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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第一巻
36/314

四章 壊滅的な死闘(3)

 背中にモミジの刻印をつけられたやつはいても、頬に刻まれたやつはマンガのキャラでない限りそうはいないだろうね。きっちりとした手形で。

「先程はすまない。私としたことが、少々取り乱してしまった。忘れてくれ」

「いやいや、アレは少々どころじゃなかったような気もするんだが――」

「忘れてくれ」

 鬼然とした形相で凄まれると「はい」としか答えられない。

 俺とセレスは監査局のロビーで缶ジュースを飲んでいた。彼女は学校が終わった後、昨日逃がしたスライムの捜索隊に加わっていたらしい。昏睡事件の犯人探しもあるし、まったくもって面倒事が多い。

 気づけば午後六時だ。誘波の無駄なお茶会がいかに長かったのかが窺える。

「昨日訊きそびれてしまったことなんだが、今訊いてもいいだろうか?」

 オレンジジュースを片手に、高校の制服の上から武装したセレスが改まった様子で俺を見詰めてくる。シャワーを浴びた直後の湿った髪や火照った顔が艶めかしい。

「なんの話だっけ?」

「零児が異界監査官をやっている理由だ」

 あーそれか、と俺は適当に頭を掻いて缶コーヒーを一口。やっぱ微糖が一番だ。

「人捜し、かな」

 壁に背を預けて俺は憂い気味にそう言った。

「人捜し?」

「ああ、実は俺、昔相棒がいたんだ。紅楼悠里くろうゆうりっていう名前の幼馴染で、そいつも俺と同じハーフだった。天真爛漫で無茶で無鉄砲で、こうと決めたら大地震があっても考えを曲げない頑固者で、拾った一円玉を交番に届けるくらい正義感が強いくせに横暴で理不尽、それでいてウサギみたいに寂しがりやで、俺をしょっちゅう面倒事に巻き込みやがる女だったなぁ。――ああ、思い返すだけで殺意が湧く」

「その人相棒なのだろう!?」

「懐かしいなぁ。そういや嫌がる俺を監査局に無理矢理引き入れたのはあいつだったっけ。屋上での告白じみたシチュエーションから口にすることも億劫なほどの厄介事の果てに現状面倒臭い事態になってるっつうことは俺が異世界に飛ばされたことも独り暮しがさようならしたことも誘波にいいように弄ばれていることも元を辿れば全部あいつのせいだよな。フフフ、フフフ、フフフフフフフフフフフフフフ」

「すまない零児! 私が悪かった!」

 ハッ! 俺は一体なにを……。

 目の前では怯えた瞳をしたセレスが必死になって俺を揺さぶっていた。どうしたんだ? 幽霊でも出たのか?

「んで、『伊海の紅白殺戮ショー』とまで呼ばれた仲睦まじい俺たちだったんだけどな」

「本当に仲睦まじいのか!? 私はたった今お前の心の内を覗いた気がするのだが」

「一年半前のことだ。ちょっとばかし強力な異獣と戦っていた時、あいつは俺を庇う形で『次元の門』をくぐっちまった。それっきり戻ってきていない」

 あいつのことだから、たとえ未開のジャングルに放り出されていても問題なく生きているはずだ。それどころか自慢の正義感と趣味のお節介が働いて、人助けばかりやっているかもしれない。でも、けっこうな確率でやりすぎるんだよなぁ。喧嘩を止めに入ったら両者とも病院送りにするとか。

 俺はあいつを信頼しているんでね、それほど心配はしていない。まあ、意外なほど寂しがりだったりするから、一人の時泣いてんじゃねえかと気がかりではあるけど。

「だから、俺はあいつを捜している。いつ戻ってきてもいいように、この地球の日本にあいつの居場所を残して」

 この前イヴリアに飛ばされた時はヒヤヒヤしたもんだ。にしても、知り合って間もないやつにここまで話したのは初めてだ。

「その人、無事だといいな」

「まあな。そういうセレスも向こうじゃ行方不明になってるはずだ。無事に元の世界に帰れるように、俺も手伝ってやるよ」

 言うと、セレスは凛と整った顔に柔らかい微笑みを浮かべた。

「存外、零児は優しいのだな」

「お前まで存外とか言うな。こんな虫も殺せないような少年を捕まえて」

「それは誰のことだ?」

 ぷ、とお互いに吹き出し、軽く笑い合った。

「時に、〝魔帝〟はどんな様子なのだ?」

 缶を屑入れに入れつつ、セレスが訊いてくる。何気に彼女も心配していたのだろう。俺は誘波との話も合わせて簡単に説明した。

「なるほど、〝魔帝〟も便利そうで面倒な体を持ったものだな」

 セレスは憐憫を瞳に宿して腕を組んだ。

「もしかすると、俺があいつをこの世界に連れて来なけりゃ、あんなことにはならなかったのかもな」

 あの時、俺は退屈な世界で命を狙われながら生きていくリーゼを不憫に思った。安全で楽しい世界も存在するのだと知ってもらいたかった。結局は彼女が自分の意思でついてきたわけだが、俺が次元を跨がせたことに変わりはない。

「魔力疾患。レランジェ殿は、どうやって治すつもりなのだろうか?」

「そりゃあ、魔力を削るんだろうよ。リーゼの暴走気味の魔力に人間は堪えられなくても、魔工機械なら大丈夫なんだろ。だから〈魔力譲渡〉とかで…………!?」

 言いかけて、俺はハッとした。なぜ今まで気づかなかったのだろう。リーゼは力を使っても魔力は消費しない。だからこそ〈魔力譲渡〉なんて能力を持っていたんだ。

 魔工機械はリーゼの魔力で動く。彼女たちは本来、リーゼが魔力疾患を起こさないために存在していたのではないだろうか。

 そして、あの城にいた魔工機械人形はレランジェ一体だけではない。

 目測だが、百体は軽く超えていたと思う。つまり、それら全てに魔力を分け与えなければリーゼの魔力疾患は防げないってことだ。

『マスターはこのレランジェが命に代えても守る安定です』

 レランジェの言葉が脳裏に蘇る。

「あの木偶人形、知っていながら――くそっ!」

 俺は走った。今朝から相当な時間が経過している。間に合うかどうかはわからない。

 俺の思いすごしならそれでいい。とにかく今は走るしかないだろ。

「零児!?」

 血相を変えて飛び出した俺にセレスが驚きの声を上げるが、いちいち振り返っている暇はない。

 説明している時間も惜しい。よって俺は一言だけで告げた。

「あいつらがやばい!」


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