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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第八巻
313/315

四章 贖罪の魔王(1)

 滅罪使徒が漁獲された。

 ちょっとなに言ってんのかわからんかもしれんが、大丈夫だ。俺もわからん。

 嘘だと思いたかったよ。でも冗談でもなんでもなく、漁網に絡まっていた大物は眼帯をつけた翼の少女――滅罪の十二使徒であるマトフェイだったんだ。

 意味がわからず呆然としている間に、マトフェイは最低限の治療だけ施されて次空艦『カエルムイグニス』の中心部から最も遠い牢へと運ばれてしまった。


「思わぬ議題ができちまった。アレをどう処理するか、テメェらの意見を聞かせろ」


 そうして、玉座の間ではそのまま緊急幹部会議が開かれることになったんだ。

 玉座にふんぞり返るフェイラに、横一列に整列した幹部たち。さて食客の俺はどこに立ってればいいのかな? とりあえず隅っこに移動するか。

「どこ行きやがるダーリン、テメェはこっちだろ」

 フェイラが自分の足下を指差して俺を呼んだ。玉座の隣に立てってこと? えー、なんか大臣みたいな立ち位置で嫌なんですけど。

 とかなんとか頭では文句を言いつつも、逆らうのも怖いので俺は渋々フェイラの下へと歩いていく。玉座の横に立とうとしたら――ガシッ! フェイラに腕を掴まれたぞ!

「ここだっつってんだろ馬鹿ダーリン!」

「うわっ!?」

 イライラした口調で叫んだフェイラが、玉座から立ち上がって代わりに俺を無理やり座らせ――

「ちょっ!?」

 自分は俺の膝の上にちょこんと腰を下ろしやがったよ。なにこれどういう状況!

「いや、おま、なにして……」

「い、いいだろ! だ、ダーリンはもうウチと同格扱いなんだから玉座に座るべきなんだよ! で、でででも玉座は一つしかないから二人で座るしかないだろ!」

「なんて無茶苦茶な理論!? てか顔真っ赤になるくらい恥ずかしいならやめてもらえませんかね!?」

「うるせえぞダーリン! とにかくこれでいいんだよ! ほらテメェらさっさと意見を言いやがれ!」

 マジかよ、フェイラのやつ強引に会議を始めちまった。力づくで除けることは……まあ、できなくはないと思う。ほらクレミーがめっちゃ親の仇みたいな目で睨んでるし。けどそれをやるとフェイラとの椅子取り合戦(?)が始まりそうだからなぁ。いつまでも会議ができなくなっちまう。

「……今だけだぞ」

 次は絶対に拒絶する意思を示し、ここは俺が折れて我慢しよう。重くないし。柔らかくてちょっと熱いだけだし。湯たんぽ入りクッションを乗せてると思うことにする。

 最初に発言したのはクレミーだった。

「私は早急に処刑すべきだと思います。敵を生かす理由などありません。これは滅罪使徒を一人消せるチャンスです」

「あたいもクレミーに賛成だ。あたいは頭が悪いからよ、余計な面倒事を増やしてほしくねえ」

 エスカラーチェも腕を組んでクレミーに賛同する。他の三人、正確には二人と一匹は少し考えるように間を置いてから口を開いた。

「ふむ、最終的に処刑することには同意しますぞ。しかし、拷問して聞き出せる情報もありましょう。彼の魔王に人質が有効とは思いませぬが、捕虜にする価値はあるかと」

「ニャオーン」

「あら? プラーミャも捕虜に賛成ですのね。わたくしは即刻処刑派ですの。贖罪の眷属を抱えていては我々の居場所が補足されかねないですの」

 セルモスとプラーミャは生かす方向、ブリュレは処刑する方向の考えか。二対三。このままじゃ処刑の流れになっちまいそうだな。

 静かに瞑目して幹部たち意見を聞いていたフェイラは――

「ダーリンはどうするべきだと思う?」

 なんか、俺にも振ってきたぞ。

「俺が意見出していいのか?」

「いいに決まってるだろ。ウチとダーリンはもう同盟、いや運命共同体みたいなもんだ。寧ろウチらだけで勝手に決めて後でごねられても面倒臭ぇんだよ」

「だったら、俺の答えは一択だぞ」

 口出ししていいのなら遠慮はしない。俺はフェイラを膝に乗せたまま幹部たちを見回し、炎の魔人に視線を固定する。

「セルモスの言う通り、捕虜にすりゃいい。だが、戦いが終わっても処刑はさせないぞ。甘い考えだってことは自分でもわかってるが、〝人〟を殺さないことが俺の曲げられないポリシーなんだ」

 魔王については割り切ったところもあるが、マトフェイは元人間だという話だ。だったら尚更殺したくはない。

「ダッハハハハ! 魔王らしからぬポリシーだな! だが、それがテメェの人間らしい部分ってことならウチは好きだぜ!」

 俺の意見を聞いてフェイラは大爆笑。バシバシと俺の太腿を叩いてくるんだけど、痛いし熱いからやめてほしい。

「さて、ダーリンの意見も含めて三対三か。てことは、ウチの考え次第で決定するわけだ」

 意外にもしっかり多数決するみたいだな。フェイラの一存で決めることだってできるだろうに。

 クレミーとセルモスが挙手する。

「フェイラ様、ベルメリオンが生きていれば処刑派だったと思われます」

「今いねえ奴の〝たられば〟はどうでもいい」

「滅罪使徒、それも十二使徒ですぞ。我々にとって有益な情報を持っている可能性は高いでしょう」

「元々、実力的にはウチらの方が優位だ。ダーリンも味方してくれんなら今さら敵の弱みなんていらねえよ」

 フェイラは、今のところ処刑派にも捕虜派にも傾いてないって感じだな。じっくり考えている。どちらが魔王軍にとって最善なのかを。

 意見の天秤が少しでも傾けば、マトフェイは殺されずに済む。

 だったら――

「おい、ブリュレ!」

「なんですの?」

 俺はもう他人事って感じで議論に興味を示していなかったフリッフリのゴスロリ少女――ブリュレに声をかけた。

「あの約束、今ここで使わせてくれ」

 無論、『ブリュレが俺に一度だけ味方してくれる券』のことだ。ブリュレもすぐに察して目をまん丸に見開いたよ。

「は? 正気ですの? 自分じゃなく敵の命を助けるために使うなんて馬鹿のすることですの」

「いいんだ。どういう形であれ、あいつには助けられたことがある。その借りは返さねえとな」

 真剣に見詰める俺に、ブリュレはバツが悪そうに目を泳がせてから大きく溜息を吐いた。

「……はぁ、わかりましたの。約束は約束。わたくしは捕虜派に転向しますの」

「ブリュレ! 貴様、あの男に弱みでも握られているのか!」

「そういうのじゃありませんの」

 激昂するクレミーに冷めた目を向け、ブリュレはやれやれと肩を竦める。

「わたくし自身の考えが処刑派ということには変わりませんの。ただ、捕虜にするメリットも理解しているんですの」

「ほう、どんなメリットがある? 言ってみろ、ブリュレ」

 フェイラが促す。

「そもそも、滅罪の十二使徒がどうして瀕死の重体で海を漂流していましたの? 最低でもそこを聞き出す必要があると思いますの。でなければ、わたくしたちの認知していない脅威に潰されてしまう可能性だってあり得ますの」

 ブリュレが捕虜派としての意見を告げると、フェイラは納得したように唸って顎に手をやった。

 漁網に絡まる天使というインパクト大な図に思考が飛んでいたが、確かにそうだ。俺もブリュレの意見には賛同するよ。

「そうだな。マトフェイは中二病だし十二使徒最弱らしいが、弱くはなかった。そんな奴があんなにボロボロになってるなんておかしいだろ。他の魔王軍が攻めてきたんじゃないのか?」

 クロウディクスやセレスたちが相手している『概斬の魔王』はないだろうな。となれば、『鐵の魔王』が一番怪しいぞ。

 フェイラが首を横に振った。

「いや、ダーリンよ。魔王がこの世界に入ってくれば流石に気づくぞ」

「俺の時は気づいてなかっただろ?」

「そりゃあ『仄暗き燭影の魔王』のせいだな。奴は〝曖昧〟の概念魔王だ。魔王一人、気取られず送り込むくらい楽勝だろ」

 あいつ、そういう能力だったのか。どおりで存在まで〝曖昧〟に感じられたわけだ。

「だったらそのンルーリ自身が絡んでる可能性は……」

「断言はできねえが、たぶんないだろうな。アレはクソピエロと同じで状況を客席から楽しむタイプの魔王だ。今回のゲームでも直接手ぇ出してくることはないと思うぞ」

 クソピエロ――『呪怨の魔王』グロル・ハーメルンと同じなら、黒幕ムーブで引っ掻き回しそうな気もするんだけどな。現に俺はこの世界にポイされたわけだし。

「ふむ、他に可能性があるとすれば……」

 と、セルモスが腕を組んで俺を見た。

「ダーリン殿を結果的に助けてしまった件に対する罰といったところですかな」

「お前まで『ダーリン』言うな!?」

 だが、あの『贖罪の魔王』ならやり兼ねないな。上位の使徒に歯向かった罪。その結果俺を助ける形になってしまった罪。エルヴィーラ・エウラリアがそれを許したのだとすれば、マトフェイは殺されたってことになる。でも殺し切れずに海を漂流し、『煉獄の魔王』の艦に漁獲された……一番しっくりくる流れかもしれん。

 とはいえ――

「本人の口から聞かない限り結局は予想でしかないぞ。フェイラ、どうするんだ?」

 杞憂ならいいんだが、不安の芽はできるだけ摘んでおきたい。フェイラは数秒の逡巡後、ぴょんとようやく俺の膝から立ち上がってくれた。

「四対二。ウチが処刑側に回っても多数決で負けだな。わかった。あの小娘の処遇はダーリンに一任することにするぜ」

「俺!?」

 まさかの白羽の矢!

「ウチのもんに任せたらうっかり焼き殺しちまいそうなんだ。ダーリンが適任だろ? しっかり尋問してくれよな。ああ、その代わり……」

 ジトーっとフェイラが俺を睨んできたぞ。

「な、なんだよ? 今さらあっちに寝返ることはしねえぞ?」

「う、浮気したら承知しないぞダーリン!?」

「しないよ!? そもそも俺たち友達から始めるって話だったよね!?」

 そんなこんなで、重要参考人のマトフェイを俺が事情聴取することになった。


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