間章(2)
とある建物の屋内。明かりもついていない薄暗闇の中に、一つの影があった。
時計の針がそろそろ明日への境界を跨ごうとする夜更けに、影は熱心になにかの作業を行っていた。
カチャ。
カチャカチャ。
カチャカチャガチャ。
プラモデルでも組み立てるような音が倉庫のように広い空間に反響する。
「フ、フフフ」
不意に、影から笑い声が漏れた。
月明かりが手元を照らす。そこには数々の工具やガラクタが積み上げられており、影が作業を行っている中心には幾本もの管が走っていた。その中の数本は先端が注射針のように尖っており、全ての管が一様に小瓶らしき容器と繋がっている。
小瓶の中身は、透明色の液体。
「たったこれだけで十数人分か。だが、これだけでも十二分の働きを期待できる」
小瓶を少し揺らす。それだけで、中の液体は水よりも激しく波打った。
「凝縮すれば液体燃料のように使えるとは、まったく、魔力というものは素晴らしい。ラーゲルレイブには存在しない力、それをまさかこんな形で調達できるとは思わなかったな」
気分が高揚しているのか、影は悦に入ったように独り言を弾ませる。
「目途は立った。もう一押しだ。あとはアレを手に入れることさえできればだが……」
小瓶を台の上に置き、影は手を思案するように顎へと持っていった。
「あの〝魔帝〟とやらをものにすれば、目的の達成はもちろん、この忌々しい現状から抜け出すことだって容易だ。なんとしてでも手に入れなければならない。これまでは危険すぎて下手に動けなかったが、こちらは魔力を手に入れ、あちらはどういうわけか自由を失っている。今がチャンスだろう」
フフフフフ、と影は聞く者がいたら底冷えしそうな笑いをする。
「実行は明日の夜。最後の準備を済ませてからになりそうだ」
最後に静かに呟いて、影はその場を立ち去った。