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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第八巻
310/315

三章 煉獄の魔王(10)

 意識が飛んでいた。

 また自分の精神世界に行ったわけじゃない。完全に落ちていたんだ。だから、俺がどうやってあの超大爆発から助かったのかわからない。

 手足の感覚はある。五体は満足のようだな。まあ、首を斬り落とされても復活できた俺だから、実はさっきまで体がなかった可能性もあるわけだが。

「痛っ。無茶苦茶しやがる。どこまで吹っ飛ばされ――なっ!?」

 激痛が走る上体をどうにか起こして辺りを見回し、俺は絶句した。


 辺り一面が真っ赤だったんだ。


 どこを見てもマグマ、マグマ、マグマ。至るところから火柱が噴き上げ、溶解しかけた岩山からドロドロの溶岩が無数に枝分かれした川となって流れている。空気も肺を焦がすほど熱されているし、地面なんてフライパンだ。

 つまり――

「あっつ!? 馬鹿じゃねえの!? 馬っ鹿じゃねえの!?」

 急に体が熱を感じる機能を取り戻して飛び上がる俺。いや、魔力も纏ってない素の状態なのに『熱い』で済んでる辺りおかしいんだけどね。人間辞めた選手権があれば上位に食い込む自信あるわ。

「地獄……いや、〝煉獄〟というべきかな」

 島一つを丸ごと別世界に変えちまいやがった。前まで地平線は見えなかったから、海が蒸発したり流れ込んだ溶岩が固まったりして面積広がってるんだろう。下手すると大陸レベルまであるんじゃね?

 そういえばゼクンドゥムが言っていたな。ゲームの舞台となった旧氷冷世界は炎とマグマに支配されていたらしい。なるほど、こうやって滅ぼされた世界なんだな。

 自然現象だったら仕方ないと諦めるが、これは魔王による破壊だ。

 フェイラには世話になった。戦闘以外では話のわかる奴だってことも知ってる。だが、やっぱり魔王は魔王だ。こういうことを快楽的にやってるんだとしたら、許すわけにはいかない。

「いや、そうじゃないな」

 破壊衝動があるってことはブリュレから聞いてるが、フェイラを見る限りその発散は『戦闘』に集約されている。たた単純に、周りへの被害を考えてないだけだ。楽しく戦った結果、世界滅んじゃいましたまあいいかって感じだ。

 だからと言って許そうとは思わんけどね。それはそれでスーパー害悪だし。

「――というわけで、ここからお前を本気でボコボコにしてやるから覚悟しろ」

 俺は背後を振り返り、溶岩噴き出す岩山に降り立った銀髪竜翼の女――『煉獄の魔王』フェイラ・イノケンティリスを睨み上げた。

「ウチの破局噴火をくらって生きてやがんのは驚いたが……全裸で格好つけられても反応に困るぞ?」

「え?」

 言われて今、気づいた。俺の服、消し飛んでますやん。

「た、タイム!?」

 慌てて手でTの字を作った俺はとりあえずその辺の岩陰に避難した。服! 服! いや探してもあるわけねえわ。炎と溶岩と岩しかねえわ。

 パチンとフェイラが指を鳴らした。やばい攻撃が来る……と思ったら、上空の次空艦からスーツケースみたいな箱が俺の目の前に落ちてきたぞ。

「ウチの眷属も着てる耐火耐魔仕様の服一式だ。戦いが終わればどうせテメエはボロボロになるだろうから、クレミーとブリュレに用意させといたんだ」

 罠、じゃないな。フェイラはそんな小細工をする魔王じゃない。ありがたく着させてもらおう。

 中身は紅いジャケットとズボン、シャツ、それと手袋。可愛くフリルがたっぷりつけられてるのはブリュレの仕業だな。あとで取ってもらおう。

「いいのか? 耐火耐魔って敵に塩を送ることになるぞ?」

「全裸を気にしてテメェが本気出せない方がつまんねえだろ。それに、ウチの火力に堪えれるほど防御力あると思うか?」

 思わないな。せいぜい気休め程度だろう。

 素早く着替える。なんでサイズピッタリなんだ? まさか寝てる間に測られた? まあいいけど。

「待たせたな。第二、いや第三ラウンドか? とにかくこれで決着をつけるぞ」

「ウチもこの姿は長く持たない。名残惜し過ぎるが、決着は望むところだ!」

 フェイラがまた片手を天に翳す。また破局噴火をする気だな。最後に一瞬だけ見えた記憶だと、フェイラ自身が火山となって超大噴火を起こす馬鹿野郎な技だった。

 対抗するには俺も全てのブレーキを取っ払わないといけない。

 そのやり方も、吹っ飛んで頭を打ったおかげかクリアになった思考で思いついた。


 俺の中に封じてある魔王因子――破壊衝動を、少しばかり解放する!


 破局噴火まで僅かな溜めがある。その間に俺は瞑想し、思考を加速させ、精神の奥深くへと潜っていく。

 現れた黒く禍々しい扉に鍵を挿し込み、ほんの少しだけ開くイメージを浮かべる。


 ――壊せ――


 来た。

 アルゴスのような、俺自身のような、そんな〝声〟が。


 ――壊せ殺せ刺せ斬れ引き裂け襲え貪れ奪え踏み躙れ打ち砕け喰らえ燃やせ吸い尽くせ侵せ搾り取れ噛み千切れ縛れ圧し折れ捥ぎ取れ倒せ降せ呑み込め薙ぎ払え磨り潰せ壊せ殺せ刺せ斬れ引き裂け襲え貪れ奪え踏み躙れ打ち砕け喰らえ燃やせ吸い尽くせ侵せ搾り取れ噛み千切れ縛れ圧し折れ捥ぎ取れ倒せ降せ呑み込め薙ぎ払え磨り潰せ壊せ殺せ刺せ斬れ引き裂け襲え貪れ奪え踏み躙れ打ち砕け喰らえ燃やせ吸い尽くせ侵せ搾り取れ噛み千切れ縛れ圧し折れ捥ぎ取れ倒せ降せ呑み込め薙ぎ払え磨り潰せ壊せ殺せ刺せ斬れ引き裂け襲え貪れ奪え踏み躙れ打ち砕け喰らえ燃やせ吸い尽くせ侵せ搾り取れ噛み千切れ縛れ圧し折れ捥ぎ取れ倒せ降せ呑み込め薙ぎ払え磨り潰せ壊せ殺せ刺せ斬れ引き裂け襲え貪れ奪え踏み躙れ打ち砕け喰らえ燃やせ吸い尽くせ侵せ搾り取れ噛み千切れ縛れ圧し折れ捥ぎ取れ倒せ降せ呑み込め薙ぎ払え磨り潰せ壊せ殺せ刺せ斬れ引き裂け襲え貪れ奪え踏み躙れ打ち砕け喰らえ燃やせ吸い尽くせ侵せ搾り取れ噛み千切れ縛れ圧し折れ捥ぎ取れ倒せ降せ呑み込め薙ぎ払え磨り潰せ壊せ殺せ刺せ斬れ引き裂け襲え貪れ奪え踏み躙れ打ち砕け喰らえ燃やせ吸い尽くせ侵せ搾り取れ噛み千切れ縛れ圧し折れ捥ぎ取れ倒せ降せ呑み込め薙ぎ払え磨り潰せ壊せ殺せ刺せ斬れ引き裂け襲え貪れ奪え踏み躙れ打ち砕け喰らえ燃やせ吸い尽くせ侵せ搾り取れ噛み千切れ縛れ圧し折れ捥ぎ取れ倒せ降せ呑み込め薙ぎ払え磨り潰せ壊せ殺せ刺せ斬れ引き裂け襲え貪れ奪え踏み躙れ打ち砕け喰らえ燃やせ吸い尽くせ侵せ搾り取れ噛み千切れ縛れ圧し折れ捥ぎ取れ倒せ降せ呑み込め薙ぎ払え磨り潰せ壊せ殺せ刺せ斬れ引き裂け襲え貪れ奪え踏み躙れ打ち砕け喰らえ燃やせ吸い尽くせ侵せ搾り取れ噛み千切れ縛れ圧し折れ捥ぎ取れ倒せ降せ呑み込め薙ぎ払え磨り潰せ壊せ殺せ刺せ斬れ引き裂け襲え貪れ奪え踏み躙れ打ち砕け喰らえ燃やせ吸い尽くせ侵せ搾り取れ噛み千切れ縛れ圧し折れ捥ぎ取れ倒せ降せ呑み込め薙ぎ払え磨り潰せ壊せ殺せ刺せ斬れ引き裂け襲え貪れ奪え踏み躙れ打ち砕け喰らえ燃やせ吸い尽くせ侵せ搾り取れ噛み千切れ縛れ圧し折れ捥ぎ取れ倒せ降せ呑み込め薙ぎ払え磨り潰せ――


「ぐっ」

 ほんの少しでも気が狂いそうだ。だが、堪えられないほどじゃないぞ。寧ろそのおかげで余計なことを考えなくて済む。

 フェイラ・イノケンティリスを、目の前の敵を蹂躙する。


 斬ッ!


 フェイラの翳していた腕――その肘から先が無慈悲にも切断された。

「なに!?」

 血の代わりにマグマを噴き出すフェイラが驚愕の表情をする。やはり直接剣をぶっ刺した状態での生成はできなかったが、ほぼゼロ距離でなら可能だったことは既に証明されている。だったらそこから斬りつければいい話だ。

「テメェ、雰囲気が変わりやがったか?」

 肘から噴き出たマグマが固まって新しい腕を形成する。よかった。元に戻るんだね。それなら罪悪感も多少は薄れるってもんだ。

「降参するなら早くしてくれよ。今の俺は、お前を斬りたくて壊したくて仕方ねえんだ」

「破壊衝動を解放しやがったのか? ハハハッ! 面白ぇ! テメェはそのくらいの方が丁度いいってもんだぜ!」

 紅い戦鎚を構え、地面を蹴り爆ぜさせて俺へ突進してくるフェイラ。その目の前に無数の刀剣を剣山みたいに設置してやった。

「しゃらくせえ!」

 戦鎚の一振りで剣山が吹っ飛ぶ。が――

「がはっ!?」

 何本もの剣が背中や竜翼に突き刺さったフェイラは、口からマグマの吐血をした。そんな大きな隙、背後から狙ってくれって言ってるようなもんだろ。

「魔力自体は変わってねぇ。チッ、遠慮がなくなっただけで、ここまで違うのか……」

「空中で止まってていいのか?」

 俺は日本刀を突きつけ、魔剣砲を放って追撃する。

「調子に乗んじゃねえぞ!」

 フェイラは口から紅蓮の熱光線(ブレス)を吐き出した。

 拮抗はしない。俺の魔剣砲が一瞬で押し負けてブレスが地面を貫く。だが、その時には既に俺はフェイラの真横へと飛んでいた。

「――ッ!?」

 瞠目しながらもフェイラは手から熱光線を放つ。俺は日本刀を添えるようにして熱光線を()()()と、生成した盾を足場に切迫し、両の竜翼を背中の付け根から斬り放してやった。

「テメーー」

「落ちろ」

 それでも宙に浮いていたフェイラに思いっ切り踵落としを決める。本日二度目となる叩き落としをくらったフェイラは――


「ルォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」


 立ち上がりざまに咆哮し、凄まじい空震を発生させた。

 足場として生成していた盾が次々に粉砕されていく振動の中、俺もフェイラ目掛けて急速落下する。

「さっきと立場が逆転したな! 次はウチが迎撃する番だ!」

 無数の溶岩柱が地面から噴き出す。それだけじゃない。いくつもの小太陽を運動会の玉入れみたいに投げてきやがった。

 でも、悪いな。今の俺には『視』えるんだ。


 どこを斬れば、上手く破壊できるのか。


 落下しながら数本の大剣を生成して射出する。それだけで、魔力だけで黒炎は纏っていないのに、小太陽と溶岩柱は軌道がずれて互いが互いを打ち消し合った。

「なんだと!?」

「火力だけでどうにかなってた頃はもう終わったんだよ」

 俺は空一面にびっしりと刀剣を生成する。これはただの脅し。逃げ場はないぞっていう警告だ。

「テメェと戦り合えて楽しかったぜ、『千の剣の魔王』!」

 最後まで諦めるつもりがないようで、フェイラは焔殺覇を振り被る。俺はフェイラの後ろから生成した剣でその腕ごと斬り飛ばすと――


 着地と同時に、日本刀で強烈な一撃を腹へと叩き込んだ。


「か……は……ッ」

 全身から蒸気を噴射し、第二形態の変身が解けたフェイラがぐったりと俺に倒れ込む。受け止め、確認。息はあるが、ぴくりとも動かないな。完全に意識を断ち切ったようだ。

「安心しろ。最後だけは、峰打ちだ」

 聞こえてるかはわからないが、一応言っておいた。


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