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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第八巻
297/315

二章 異世界サバイバル生活(8)

 生き物のようにうねるパウェルの鎖。その先端の十字架がマトフェイに突きつけられる。よく観察すると鎖は手元が剣の柄になっていて、十字架は刃だ。自在に動く仕組みは鎖が淡い光を纏っていることから魔力だとわかる。

「裏切り? クックック、異なことを。我は熾天の聖女、原罪を赦す者。神に逆らい、地獄の業火で焼かれようとも、アストラムに誓って魔王の剣として在り続けよう」

 マトフェイは十字架の切っ先に怯むことなく、不敵な笑みを浮かべて眼帯をした右目を擦ったよ。すると、パウェルは神父らしからぬウザそうな顔をして舌打ちする。

「相変わらず、なにを言っているのか理解に労します。裏切りではないのなら、下がりなさい。邪魔です」

「だが断る! 我に捧げられし供物は、他の誰にも触れてはならぬ禁忌の匣。貴様こそ、我が断罪の光に裁かれる運命を辿りたくなければ、始まりの地にて血を血で洗う戦場を眺めていることね」

 えーと、たぶん『わたしの獲物だ。巻き込まれたくなければそこで見てろ』って言いたいんだろうね。確かに理解に苦労するよ。

 ピクリ、とパウェルの眉が苛立たしげに逆立った。

「雑魚が。誰に向かって口を利いているのですか? 私は滅罪使徒の第四位。貴様は第十二位(さいじゃく)でしょう。私が『下がれ』と命じれば従うことが道理です」

「さ、最弱じゃないもん! それを今から証明するんだもん! というか、十二使徒に立場の上下関係はないんだから偉そうにしないでよ、この陰険眼鏡!」

 べーと舌を出すマトフェイ。今のは翻訳しなくてもわかるな。二人は少し睨み合っていたが、パウェルの方が先に諦めたような溜息をついたぞ。

「……わかりました。では好きにしなさい。貴様ごと『千の剣の魔王』を屠って差し上げます」

「ふぇ?」

 十字架の先端から放射された光線がマトフェイに直撃。洞窟、今はどっちかと言えば谷の奥へと容赦なく吹き飛ばした。

「あの野郎、真っ先に味方を攻撃しやがった!?」

「当然です。ピーチクパーチクとやかましい鳥は翼を捥いでやるに限ります」

 鎖がうねり、十字架が乳白色に輝いて俺たちに襲いかかる。腹痛で動けない俺に代わって望月が前に出て影刀で受け止めるが、光と影では相性最悪だ。影の刀は一瞬で掻き消され、望月は後ろへと大きく跳び退った。

 そこへ二本目の鎖が伸びる。扇状に振り回された先端の十字架から膨大な魔力の光が放射され、洞窟もとい谷の壁を数キロ単位で刈り取りやがったよ。

 光の斬撃。

 望月はどうにかしゃがんでかわしたが、崩れる崖の上に立っていた神父やシスターたちが悲鳴を上げる。マジで味方にも容赦しねえなこの眼鏡神父!

「くそっ、なんて火力してやがる!?」

 最初に洞窟の天井を吹き飛ばしたのもこの技か。これが第四位? 呪詛女や山姥どころか、筋肉神父すら比じゃないぞ。まだ腹の調子は悪いけど、根性でどうにか戦わないと冗談抜きで死ぬ。


〈魔武具生成〉――日本刀。


 使い慣れた武器ならほぼ無意識で生成できる。立ち上がって疾駆し、身が出てしまわないよう気合いで踏ん張って日本刀の刃を叩き込んだ。

 まあ、当然鎖で防がれるよね。今のへなちょこな剣なんか。

「力を半分以上奪われているとはいえ、これが『魔王』ですか? 弱い。弱い弱い弱い! 弱いにもほどがありますよ!」

「ぐあっ!?」

 腹を靴の裏で抉られるように蹴り飛ばされた。吹っ飛んだ俺は背中から岩壁が陥没するほど叩きつけられる。あ、やば、ちょっと出たかも……。

「エルヴィーラ様と比較することすらおこがましい! 滅びなさい!」

 二本の鎖十字がパウェルの頭上で先端を向け合うように静止する。魔法陣が何重にも展開され、凄まじい光を放つ球体が十字架の間で膨れ上がっていく。

「これは流石に詰みね」

 近くに立った望月が苦笑いを浮かべていたよ。アレを喰らったらこの辺り一帯が消し飛びそうだ。今、満足に動けるのが望月だけだってことなら――

「望月、転移してくれ」

「無理よ。クールタイムがあるから連続使用はできないわ。それに、恐らくどこの拠点に転移しても待ち伏せされているでしょうね」

 肝心な時に使えないな。確かスヴェンが作った魔導具だっけ? あのクソメガネ! まあでも、拠点にしか転移先を指定できないならどこも同じだろうね。

 仕方ない。

「だったら望月、ルウを抱えて飛んで逃げろ。時間は、俺がどうにか稼ぐ」

「わんこさん……悪いけど、そうさせてもらうわ」

 望月はその場で影の転移を使ってルウの下へと戻り、背中に担いだ。影の翼を広げ、振り向くことなく飛んで行く。薄情な奴だが、元々は敵同士。それでいい。

「仲間を逃がしましたか。構いませんよ。我々の目的は貴様ですから。雑魚は後でいくらでも狩ることができます」

「そうかよ。見逃してくれてありがとう」

 プルプルと震える足で立ち上がり、日本刀を構える。もう漏らすのも厭わず戦うしかないな。そうすれば相打ちくらいなら取れるかもしれん。

 俺がそう覚悟を決めた時だった。


「クロイス・デス・ズューデンス、澄み渡る明光よ、聖なる十字よ、罪を裁け。破邪の槍!」


 光の槍が谷の奥から飛び、パウェルの光球を貫き爆発させたんだ。それだけで爆風が衝撃波となって荒れ狂い、周囲の岩が風化現象を超速再生するかのように削れていく。

 焼け焦げた翼を引きずるようにして、二丁のサブマシンガンを抱えた少女が戻ってきた。

「使徒マトフェイ、どういうつもりですか?」

「女神ルナ・ピエーナはかくのごとき語った。そこに在る我らが王敵は、熾天の聖女にこそ裁かれるべき罪人だと」

「誰ですか、そのルナなんとかとは?」

 呆れた様子のパウェルに、マトフェイはサブマシンの銃口を突きつける。仲間割れか? よしよし、いいぞもっとやれ。お前らが身内で手柄争いしてるうちに俺たちはこの場から離脱を――

「まあ、いいでしょう。どの道、貴様もまとめて処理するつもりですし。少しは抵抗された方が面白いというもの!」

 パウェルの光球が、復活した……だと? いや、違う。爆発はしたものの最初から消し飛んでいなかったんだ。手負いの第十二位(マトフェイ)の攻撃程度では、第四位(パウェル)の力を相殺することもできなかった。

 万策尽きたのか、マトフェイも顔を真っ青にしているよ。

「さあ、懺悔をするなら今が最後ですよ」

 俺たちの絶望を楽しむようにパウェルが醜悪に嗤った――その時だった。


「だったら先にテメエから悔い改めな!」


 空から紅い雷が落撃し、パウェルの光球が今度こそ爆散した。

「――ッ!?」

 さっきよりも強烈な爆風が吹き荒れる中、どしりとした巨漢のシルエットが落下。着地の衝撃で爆風をも吹き飛ばしたぞ。

「なんだ、新手か!?」

 砂塵が晴れる。まず、雷神のような太鼓つきの輪っかが見えた。それが赤銅色の肌をした筋骨隆々の背中から生えている。がっしりとした腕を組んだ半裸の男は、『煉獄』の次空艦に乗っていたのを遠目で一瞬だけ見た覚えがある。

「これはこれは。『煉獄』の魔王軍大幹部――『獄門天』が一人、ベルメリオン殿ではありませんか」

 慇懃無礼にパウェルは一礼した。『煉獄』の魔王軍。奴にとってはずっとこの世界で争っていた不倶戴天の敵で、俺たちにとってもやっぱり普通に敵だ。

「悪いな。俺はテメエの名前なんざ知らん。礼儀がなってねえのは勘弁してくれや」

 雷神男――ベルメリオンは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。あのパウェルを完全に下に見てやがる笑みだ。パウェルもそれを察したようで、額に何本も青筋を立てながら眼鏡のブリッジを押さえた。

「聞かせてもらえますか? どういうつもりで我々の邪魔をしたのか」

「ハン、決まってんだろ。『千の剣の魔王』は俺たちの獲物だ。退かないなら先にテメエらから焼き尽くすことになるぜ?」

「面白い。やってみてくださいよ!」

 パウェルが二本の鎖十字を操ってベルメリオンに向けて飛ばす。ベルメリオンは背中にある太鼓の輪っか――確か連鼓(れんづつみ)とかいう名前だったはず――に両手を伸ばし、甲でドドンと雷鼓を叩いた。

 バチリと紅蓮色のスパークが発生し、ベルメリオンの両腕が紅い雷を纏う。その腕で左右から迫る鎖十字を殴り飛ばすが――

「滅びなさい!」

 十字架の先端からあの光の斬撃が飛ぶ。だが、ベルメリオンが背負った全ての雷鼓から紅蓮の雷が爆発的に放電。光の斬撃を絡め取るようにして拮抗し、そしていとも簡単に消し飛ばしたぞ。

 嘘だろ。なんて威力だ。

「馬鹿なっ!? 私の斬光を容易く弾いただと!?」

「お前らのほとんどは人間から()()()()()()だけの眷属だろう? 魔王の力から生まれた『真の眷属』との格の違いってもんを見せてやんよ!」

 ドドン!

 手の甲で雷鼓が叩かれる。今まで以上の放電を見せた紅蓮の雷が頭上で収束し、龍のような胴長の爬虫類っぽい生物を形作った。

「テメエらは群れなきゃ俺たち『獄門天』には敵わねえ。一人でいてくれて助かったぜ」

 龍の内部で凄まじいエネルギーが渦巻いている。わかっていたが、ただの雷じゃないぞ。まるでマグマの近くにいるような熱波が俺にまで届いてくる。炎の性質と雷の性質。両方を兼ね備えているんだ。

「あばよ」

 雷炎龍が咆哮し、その凶悪な顎を開いてパウェルへと襲いかかる。

「あ、あり得ない! 私は滅罪使徒パウェルですよ! このような雑魚に負けるはずがありません!」

 鎖十字で光の斬撃を飛ばし抵抗するパウェルだったが、雷炎龍の威力を多少削いだところで暖簾に腕押し。抵抗虚しく呑み込まれ――


「がぁあああぁあああぁぁぁあぁあぁあッ!?」


 体が一瞬で黒ずみ、崩れ、骨も残さず灰燼と化しちまった。乾いた風がパウェルだった灰を掃除でもするかのように吹き飛ばす。

「そ、そんな、使徒パウェルが一撃で……?」

「なんて強さだ」

 圧倒的だった。同じ魔王軍の幹部でも、『贖罪』と『煉獄』じゃここまでの差があるのかよ。

「あー、よし、邪魔者は消えたな」

 コキリコキリ。まるで今まで準備運動でもしていたかのような軽さで首を鳴らし、ベルメリオンが俺に振り返った。

 ああ、そうだよな。

 次は、俺の番だ。


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