱に染まった。うわー、ホントに意思や感情があるよ……。

「それと、フフフ、どうやら彼女はリーゼちゃんを気に入っちゃってるみたいですねぇ」

「え?」

 現在進行形で放心状態に移行しかけていたリーゼは、誘波の言葉でハッとした。みるみる顔色が悪くなっていく。相当に嫌らしい。

 うねうねとゆっくりした速度でスライムはリーゼに触手を伸ばす。あ、なんか傍から見ていると「お友達になってください」と言っているように見えなくもない。

「リーゼちゃん、仲良くしてくださいね?」

「無理」

 ふるふると首を横に振って後じさるリーゼ。いつもなら嫌なことがあればすぐ燃やそうとするのにそうしない。どうも最大級のトラウマになったらしく、本能的に逃げに転じているようだ。

 そんな彼女をスライムが触手をうねうねさせて追いかける。

「無理、無理、こんなの、絶対に無理ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 ついにリーゼは全速力で逃げ出した。スライムも負けじと追いかける。あの体でリーゼのスピードについて行けているのが不思議だ。

「ふふふ、鬼ごっこですか? さっそく仲良しさんですねぇ」

「……鬼はお前だ」

 さらにカオスになった現状に俺はうんざりする。たぶん、この場で一番問題山積みなのは俺なんじゃないかな。だって住む家が幻になってるんだぜ?

 直る前に親が帰ってきたらなんて言おうか、と考えながら俺は騒がしいバーベキューに参加した。


「あ、なんだったらレイちゃん、幻覚の家でなく私の家に住みますか? 学校も近いですし、いつでも私とキャッキャウフフって戯れますよ?」

「うっさい黙れ刺し殺すぞいい加減に!」


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