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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第八巻
307/315

三章 煉獄の魔王(7)

 そして、ついに決闘の日がやってきた。

「覚悟はできてるか? 体調も万全だろうな、『千の剣の魔王』!!」

 高い岩山の頂上で仁王立ちする『煉獄の魔王』フェイラ・イノケンティリスが、地上までよく響く大声を張り上げた。

「ああ、おかげさまで調子は最高だ! やる気の方はそうでもないけどな!」

 俺も負けじと地上から言い返す。流石に魔王と魔王のガチンコ勝負を艦の上でやるわけにはいかず、俺たちは見渡す限り岩山だらけのだだっ広い島へと上陸していた。

 島にいるのは俺とフェイラだけだ。空を見上げれば、『カエルムイグニス』を含む『煉獄の魔王軍』の大艦隊が島を取り囲んでいる。俺を逃がさないためだけじゃない。魔王同士がガチで戦り合えば間違いなく『贖罪の魔王』に察知されるからな。それを防ぐための結界を張っているんだ。


 舞台は整った。

 あとは戦いを始めるだけだ。


「遠慮はいらねえ! 全力で戦ってウチを楽しませろ!」

「この戦闘民族が……俺としてはさっさと終わらせたいんでね。これ以上の前口上はなしだ!」

 俺は右手に生成していた日本刀の切っ先をフェイラに向ける。膨大な魔力を集中させ、無数の刀剣へと連続的に変化させて撃ち出す。


 ――〈魔剣砲〉。


 開幕ぶっぱだ。これで決着しても悪く思うなよ。お前に習ったことだぞ。

「ハッ! いい挨拶だ! わかってきたじゃねえか!」

 フェイラも掌から紅蓮の熱光線を放つ。それは俺の魔剣砲と正面から激突し、熱と衝撃を周囲に巻き散らしながら拮抗・相殺した。

 岩山が砕け、周囲の海が大きく荒れる。

「じゃあ、ウチも遠慮なく戦らせてもらうぜ!」

 高くジャンプして飛び出したフェイラが、その手から――ドロリ。紅蓮色に輝く溶岩を生み出したぞ。それは空中で形を変え、巨大な赤い戦鎚となって固定される。


「――燼滅(じんめつ)しろ! 〈焔殺覇(ヴォルカシューラ)〉!!」


 魔王武具だ。こんな序盤から使ってくるとは本気で暴れる気だぞ。

「しっかり受け止めてくれよ! オラァ!!」

 流星のように落下しながらフェイラは戦鎚を大きく振り被る。

「誰が受けるか! 格好の的だぞ!」

 こちらに突っ込んでくるなら刀剣と飛ばして迎え撃つまでだ。高速で生成と射出を繰り返して刃のマシンガンをフェイラにぶつける。

 だが、フェイラは楽しそうに笑ってその悉くを戦鎚で弾きやがった。

「マジか」

 攻撃は中断。即座に空中へ盾を何重にも生成した――が、それらも全て粉砕され、ほとんど威力を削げなかった一撃を俺は日本刀で受けることになっちまったよ。


 ドゴォオオオオオオオオオオオオン!!


 衝撃が全身を突き抜けて地面を大きく陥没させる。あっという間に半径キロ単位の擂鉢状をした大穴が島に穿たれてしまったよ。

「くそっ、なんつう破壊力だ」

 日本刀が折られそうだったので、力を受け流して空に跳んで回避したが……ひえ、魔力を纏ってなかったら一瞬でぺちゃんこだったな。

 だが、後ろを取ったぞ。ハンマーを振り下ろした大きな隙。無防備な背中が丸見えだ。

「気をつけな。ただ砕くだけがウチの魔王武具じゃねえぞ」

「――ッ!?」

 大穴の中心に紅蓮の輝きが見えた。続いて物凄い地鳴りが島全体を包み込む。あ、これはまずい。

 凄まじい爆音と振動と共に、勢いよく噴き上がったマグマが俺を襲う。

 咄嗟に纏う魔力を強くする。分厚い盾を生成し、体を守るように丸くする。俺が『贖罪の魔王軍』から逃げる時に火山を意図的に噴火させたが、フェイラはそれを任意の場所で起こせるってわけだ。

 大きく吹っ飛ばされた俺は岩山に激突。噴火の熱と衝撃は俺の魔力の鎧すら突き抜けてきたが、なんとか堪え切ったぞ。噴火を直でくらって生きてるって冷静に考えたらやばくね?

 おっと、自分自身に戦慄してる暇はない。無数の火炎弾が追撃して来やがった。

「――食い千切れ」


〈魔王武具生成〉――蛇蝎剣(アラクランジ)


 どこまでも伸びる連接剣が、たったの一振りで全ての火炎弾を爆ぜ落とした。いいな、これ。死の瘴気を撒き散らす〈冥王の大戦斧(デス・ファラブノス)〉より断然使いやすいね。

 なんか俺の中で二体の魔王が口論始めたような気がするけど、そっちに意識を割いている場合じゃない。反撃するぞ。

 フェイラの位置は魔力と殺気でだいたいわかる。そこへ向かって〈刄雨〉――無数の刀剣の豪雨を降らせる。魔力もしこたま込めた。広範囲かつ一本一本が岩をも粉砕する威力だ。避けられるもんなら避けてみやがれ。

 キラン、と。俺が狙った岩山の隙間から紅い光が見えた。

 次の瞬間、ズドドドドドドドドォオオン!! 打ち上げられたなにかが俺の〈刄雨〉を爆撃で蹴散らしながら突っ込んで来るぞ。

 赤い戦鎚。〈焔殺覇〉だ!

 ぶん投げられたハンマーがプロペラのように横回転して大量の火炎弾を全方位に乱射してやがるんだ。この一投でちょっとした軍隊は壊滅するぞ。しかも、このままだと寸分違わず俺に直撃するコース。ノーコンだったらよかったのに狙いは正確だな!

 普通の武具で迎撃が不可能なら――

「蛇蝎剣で絡め取るッ!」

 戦鎚自体が核弾頭のようなもんだ。まともに受けるわけにはいかない。連接する刃を操り、タイミングを合わせて戦鎚を締め上げる。

 が、勢いが……落ちない!?

 巻きついた連接剣ごと引っ張られる!? とんでもない膂力だ!?

「く、そったれがぁあああああああああああああああああああああッッッ!!」

 俺は気合いとパワーと魔力を最大限込めに込め、一本釣りの要領でどうにか戦鎚の軌道を逸らす。ルウのやばい薬で強化された身体能力でもギリギリだ。

 戦鎚は百メートルほどずれて着弾したが、そんなものはほぼ誤差だった。

 島の形が変わるほどの大爆発。俺なんて呆気なく吹っ飛ばされたね。蛇蝎剣を思わず手放してしまった。破壊力だけならネクロス以上、いや、俺がこれまで戦ってきたどの相手よりも上だ。

 これが火山の化身、か。

 人の身だったら戦いにすらなってないぞ。『贖罪の魔王』はよくこんなのと何日も小競り合いできてたな。

 遠距離での撃ち合いは分が悪すぎる。さて、どうしたもんか?

 仰向けに吹っ飛びながら腕を組んで逡巡していると、キラリ。空の彼方に紅蓮色の煌めきが……あ、やっべ。

 炎の魔力砲が飛んでくる。一射、二射、三射。格好の的になってる俺目掛けて撃ちまくってらっしゃるよ。

 ひとまず空中に盾を生成し、それを足場にして吹っ飛びを中断。そのまま盾を操って空中サーフィンで急上昇し、魔力砲の連射を回避する。

 だが――

「なっ!?」

 見上げた先にも紅蓮の光。上からも魔力砲か!

 いや、違う。炎は下ではなく、天に向かって細い火柱を上げている。転移だ!

「ハハッ! 器用に避けんじゃねえか! 受け身の戦いに慣れてるだけはあんな!」

 炎が弾けて褐色肌の炎髪少女――『煉獄の魔王』フェイラ・イノケンティリスが姿を現す。その手にはしっかり〈焔殺覇〉を回収してやがるよ。


挿絵(By みてみん)


「ずいぶんと楽しそうだな?」

「ああ、楽しいぜ。『贖罪』のイカレ女はクソみたいな結界や盾で防ぐばっかでイライラするが、テメェとは力と力の勝負ができてるからな!」

「ホント、どうして俺の周りはこうも戦闘狂ばかり集まるかね……」

 力を持つ者の行きつく先の一つなんだろうけど、俺には理解できないよ。

「テメェも楽しめや、『千の剣』――ッ!?」

 次の攻撃を仕掛けようとしたフェイラがピタリと静止した。

「……へえ」

 フェイラの首筋に刃があてられていたからだ。いや、首だけじゃない。両足、股、腹、背中、脇、両腕、頭に至るまで、あらゆる角度から空中生成された刀剣で身動きを封じたんだ。

「ちょっとでも動けば細切れだ。降参しろ」

 でなければトドメの一撃を入れる、と日本刀を突きつけて言外に告げる。ハッタリじゃないぞ。フェイラが纏っている魔力の鎧も相当だが、俺なら斬れるからな。

「フン、なるほどな」

 テンションを下げたフェイラが一つ溜息をつく。手の力も抜いて諦めてくれたのかと思ったが――


「しゃらくせぇッ!!」


 フェイラの全身から噴き出したマグマと炎が、刀剣の檻をドロドロに溶かしながら弾き飛ばしちまった。うそん。

「つまんねぇ真似してんゃねえよ! テメェの力は好きな場所に武器を出せんだろ? だったら最初からウチを串刺しにするべきだった! 甘ぇんだよ、テメェは根本的に!」

「それは俺の倫理が許さねえんだよ」

 倫理云々は嘘ではないが、理由としては半分だ。空中生成は俺の魔力を任意の場所に飛ばしているわけだからな。生成した瞬間串刺しになるような場所にしようと思っても、相手の魔力が邪魔をして上手くいかないんだよ。

 正確には、力の差が大きければごり押しが可能だ。魔王の意思に乗っ取られた時の俺はそうやってネクロスをぶっ刺してたからな。だからフェイラにも理論上できないことはないと思う。俺の魔力が奪われてなくてフルパワーだったらの話だけどな。

「倫理。道徳。モラル。人間らしさの一つだったな。魔王からすりゃ一番縁遠い言葉だが、ウチは嫌いじゃない。でもな、今は殺し合いの最中だ。そういう邪魔なもんは捨てとけよ!」

 フェイラが片手を天に翳す。莫大な魔力が上空に収斂したかと思えば、ボワッ! 灼熱の炎の球体が出現し、凄まじい速度で膨れ上がり始めた。

 炎の中心にも別の球体……マグマだ。巨大なマグマの球が紅蓮の炎を纏っている。まるで太陽そのものだ。

「あっつ!?」

 嘘だろ。魔力纏ってるのに全身を焼かれるように熱い。ちょ、待って! 島の周囲の海から水蒸気が立ち昇り始めたんですけど! 海が蒸発するほどの熱ってなんだよ!

「フェイラさんちょっと落ち着こう!? それ落としたら島どころか星もやばいって!?」

「なにを焦ってんだ? このくらい堪えてみやがれ、『千の剣』。受けるのは得意なんだろ?」

 フェイラが腕を勢いよく振り下ろす。上空の小太陽が一気に落下を始める。重力によってどんどん加速していくぞ。避けるのは無理だ。

 どうする?

 今の俺が、どうすれば防げるんだ?


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