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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第八巻
288/315

一章 旧異端世界エレジャ(4)

 パキパキと木の中の水分が熱されて弾ける心地いい音を聞きながら、俺たちは洞窟の外で焚火を囲んでいた。

 どうやらここは小さな島だったみたいだ。焚火にくべる薪を拾えるくらいの自然が残っていたのは助かったよ。

 周りは暗い海がどこまでも広がっている。遠くに島の影すら見えない。さっきまでいた戦場がどっちの方角なのかさっぱりわからないな。まあ、見晴らしはいいから敵が来ればすぐに発見できるとポジティブに考えておこう。

「食い物が、五臓六腑に沁みる……」

 ルウから貰った焼き鳥の缶詰をつつく俺は、久々に感じる食事に思わず感声を漏らしてしまった。いつから食ってないんだっけ? フィア・ザ・スコルピの毒にやられちまってからだから、最低でも三日は経ってるんじゃないかな? よく空腹状態であれだけ動いて勝てたもんだよ。

「おお! いい食いっぷりだな、レイジ! もう一個いるか?」

「貰う」

 ニカッと笑ったルウが俺に焼き鳥缶を追加で差し出してくれた。『王国』は本来敵なんだが、ルウみたいに憎み切れない奴もいるから今後困りそうだ。

 ふと視線を横に向けると、退屈そうに焚火を眺めていた望月と目が合った。

「望月は食べないのか?」

 俺とルウだけがガツガツ缶詰開けてるんだけど……もしかして、俺が食ってる分ってルウのじゃなくて望月のだったりする? だったら悪い気がしてきたぞ。

「ふふっ、私は〝混沌〟よ。わんこさんたちみたいな下等生物と違って、食事をする必要なんてないの」

 なんかめっちゃ見下された。でもそうか、望月は見た目こそ人間だけど中身は〝混沌〟――生物と言っていいのかすら謎な存在だ。

「上等生物に進化すると美味いもん食えなくなるなら、俺は下等生物のままでいいや」

「……しなくていいだけで、食べることはできるし味もわかるわ。私のベースは『望月絵理香』という人間なのだから」

 ふいっと顔を背ける望月。あれれー? 瘦せ我慢してるように見えますね。本当は食べたいんだろうか?

「なら食えばいいだろ」

「そうだぜエリカ、一人だけ除け者にしてるみたいで嫌な気分だ! 飯はみんなで食った方が美味いって知らないのか?」

「遠慮しておくわ」

 ルウも援護射撃してくれるが、望月は頑なに拒否。ムッとしたルウが自分の食べかけをぐいぐい望月のほっぺに押しつけ始めたぞ。

「なんでだ!? そういえばこの世界に来てからエリカなんも食ってないよな? 缶詰嫌いなのか? それともダイエット中か? そっちかー、太腿ふっくらしてるもんなー!」

「わんこさん、釣り竿を生成してくれないかしら? ちょっとルウちゃんをエサにして大物を釣りたい気分になったの」

「やめろーッ!? あたしは不味いからーッ!? 不味いからエサになんないからーッ!?」

「釣り竿は武具として認識してねえから生成できねえよ」

 望月にも混沌(おとめ)心はあるんだな。影の帯で簀巻きにされてるルウには合掌でもしておくよ。南無。

「魔王が二体もいるこの世界で何日過ごすのかわからないのに、必要のない食事で食料を無駄にするわけにはいかないでしょう?」

 ルウを解放して座り直した望月は呆れた口調でそう言った。

「……」

「なにかしら、わんこさん?」

「いや、味方になってみると意外と望月ってまともなんだなって」

「あら? 殺してほしいのならハッキリそう言えばいいのに」

「全く全然殺してほしくないです!? 超生きたいです!?」

 不敵に笑う望月は冗談のつもりなのかもしれないが……目が本気なんだよ! だから俺も本気で命乞いをします!

「とにかく、わんこさんたちは食べないと死ぬのだから、残りの食料は計画的に――」

「あっ」

 リュックサックの中をガサゴソしていたルウが変な声を漏らした。

「ルウちゃん?」

「な、ななななんでもないぞ! 今レイジが食ってる缶詰が最後の一個だったとかそんなことないからな! ホントだぞ!」

「……」

「……」

 嘘だ。

 真っ赤な嘘だ。なぜならルウの目がバッシャバッシャと豪快に泳いでるから。

「やっぱり、釣りをするしかないわね。ルウちゃんで」

「魚なんているのか? 滅んだ世界だぞ」

 食料問題の解決は急務だ。滅びた世界に魚や野生動物が果たして生き残っているのか? 食える植物や果物なんかが自生しているのか? やばいな。ガチのサバイバルになってきたぞ。うっ、母さんの修行を思い出す……。

「わふっ!? あ、あたし食べ物探してくる!?」

 身の危険を感じたらしいルウが顔を真っ青にして飛び出して行ったよ。夜で真っ暗だけど、あいつは狼だからまあ大丈夫だろう。

「まあいいわ。餓死するのはわんこさんたちだけだし、私が頭を悩ます意味がなかったわね」

「よくねえよ仮でも仲間だろ助け合いしろよ!?」

「私、餓死していく人間がどんな顔するのか見たことないのよね」

「俺もねえよ興味持つなよこっち見んな!?」

 ん? よくよく思えば今って望月と二人っきりだぞ。嫌だよ隙あらば俺を殺そうとするサイコ女と一緒とか……いや待て普段からそうじゃね? 殺戮メイドが俺の命狙ってるの日常だったわ。ならよかったあんしーん。ルウ様早く帰って来てぇーッ!?

「そ、そうだ。ここってどこの世界になるんだ?」

 状況が俺の(たま)()り計画な流れになってしまう前に話題を変えねば!

「わんこさんは知ってて来たわけじゃないの?」

「いや、俺は急にここに飛ばされたからな」

 俺はこれまでの経緯を簡単に説明した。最初は旧自由世界を選んだこと。そこで生き残っていた原住民と協力し、『蛇蝎の魔王』を討ち倒したこと。その直後にいきなりこの世界へと転移させられちまったこと。だからここもゲームの舞台となっている世界のどこか、くらいしかわからない。

「……なるほど、魔王が既に一体減っているのなら重畳ね」

 望月は形のいい胸を持ち上げるように腕を組むと、視線を暗い海の水平線へと向けた。

「旧異端世界エレジャ。それが私たちの今いる戦場よ」

 ゲームの舞台となった五つの滅びた世界。旧異端世界エレジャはその内の一つで間違いない。名前からして世界全体で邪神とか崇めてたんじゃないかって思うほどやべー臭いがするけど……既に滅んでいる以上、そこを心配する意味はないな。

「この世界で争っている魔王は、わんこさんも知っての通り――『煉獄の魔王』と『贖罪の魔王』よ。他の魔王は恐らくわんこさんしか来てないわ」

 それを聞いても安心できない。魔王単体だけでも死ぬほど脅威だってのに、軍を率いている上に二人もいるとか悪夢以外のなんでもないぞ。

 しかも――

「どっちも序列は俺が倒した『蛇蝎の魔王』より上なんだよな。互いに潰し合ってくれるとちょっとは楽なんだが」

「そうね。でも、そう単純にはいかないわ。両者の力は拮抗しているようだし、なによりわんこさんがこの世界にいることを知られてしまった。恐らくわんこさんを先に潰して力を奪いにかかると思うの。私が魔王ならそうするわ」

 望月もある意味では魔王みたいな存在だよな。〝影霊女帝〟って言われてるんだし。話が逸れるから黙っとくけど。

「『煉獄の魔王』の方が強いってわけじゃないんだな」

「強い弱いで考えるなら『煉獄の魔王』の方が圧倒的に強いわ。だけれど『贖罪の魔王』は軍勢で優っているし、なによりこの世界と相性がいいみたいなの」

「世界と相性がいい?」

「力を増幅させてるってこと。旧異端世界……もしかすると、ここは『贖罪の魔王』が滅ぼした世界なのかもしれないわ」

「――ッ!?」

 さらっとなんでもないように言われた言葉に、俺は目を見開いた。

「……どういう、ことだ?」

「魔王によって滅ぼされた世界は、その魔王の魔力が色濃く残る。自分の要塞で敵を迎え撃っているようなものと思えばいいわ」

 その理屈なら『蛇蝎の魔王』もそうだったのか? いや、戦ったのは影響を受けていない地下だった。もし地上の毒沼地獄で戦争していたら負けたのは俺たちだったかもしれない。そう思うと鳥肌が立つよ。

「まさか、ゲームの舞台に選ばれた世界って……」

「参加している魔王がかつて滅ぼした世界、というのが『王国(わたしたち)』の見解ね。私たちが最初に渡った旧氷冷世界は炎と溶岩ばかりだったから、『煉獄の魔王』が滅ぼした世界と考えるのが妥当かしら」

「となると、組み合わせによっては最悪かもな」

 炎や溶岩の世界+『煉獄』の魔王軍なんて一番わかりやすい。そんな相手有利の戦場で戦ってたら残機がいくらあっても足りやしないぞ。

 この世界で倒しておけるなら倒したいが、まだ情報が全然足りない。

「具体的にそれぞれの魔王軍の戦力ってどのくらいなんだ?」

「目測だけれど、『煉獄』の魔王軍はせいぜい五千ってところね。それを『獄門天』と呼ばれる六体の幹部が指揮している。雑兵ですら一体一体が馬鹿みたいな火力を持っているから、戦う時は気を抜かないことよ」

 あの時、ちらっと見えた連中が幹部で間違いなさそうだな。六人だったし。

「『贖罪』の魔王軍は文字通り桁が違うわ。最低でも十万はいるんじゃないかしら? 幹部は『滅罪使徒』と呼ばれていて、ざっと百人はいるわね」

「いや多すぎだろ!? どう考えてもそっちの方がやばいわ!? 魔王軍幹部が百人とか無理ゲーにも程がある!?」

「『滅罪使徒』の中でも階級があるみたいよ。小競り合いに紛れて何体か消してみたけど雑兵に毛が生えた程度だったわ」

 またさらっと怖いこと言ってるよ。

「とはいえ、注意すべきは最高幹部の〝十二使徒〟。そいつらだけは別格ね」

 十二人か……なんにせよ多いなぁ。やだなぁ。そいつらはどうせ『四害蟲』より強いんでしょ? パワーのインフレを感じます。

「既にやる気失せるぞ。俺たちだけでどうしろってんだよ」

「あら、わんこさんは正面からまともに戦うつもりだったの?」

「そんなわけないだろ。けど、まともじゃない方法っつってもなぁ。やっぱりどっちかと同盟を組むとか?」

 訊くと、望月はふふっと不気味に笑って楽しそうに――


「あ ん さ つ ♪」


 どこか艶めかしく区切り区切りに答えた。

「可愛く言ってもこえーよ!?」

 魔王さえ倒せればいいと言えばそうだが、そんな簡単に行くわけがない。でも正面突破よりは可能性ありそうだな。

 と、ズルズルズルズルゥウウウウ!

 なんだ? なにか大きな物体を引きずるような音が聞こえてきたぞ。


「おう! お前ら! でっかいイノシシ狩ってきたぞ! これでしばらくは大丈夫だな!」


 ルウだ。満面の笑顔のルウが、小山ほどもある黒いイノシシ……イノシシ? なんかマンモスみたいな牙を生やして、目が三つあって、背中にステゴサウルスみたいなと突起がある怪生物を片手で引きずって来たんですけど。

 俺は表情筋が引き攣った。なんでこんな小島にこんなモンスターがいるのかとか、俺の前でおすわりして尻尾をぶんぶん振り回すルウが褒めてほしそうな顔をしてるとか、いろいろ気になるけどなにより――

「いや、食えんのこれ……?」

 そこが一番、心配だった。

「ふふっ、食べるしかないわね」

「面白そうにこっち見んな!?」

 チクショウ。正面突破にせよ暗殺にせよ、今のままじゃ無理なのはわかってる。まずは体力を回復させて、チャンスを待つしかないんだ。

 やってやろうじゃねえか、修行以来のサバイバル生活を!


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