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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第七巻
281/314

五章 VS蛇蝎の魔王軍(12)

 暗い。

 前後左右に上下の感覚もない闇一色の世界に俺はいた。知っている。覚えている。ここはかつて俺がアルゴス・ヴァレファールと初めて対話した場所――俺の精神世界だ。

 どうしてここに? 俺は今『蛇蝎の魔王』フィア・ザ・スコルピと戦って……そうだ。確か俺はあの野郎に首を刎ねられそうになって、それから、どうなったんだ?


「刎ねられそうになって、じゃなくて刎ねられたんだよ」


 この声はアルゴス――じゃない!?

「アハハ、君はたった今死んだのさ。無様にもね」

 振り返る。砂色の髪をした生意気そうな少年が、ニチャリとした笑みを浮かべてそこにいた。

「ネクロス・ゼフォン!? なんでお前が……じゃあ、ここは俺の精神世界じゃなくてあの世ってことなのか?」

「いいや、君の精神世界で合っているよ。ここにいる僕は君が僕から奪った魔力。そこに宿っていた意思さ」

 ネクロスの背後。闇の中から、砂色をしたでかいクリスタルが滲み出るように現れたぞ。どういうわけか黒い鎖みたいなもので雁字搦めにされているが、正体はすぐにわかった。

 あのクリスタルは、俺が〈吸力(ドレイン)〉したネクロス・ゼフォンの魔力そのものだ。

 どういうことだ? とっくに俺の魔力に変換されたと思っていたんだが……?

「不思議そうな顔をしているね。魔王の魔力がそう簡単に塗り替えられると思っていたのかい?」

「いや、現に俺はリーゼの魔力を自分のものにして使ってるんだが?」

「完全に、じゃないだろう? 現に元〝魔帝〟の意識はなかなか消えずに残っていた」

 それは単純に量がべらぼーに多いからだと思っていたが、変換のしにくさもあったのか。

「まあ、別にそれだけじゃないけどね。見ての通り、僕の魔力は元〝魔帝〟によって封印されている。二つの強大な力が一つの器に存在するのは危険だと判断したんだろう。だから変換されることもないし、〈異端の教理(ペイガン)〉を解除した後はずっと使われることもなかった」

 待って初耳!? アルゴスがネクロスの魔力を封印していた? そんな話これまで一度もしてなかったぞ。墓場まで持っていくつもりだったのかよ。いやもうアルゴス死んでるけども。

 ネクロスの魔力が使われていなかったのなら、疑問が一つ。

「だったら、なんで今更お前が出て来るんだ?」

「君が普段から使っている〝魔帝〟の魔力が激減したからだよ。おかげで元〝魔帝〟の意識が消え去り、僕がこうして表層意識に顕れることも可能になったわけさ」

 てことは、グロルの野郎に力を奪われたせいかよ! 余計なことされたから余計な問題が増えちまったじゃねえか! 今度会った時に殴る回数は一発じゃ足りないな。

「……事情はわかったよ。で、俺になんの用だ?」

「わかり切ったことを訊くね。このままじゃ君、本当に死ぬよ?」

「首を刎ねられたんだろ? もう死んでるじゃないか」

「アハッ、なに自暴自棄になっているのさ。この『柩の魔王』の魔力を有しておいて、()()()()で死ねると本気で思っているのかい?」

「は?」

 なに言ってるんだこいつ? いいか、生き物ってやつは首と体がバイバイしたら普通死ぬんだぞ。

「僕は〝死〟の概念から生まれた魔王であり、不死者だ。君の奪った力は()()()()()()だということさ」

「不死……?」

 いやお前死んでるじゃーん! っていうのはちょっと違うか。普通じゃないネクロスを普通じゃない力で倒したからな。〈吸力(ドレイン)〉したことでこいつの力が俺に備わってしまったのなら――

「俺はまだ、生きてるのか?」

「だから言ったでしょ? このままじゃ死ぬって。まあ、僕に恥辱を舐めさせた君が死ぬのを黙って見てるのも面白かったんだけど……『蛇蝎』ごときに殺されるなんて、まるで僕が奴より格下みたいで気に入らない」

 ネクロスはずっと浮かべていた不敵な笑みを消し、真顔になって俺を見据える。


「白峰零児。『千の剣の魔王』よ。死にたくなければ、敵に勝ちたければ――僕の力を解放しろ」


 ネクロスの、『柩の魔王』の力を解放する?

「……」

 俺は砂色のクリスタルを見る。アレに絡みついた鎖を解けば、俺は九死に一生を得る上に、魔力も増大する。新しい力だって得るかもしれない。確かに、それだけ聞くと悪くない話だ。

 でも――

「どうしたんだい? 迷う意味がわからないな」

「お前の力を解放したとして、俺は俺でいられるのか?」

 また、あの時みたいに『魔王』の俺が出て来るのだとしたら考え物だ。

「アハッ! なるほど、そういう心配か。安心しなよ。僕は全力で君を乗っ取りに行く!」

「これっぽっちも安心できねえ!?」

 こいつ野心というか欲望というか、全く隠さないな。まあ、おかげで俺が正気さえ保っていれば大丈夫だってことはわかった。

「ほらほら、ここは時間の流れが緩やかだけど無限じゃない。いつまでも悩んで死ぬなんてマヌケが過ぎると思わないかい?」

 他に手がないことも事実。

 ネクロスが俺を乗っ取ろうとしたって構わない。逆に屈服させてやるだけだ。

「……わかった。だが、お前に乗っ取られたりはしないからな。どんなに暴れようとも抑え込んでやるよ」

「大した自信だね」

「俺は〝魔帝〟の破壊衝動だって乗り越えたんだぞ? それに思いついたことがある。お前の魔力を俺なりに扱うやり方をな」

「へえ、面白い。見せてもらおうじゃないか」

 俺はニヤリと笑うネクロスの横を通り過ぎ、砂色のクリスタルに片手を翳した。鎖の解き方はわかる。というか、この鎖自体も俺の魔力なんだ。

 パキリ、と鎖に罅が入る。

 そして一気に、砕け散った。


「――ッ!?」


 気がつくと、元の船底に俺は倒れていた。

 ちょん切られたはずの首は……よし、どういう理屈か知らんがとりあえず繋がってる!

「あぁ?」

 俺を完璧に殺したと判断したらしいフィア・ザ・スコルピは、背を向けていた。俺の魔力が上がったことには気づいたらしく、首だけこっちを振り向いて目を見開いているよ。

 隙だらけだ。

 俺はすぐに起き上がると、新しい魔力を右手に集中させる。イメージを固める。使い方はネクロスの魔力が教えてくれる。

 生み出すのは、二つ目の異能武器。


「〈魔武具生成〉――来い、〈()()()()()()〉!」


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